上 下
44 / 67

姉の虚言

しおりを挟む
 フォリッチ公爵は、内容をまとめる者に、無意味なアデリーナのことを抜いて、まとめるように言い、登城していたマスタール侯爵に発言を伝えに向かった。

 話し始めるとマスタール侯爵は、みるみる赤く染まり、奥歯を噛みしめていた。

「謝られても困るかと思いますが、申し訳ございませんでした」
「ローグレイン大公閣下も裁判官ですから、アデリーナ嬢を信用してはいませんでしたので、その場を乱した程度で済みましたが…ちょっといただけませんな」

 さすがにふざけるなと思った、あれだけ馬鹿にしていた妹から相談などされるはずがない。理不尽なことを言っていると分かっていないのか。

「申し訳ございません!アイレットがアデリーナに相談など、絶対にあり得ません」
「ええ、我が娘もあり得ないと、あまりに思考が違い過ぎると言っておりましてね。アイレット嬢は手柄などと思っていないでしょうが、アデリーナ嬢は明らかに自身の手柄だと思わせたかったのだと思います」
「何と恥ずかしい真似を…私は悪を憎むことを教えたのは事実ですが、あの子は悪を犯した者を過剰に憎むようになっておりました」

 悪を憎んで人を憎まずとまでは言わないが、アデリーナは悪を犯した者を糾弾することに喜びを感じている節がある。

 兄二人も同じようなものだったが、最近は変わって来ている。変えたのは紛れもなく、アイレットの存在だ。

「アイレット嬢は自身で感じたことを行っている、きちんと判別出来るのですから、人のせいにするのは誤りだと分かるでしょう。アデリーナ嬢の処遇はそちらにお任せしますが、正直、アデリーナ嬢に修道院に行ってもらって、あの場にアイレット嬢がいればと皆が思ったと思いますよ」
「その通りでございます」
「グランダール公爵夫人に話を通しましょうか」
「はい、よろしくお願いいたします」

 マスタール侯爵は仕事を明日に回して、慌てて邸に帰ると、アデリーナは部屋に閉じ籠っているという。妻と息子たちにも事情を話すと、何てことをしてくれたんだと怒り、誰も行くことを知らなかったそうだ。

「行くことを分かっていれば付いてきました」
「もしかしたら、ローグレイン大公閣下に会いたかったのかもしれません」

 フィーストは以前、ローグレイン大公閣下の話をした時のことを思い出していた。

「どういうことだ?」
「前にローグレイン大公閣下がいらっしゃるそうだってことを話したら、にやにやしていたので。勿論、身の程を弁えろと言ってあったのですが」
「やはりそうだったのか」

 大勢の前で虚偽の発言をし、アイレットは功績などと思っていないが、妹の手柄を横取りしようとしたことは許すわけにはいかない。

「アデリーナ、どうして呼び出されたか分かるな?」
「私は悪くないわ、事実を話しただけなのに追い出されたのよ!」
「愚か者がっ!!アイレットのしたことを、自分がアドバイスをした?なぜそのような嘘を皆の前で言った?」
「嘘じゃないわ!」
「アイレットがお前に相談するはずないだろう」

 理不尽に睨み付ける姉に相談するはずないと思わないのか。アデリーナが一方的に話すことはあっても、まともに話していることを見たことすらない。

 正直、アイレットにとってアデリーナから、得るものはないだろう。

「されたのよ!」
「いつだ?されたのなら答えられるだろう?」
「だから3年前よ!」
「それは3年前と説明されたからだろう?」
「事実なんだから仕方ないでしょう」
「はあ…嘘だとは認めないんだな?」

 後に引けない性格なのは分かるが、悪いと認めることも出来ない、反省も出来ない。我が家に相応しくないのは、アデリーナの方じゃないか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

アリシアの恋は終わったのです【完結】

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。 『もう君はいりません、アリスミ・カロック』 恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。 恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。 『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』 『えっ……』 任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。 私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。 それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。 ――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。 ※このお話の設定は架空のものです。 ※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

婚約破棄の前日に

豆狸
恋愛
──お帰りください、側近の操り人形殿下。 私はもう、お人形遊びは卒業したのです。

報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜

矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』 彼はいつだって誠実な婚約者だった。 嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。 『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』 『……分かりました、ロイド様』 私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。 結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。 なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。

真実の愛は素晴らしい、そう仰ったのはあなたですよ元旦那様?

わらびもち
恋愛
王女様と結婚したいからと私に離婚を迫る旦那様。 分かりました、お望み通り離婚してさしあげます。 真実の愛を選んだ貴方の未来は明るくありませんけど、精々頑張ってくださいませ。

処理中です...