上 下
43 / 67

意見交換会4

しおりを挟む
「大公閣下、失礼しました」
「熱くなってしまい、申し訳ございませんでした」
「彼女のことはマスタール侯爵に伝えますので」
「ああ、別の件の話をしましょう」

 アデリーナは騎士によって、無理矢理連れ出され、馬車に乗せられて帰された。パルシエも席に戻り、別の件で意見を交わし、意見交換会は終わった。ヒルズ王国の方が進んでいるとはいえ、問題はどこも似たようなものだ。

「先程は国の者が大変、失礼しました」
「アイレット嬢は虐げられていたのですか」

 アデリーナの様子を見れば、そう思われても仕方がないところだ。

「いえ、そうではないのです。確かに彼女は普段は無口で静かな子です。ですので、特にきょうだいに見下されていたというのが一番かと思います」
「3年間1位でも?」
「はい、娘が言ったように、彼女は自身が1位であることさえ知らなかった。いえ、興味がなかったのです。彼女の目的は知識を身に付け、修道女になり、子どもたちに教えることが目的でしたから」
「成績に興味はなく、己のための勉強がいい成績を生んだと?」
「はい、その通りでございます。去年、我が国で罪を擦り付け、麻薬や人身売買をしていた貴族の事件を知っていますか」

 大規模な摘発となった事件だった、是非聞いてみたかったが、こちらから聞き出すのも、憚られるため、公の場で聞くのは止めたのだ。

「はい、聞いております。聞きたいところではありましたが、まだ処刑されていないのですよね?」
「はい、麻薬や人身売買の聞き取りも罰も決まっておりますが、冤罪の方が実はまだ調査をしている部分もありまして」
「そうでしたか」

 冤罪は十八年以上前からだという、証拠や証人といった裏取り調査も、なかなか時間が掛かることだろう。

「あの事件のきっかけ、いえ、見付けたと言っても過言ではないのです」
「アイレット嬢が?」

 まだ顔も見たこともないが、一人の才女がどれだけ影響を与えているのだと、ますます興味を持った。

「はい、先程の姉君を見れば分かるように、マスタール侯爵家では悪を憎むことが教えとしてあったそうですが、アイレット嬢は違った。肩入れしない状況で、父親が監査をしたある事件の資料を見たいと言いまして、娘から彼女のことは聞いていたので、私が力を貸したのです。それがあんな大きな事件になるとは思いもしませんでしたが、何かあるのではないかと感じたのも事実です」
「惹き付ける何かがあるのでしょうか」
「娘はそう言います、私も話をしてみたいと思う気持ちは持ちました」

 フォリッチ公爵もパルシエが初めての試験で1位はアイレット・マスタールだったと聞き、末の娘は賢いのだなとくらいにしか思っていなかったが、その次も1位はまたアイレットだったと言い、もはや1位はアイレットに決まっているじゃないとなってから、カウンセラーの話を聞き、保護者である貴族は寄付を増やすから行って欲しいという者が多かく、反対する者は後ろ暗いことがあると勘繰られるほどだった。

「無口だと」
「普段はです。事件の時もしっかり意見を言っており、必要がある時は話しますという感じでしょうか。クリスティアナ教会におりますので、会いに行かれるのであれば、ご案内いたします」

 無口だということで意思疎通が出来るのかと思ったら、嘘だったのかと思うほど、しっかり話し、芯のある子だと感じた。結婚に興味もなく、賢いこと、周りをよく見ているから、女官や立場のある仕事に就くのもいいのではないかと思ったが、修道女になって、子どもに勉強を教えたいと言い、迷いすらないようだった。

「是非、お願いしたい」
「先程の姉君の方はマスタール侯爵に任せようと思いますが、よろしいですか」
「信用出来るのですよね?」
「はい、アイレット嬢が見付け、調査の指揮を執ったのはマスタール侯爵ですから、愚かな判断はしないはずです」
「分かりました」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

真実の愛の言い分

豆狸
恋愛
「仕方がないだろう。私とリューゲは真実の愛なのだ。幼いころから想い合って来た。そこに割り込んできたのは君だろう!」 私と殿下の結婚式を半年後に控えた時期におっしゃることではありませんわね。

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

処理中です...