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 マスタール侯爵はアイレットが旅立つ背中を寂しい気持ちを抱えながら見送り、ハービスとフィーストを呼び出した。

「座りなさい」
「「はい」」
「アデリーナには伝えるつもりはないが、お前たちには伝えておく。ソック伯爵の事件を最初に見付けたのはアイレットだ」
「っな」「本当ですか」
「ああ、ハービスは恨むかもしれないと言っていたが、恨むんじゃないぞ」
「恨みません」「なぜアイレットが見付けるようなことに?」
「昔からよくバートロ伯爵家の話をしていただろう?」
「でもアイレットは参加していませんでした」

 ハービスがそう言うと、フィーストも横で頷いている。

「私の主観ではなく、事件を見てみたいと言って、フォリッチ公爵が手を貸してくださったそうだ。才女の意見を聞いてみたいとね」
「才女…」
「アイレットは学園で孤高の才女と呼ばれていたそうだ。表立って弱者を助けることはないが、教師に報告をしてカウンセラーを付けるように進言している」
「ルミナが言っていました、そのようなことを行っていると」

 フィーストは現在、ルミナによって、考え方を指導中であり、マスタール侯爵家も全面的に任せている。

「事実だ、マスタール侯爵家の名も多少は役に立ったかもしれないが、孤高の才女の方が役に立っただけだろう。結局、3年間1位を誰にも譲らないまま、旅立った…学園長が表彰したいと言ったそうだが、断ったそうだ」
「断った?」「…アイレットらしいですね」

 ルミナの言った通りだった、アイレットは学力を褒めて貰いたいわけでもない、自分のために学んでいるのだと言っていた。

「それで事件の資料を見せて貰って、ワインの仕入れがおかしいこと、その後にバートロ伯爵はワインを嫌っていたこと、そしてワイン貯蔵庫と書かれていたが、そんなものはなかったことが分かった。書いたのはソック伯爵だった」
「擦り付けるために」
「ああ、使用人に聞けば分かるのに、協力者がいたのだろうと」
「それがロズウェル子爵だったのですね」
「そういうことだ、潜入していたリンダースもロズウェル元子爵に聞かれて、ないと話していたのに、訂正されていなかった。説得力を持たせるために必要だったんだろうな。貴族の家にはワイン貯蔵庫がある、貴族はワインが好きだという思い込み。私は責任を取らされることはなかったが、責任を十分に感じている。見付けたのがアイレットだったからこそ、面目が保たれただけなんだ。だから、もしマスタール侯爵家を褒められても、驕ることは許さない、分かるな?」

 事件のことでパーティーなどは控えられていたが、再開する時期になっているはずだ。そこでさすがマスタール侯爵家だと褒められて、まんざらでもない態度を取ることは許されない。

「はい」「はい、アデリーナには伝えないというのは?」
「責任があり、驕ってはならないということは伝える。だがアイレットのことで何を言っても、もう駄目だろう」
「何かあったのですか」
「なかったことになっているから、相手は伏せるがアイレットに縁談があった」
「「え?」」

 頭はいいのかもしれないけど、縁談があったとは思わなかった。アイレットにはないと思い込んでいたのかもしれないが、客観的見ればアイレットとアデリーナとなれば、アイレットだろう。

「先方に納得して貰ってなかったことになったのだが、アデリーナは自分への縁談があると思っていた時期と重なる。何か誤解をしたのだと思うが、全く関係のない家を言い出して、侍女にも話を聞いたが、特に親しくしていた相手もおらず、その後も紹介がないのにも関わらずだ」
「それは…」「焦っているのは知っていましたが」

 気の強いアデリーナがそんな年若い令嬢のような思い込みをしていたのかと、兄たちは恥ずかしくなった。
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