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クリスティアナ教会2

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「授業中なのではありませんか」
「アイレット、今はあの授業ではありませんか?」
「はい、買い物の授業ですが、見て行かれますか?」
「買い物?」
「貴族は自分で買い物をしませんから、なぜと思うでしょうが、孤児院の子や教会に学びに来る子は、必要なことなのです」
「見れば分かると思いますよ」

 ある教室に案内されると、机や椅子はなく、なぜかパン屋になっており、間違えたかと思い、振り返るとフォリッチ公爵が合っていますと笑っていたほどであった。

 だが店員の子どもはきちんと制服を着ており、パンも本物ではなく、似せて作ってはあるが、見事な作りで、遠目だと本物に見える。パンは自身で取り、会計をするスタイルとなっている。

 客の子どもはくじを引き、その紙に書いてある金額で、書かれた人数分のパンを買うことになる。トレイを持ち、トングでパンを乗せ、きちんと予算内で人数分、買うことが出来るか。

 店員は計算をしながら、小さな口の開く紙にパンを一つずつ入れながら、紙袋に入れ、お金を受け取って、おつりとパンの入った紙袋を渡すことが出来るか。

「いらっしゃいませ」
「100、120、140、130、490ルペです」
「500ルペで」
「はい、500ルペお預かりします。10ルペのお返しです。ありがとうございました」「ありがとうございました」

 もちろん、買う方も売る方も、子どもたちが行っており、買い物の仕方に、店員の仕事を学び、同時に計算も学ぶことが出来る。

「トレイやトングは本物ですか」
「はい、寄付や古くなったものを貰ったりしています。本物だと喜びますから」
「これは良い!計算、接客、動き方など学ぶことが多い」
「ありがとうございます。あの偽物のパンは子どもたちも作りますが、フォリッチ公爵家の皆様にも手伝って貰っているんです」
「そうでしたか!」
「はい、実は。私はあまりですが、子どもや母、妻も器用でして、今や一室が粘土部屋となっています」
「それについては、申し訳ありません」

 もう一室、専用してしまおうと、パンの粘土部屋と化している。公爵家として異質な部屋となっているが、使用人も興味を持つ者もおり、作ってみたんですが…と持って来ることもある。

「いえいえ、母もやり甲斐が出来たなんて嬉しそうですから」
「どんどん精度が上がっているので、いずれプロになれます」
「もうプロのつもりかもしれませんぞ」
「まあ」
「粘土のプロもいいじゃないか」

 貴族、まして公爵家の方が粘土をこねているなど、褒められるものではないと思ったが、アイレットは御礼に伺った際に前公爵夫人にこう言われた。

『粘土も素晴らしい芸術だと思いませんか、この手によって作られる芸術です。生み出されたものは何物にも代えられない。それを未来ある子どもたちのためになるならば、こんなに素晴らしい芸術はありません』

 さすが、公爵夫人は柔軟な考えをお持ちだと感動したほどである。

 説明をしながら見ていると、授業が終わりに近づき、皆が片づけを始め、大公閣下はさらに驚いた。

「まさか売り上げも?」
「はい、店員側は売り上げも行います」
「素晴らしいですね」
「今の内に近くで見てみますか」

 アイレットは作業中の子どもたちに声を掛け、パン屋に入った。

「ちょっとお客様に見せてね」
「いいよ~くまのパンが人気だよ」「今日、一番売れたよ」
「そうなの?公爵様、パルシエ様にお伝えしておいていただけますか」
「もちろんですとも」

 くまのパンはパルシエの新作である。偽物ではあるが、売り上げがいいと嬉しいそうで、皆に自慢できると言っていた。

「本当によくできています」

 粘土なので硬く、重さはあるものの、艶感もあり、大きさも少し小ぶりではあるが、よく出来ている。
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