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妹の帰省
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アイレットは私ではなくてもと申し出たが、結局、押し切られてヒルズ王国に行くことが決まり、迎えが来ることになった。さすがにヒルズ王国の資料などは教会に持って来てはいなかったため、約一年ぶりにマスタール侯爵家に帰ることにした。
フォリッチ公爵家を訪ねていたように、オプティ王国の教会の修道女は申請を出す必要はあるが、家に帰ることも可能である。
アイレットの場合は、教会に入った時点で、貴族令嬢ではないが、アイレット・マスタールと告げても問題はない。
教会の裏に、マスタール侯爵家とは分からないようにした馬車がそっと迎えに来ており、アイレットは有難く乗って帰ることにした。
「おかえり」「おかえりなさい」
「ただいま帰りました、馬車をありがとうございました」
アイレットを待っていたのは嬉しそうな両親であった。
「馬車くらいいつでも用意する。元気にしていたか」
「あなた、こんなところより、お茶くらいはいいかしら?」
「はい…」
応接室に移動したアイレットはにこやかな両親に、何かあったのかと思ったほどであったが、両親はただ帰って来た娘が嬉しいだけであった。
「身体は壊していないか?」
「はい、元気に過ごしております」
「本を取りに来ると書いてあったが、ある分で足りるか?」
「はい、ヒルズ王国の教会に買い物の授業を教えに行くことになりまして。もう一度、歴史やマナーを復習しておこうと思いまして」
「おお、そうなのか!」「素晴らしいことじゃない」
両親も何度か礼拝のついでに姿を見に来ており、全く会っていないというわけではない。買い物の授業のトングやトレーは母が寄付してくれたものである。
「私ではなくてもと思ったのですが、発案者が行くべきだと皆に言われまして…」
「何か、手伝えることはない?トレーやトングは嵩張るわよね…」
「見本はいくつか持っていきますが、粘土などの材料は、フォリッチ公爵が用意してくださるそうで、持っていく予定にはなっているのですが、あちらのお店がどのようになっているかを、見てからの方がいいかと思っております」
パン屋になるかは分からないが、そもそも店がどのような雰囲気なのかは、国によって違うかもしれないと、お国柄に合わせた方がいいと思っている。
「そうね」「それは、そうだな。どのくらいの予定なんだ?」
「一応は、一週間程度となっています」
「あの授業は為になるから、きっと受け入れて貰えるだろう」
夫妻も買い物の授業を見学したことがあるが、牧師からアイレットが発案したものだと聞かされて驚いた。それで母は何か力になりたいと言って、不足していたトレーとトングを寄付して貰ったのだ。
「おそらく、ローグレイン大公閣下が進言されたのではないかと思います」
「大公閣下が?」「お会いしたの?」
「はい、視察にいらして、ご案内しました」
「そうだったのか、それは是非、頑張って来なさい」
「何か必要なものがあったら、言って頂戴ね」
「ありがとうございます」
アイレットは部屋に本を取りに行き、残された両親はローグレイン大公閣下が視察に行ったことは知らなかったが、姉妹で天と地のような関係だなと思った。
「しっかりやっているようで安心しました。アデリーナのことはおそらく知らないようですね」
「知らなくていいことだ」
「ええ、アイレットは自分の手で掴んだものをしっかり行っているのに…」
「アデリーナもそろそろ現実が見えてはいないのか?」
「兄たちに自分だけが不幸かのように言っていたそうですが、相手にしなくなってからはメイドに言っているそうですわ、メイドの愚痴をメイドに」
「はあ…フィーストはどうにか結婚出来そうになったというのに」
フィーストはルミナにこれからも何かあったら相談してからという約束の上で、ようやく結婚の許可が得られて、来年結婚することが決まっている。ルミナの希望でクリスティアナ教会で式を挙げることになっている。
フォリッチ公爵家を訪ねていたように、オプティ王国の教会の修道女は申請を出す必要はあるが、家に帰ることも可能である。
アイレットの場合は、教会に入った時点で、貴族令嬢ではないが、アイレット・マスタールと告げても問題はない。
教会の裏に、マスタール侯爵家とは分からないようにした馬車がそっと迎えに来ており、アイレットは有難く乗って帰ることにした。
「おかえり」「おかえりなさい」
「ただいま帰りました、馬車をありがとうございました」
アイレットを待っていたのは嬉しそうな両親であった。
「馬車くらいいつでも用意する。元気にしていたか」
「あなた、こんなところより、お茶くらいはいいかしら?」
「はい…」
応接室に移動したアイレットはにこやかな両親に、何かあったのかと思ったほどであったが、両親はただ帰って来た娘が嬉しいだけであった。
「身体は壊していないか?」
「はい、元気に過ごしております」
「本を取りに来ると書いてあったが、ある分で足りるか?」
「はい、ヒルズ王国の教会に買い物の授業を教えに行くことになりまして。もう一度、歴史やマナーを復習しておこうと思いまして」
「おお、そうなのか!」「素晴らしいことじゃない」
両親も何度か礼拝のついでに姿を見に来ており、全く会っていないというわけではない。買い物の授業のトングやトレーは母が寄付してくれたものである。
「私ではなくてもと思ったのですが、発案者が行くべきだと皆に言われまして…」
「何か、手伝えることはない?トレーやトングは嵩張るわよね…」
「見本はいくつか持っていきますが、粘土などの材料は、フォリッチ公爵が用意してくださるそうで、持っていく予定にはなっているのですが、あちらのお店がどのようになっているかを、見てからの方がいいかと思っております」
パン屋になるかは分からないが、そもそも店がどのような雰囲気なのかは、国によって違うかもしれないと、お国柄に合わせた方がいいと思っている。
「そうね」「それは、そうだな。どのくらいの予定なんだ?」
「一応は、一週間程度となっています」
「あの授業は為になるから、きっと受け入れて貰えるだろう」
夫妻も買い物の授業を見学したことがあるが、牧師からアイレットが発案したものだと聞かされて驚いた。それで母は何か力になりたいと言って、不足していたトレーとトングを寄付して貰ったのだ。
「おそらく、ローグレイン大公閣下が進言されたのではないかと思います」
「大公閣下が?」「お会いしたの?」
「はい、視察にいらして、ご案内しました」
「そうだったのか、それは是非、頑張って来なさい」
「何か必要なものがあったら、言って頂戴ね」
「ありがとうございます」
アイレットは部屋に本を取りに行き、残された両親はローグレイン大公閣下が視察に行ったことは知らなかったが、姉妹で天と地のような関係だなと思った。
「しっかりやっているようで安心しました。アデリーナのことはおそらく知らないようですね」
「知らなくていいことだ」
「ええ、アイレットは自分の手で掴んだものをしっかり行っているのに…」
「アデリーナもそろそろ現実が見えてはいないのか?」
「兄たちに自分だけが不幸かのように言っていたそうですが、相手にしなくなってからはメイドに言っているそうですわ、メイドの愚痴をメイドに」
「はあ…フィーストはどうにか結婚出来そうになったというのに」
フィーストはルミナにこれからも何かあったら相談してからという約束の上で、ようやく結婚の許可が得られて、来年結婚することが決まっている。ルミナの希望でクリスティアナ教会で式を挙げることになっている。
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