49 / 67
クリスティアナ教会3
しおりを挟む
「これがお金です」
「お金も本物の様にしてあるのですね」
アイレットの手に乗ったお金は、紙幣の肖像画は偽物らしく描かれており、本物に見間違うことはないが、色や大きさ、雰囲気は同じである。
「はい、紙幣は版画で、硬貨は温めて固める板で作っています」
「君が?」
「はい、こういった模倣するようなものは得意です」
話が聞こえたのか、子どもたちが会話に入って来た。
「アイレット先生は器用なんだよ」
「バターロールも、チョココロネも先生が作ったのが一番上手!」
「嬉しいこと言ってくれるのね」
「ふふん!」
「今日の売り上げはくまのパンだけどね」
「そうね…」
「見せてくれてありがとう、とても素晴らしいね」
「こちらこそ、ありがとうございました」「ありがとうございました」
大公閣下とは知らない子どもたちだが、店員のおかげかきちんとしていて、アイレットは嬉しくなった。
「あなたもお作りになるんですね」
「はい…試行錯誤の末ですが…でも最近は公爵家の方に頼りきりなんです」
「母は生き甲斐ですが、皆は仕事などのいい息抜きになるようですよ。こねたり色を付ける作業は無心になれると」
「有難いことです」
ローグレイン大公閣下は深く頷き、教会の視察は朗らかに終わり、満足そうな様子にフォリッチ公爵も安堵した。
「あの買い物もアイレット嬢が?」
「はい、もっと簡易的なものを修道女になる前から行っていたそうです」
「前から?」
前から行っていた、それだけ信用を得ていたということか。
「はい、それで人気になりまして、本格的に作ることになったそうです。平民の子どもでも、偽物だと馬鹿にする子もいますから、なるべく本物に近いように頑張ったそうです」
「それで手伝うことに?」
「私の娘、この前のパルシエです。器用だと聞いたようで、手伝って貰えないかとお願いをされたそうで、喜んでおりました。それから邸で作っていたら、皆が楽しそうねと集まりましてね。実は母は父が亡くなってからは、あまり部屋から出なかったのですが、今や部屋か粘土部屋かというほどでして」
「感謝されているのですね」
「はい、粘土代は惜しまないと言ってあります」
「ははは!我が国にも取り入れたいほどだ」
貴族の学校に作れば、馬鹿にする者が多いだろうが、教会にあることで、将来に使える。売る側にだって買う側にだって知識は必要だ。
「ありがとうございます。買い物の授業をして、計算や言葉や文字、マナー、歴史を学ばせるとやる気が違うそうです」
「確かに、計算は直結しますし、言葉も丁寧にしなければならない。文字は読み書きできないと困る。マナーも知っていて損はない」
「はい、言語も知らないより知っている方がいい、修道女たちで他国の言葉で客をしたりもするそうです。いずれは他国の店に来たというものもやってみたいと」
修道女もアイレットがいるように、貴族令嬢もいれば、賢い平民もいる。言葉が通じないということを、身を持って味合わせることが出来る。
「子どもたちは身振り手振りするのですか?」
「今のところは、そのようですが、憶えたいという子もいるそうで」
「それはいいですね、歴史は…パンの歴史ですか」
「絡ませるそうです。この時代のパンはこれが人気でしたとか、後は小麦が少ない時、これまではどうしていたかなど」
「なるほど」
生きていく上で意味のないことはないと教えるということか。さすが、才女という名は見据えて、教えることにも長けているようだ。
「それで次の買い物の授業は、パンが値上がりしていたりするわけです」
「それは面白い」
「貴族の子どもに買い物の仕方を学ぶために、貸すことがあるほどです」
「それもいいですね」
フォリッチ公爵は視察という名目にした理由がよく分かった。これは私の仕事には関係ないが、立場には関係のあることだ。
「お金も本物の様にしてあるのですね」
アイレットの手に乗ったお金は、紙幣の肖像画は偽物らしく描かれており、本物に見間違うことはないが、色や大きさ、雰囲気は同じである。
「はい、紙幣は版画で、硬貨は温めて固める板で作っています」
「君が?」
「はい、こういった模倣するようなものは得意です」
話が聞こえたのか、子どもたちが会話に入って来た。
「アイレット先生は器用なんだよ」
「バターロールも、チョココロネも先生が作ったのが一番上手!」
「嬉しいこと言ってくれるのね」
「ふふん!」
「今日の売り上げはくまのパンだけどね」
「そうね…」
「見せてくれてありがとう、とても素晴らしいね」
「こちらこそ、ありがとうございました」「ありがとうございました」
大公閣下とは知らない子どもたちだが、店員のおかげかきちんとしていて、アイレットは嬉しくなった。
「あなたもお作りになるんですね」
「はい…試行錯誤の末ですが…でも最近は公爵家の方に頼りきりなんです」
「母は生き甲斐ですが、皆は仕事などのいい息抜きになるようですよ。こねたり色を付ける作業は無心になれると」
「有難いことです」
ローグレイン大公閣下は深く頷き、教会の視察は朗らかに終わり、満足そうな様子にフォリッチ公爵も安堵した。
「あの買い物もアイレット嬢が?」
「はい、もっと簡易的なものを修道女になる前から行っていたそうです」
「前から?」
前から行っていた、それだけ信用を得ていたということか。
「はい、それで人気になりまして、本格的に作ることになったそうです。平民の子どもでも、偽物だと馬鹿にする子もいますから、なるべく本物に近いように頑張ったそうです」
「それで手伝うことに?」
「私の娘、この前のパルシエです。器用だと聞いたようで、手伝って貰えないかとお願いをされたそうで、喜んでおりました。それから邸で作っていたら、皆が楽しそうねと集まりましてね。実は母は父が亡くなってからは、あまり部屋から出なかったのですが、今や部屋か粘土部屋かというほどでして」
「感謝されているのですね」
「はい、粘土代は惜しまないと言ってあります」
「ははは!我が国にも取り入れたいほどだ」
貴族の学校に作れば、馬鹿にする者が多いだろうが、教会にあることで、将来に使える。売る側にだって買う側にだって知識は必要だ。
「ありがとうございます。買い物の授業をして、計算や言葉や文字、マナー、歴史を学ばせるとやる気が違うそうです」
「確かに、計算は直結しますし、言葉も丁寧にしなければならない。文字は読み書きできないと困る。マナーも知っていて損はない」
「はい、言語も知らないより知っている方がいい、修道女たちで他国の言葉で客をしたりもするそうです。いずれは他国の店に来たというものもやってみたいと」
修道女もアイレットがいるように、貴族令嬢もいれば、賢い平民もいる。言葉が通じないということを、身を持って味合わせることが出来る。
「子どもたちは身振り手振りするのですか?」
「今のところは、そのようですが、憶えたいという子もいるそうで」
「それはいいですね、歴史は…パンの歴史ですか」
「絡ませるそうです。この時代のパンはこれが人気でしたとか、後は小麦が少ない時、これまではどうしていたかなど」
「なるほど」
生きていく上で意味のないことはないと教えるということか。さすが、才女という名は見据えて、教えることにも長けているようだ。
「それで次の買い物の授業は、パンが値上がりしていたりするわけです」
「それは面白い」
「貴族の子どもに買い物の仕方を学ぶために、貸すことがあるほどです」
「それもいいですね」
フォリッチ公爵は視察という名目にした理由がよく分かった。これは私の仕事には関係ないが、立場には関係のあることだ。
479
お気に入りに追加
2,315
あなたにおすすめの小説
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
婚約破棄のその後に
ゆーぞー
恋愛
「ライラ、婚約は破棄させてもらおう」
来月結婚するはずだった婚約者のレナード・アイザックス様に王宮の夜会で言われてしまった。しかもレナード様の隣には侯爵家のご令嬢メリア・リオンヌ様。
「あなた程度の人が彼と結婚できると本気で考えていたの?」
一方的に言われ混乱している最中、王妃様が現れて。
見たことも聞いたこともない人と結婚することになってしまった。
真実の愛は素晴らしい、そう仰ったのはあなたですよ元旦那様?
わらびもち
恋愛
王女様と結婚したいからと私に離婚を迫る旦那様。
分かりました、お望み通り離婚してさしあげます。
真実の愛を選んだ貴方の未来は明るくありませんけど、精々頑張ってくださいませ。
【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中
永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……
矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。
『もう君はいりません、アリスミ・カロック』
恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。
恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。
『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』
『えっ……』
任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。
私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。
それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。
――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。
※このお話の設定は架空のものです。
※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
貴方の運命になれなくて
豆狸
恋愛
運命の相手を見つめ続ける王太子ヨアニスの姿に、彼の婚約者であるスクリヴァ公爵令嬢リディアは身を引くことを決めた。
ところが婚約を解消した後で、ヨアニスの運命の相手プセマが毒に倒れ──
「……君がそんなに私を愛していたとは知らなかったよ」
「え?」
「プセマは毒で死んだよ。ああ、驚いたような顔をしなくてもいい。君は知っていたんだろう? プセマに毒を飲ませたのは君なんだから!」
旦那様、離縁の申し出承りますわ
ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」
大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。
領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。
旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。
その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。
離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに!
*女性軽視の言葉が一部あります(すみません)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる