【完結】会いたいあなたはどこにもいない

野村にれ

文字の大きさ
上 下
34 / 67

懐旧

しおりを挟む
「お嬢様も責任があると思いますか」
「お金を受け取っていたんですよね?家族も享受したことになると思いますか」
「それは、はい…」
「お金なんてどれも一緒、そう思う人もいれば、そう思えない人もいる。きっと汚いお金ってあるんでしょうね」

 私には親が領民を苦しめた罪がある、だからこそ人生をやり直している、それなのに彼はどうして前を向けるのかが不思議だった。人を殺したわけでもない、罪の重さだろうか、それとも考え方の違いだろうか。

「あの借金は、母の治療費でした…肝臓を悪くしたことがありまして、だからいいというわけではありませんが」
「そのお金で甘いお菓子を1つ買っていないとは証明できない。そうなると、その一つの綻びで悪になり得ることもある」

 治療費、借金という名前を変えても、そのお金は受け取るはずのなかったお金。

「何がおっしゃりたいのですか」
「難しいことですね、罪を償うというのは…」
「私も生涯を掛けて、責任は取ります。侯爵様にも辞職を願い出ましたが、責任を感じているならば、お前は真っ直ぐ立っていなさいと、だから私は…真っ直ぐ立ち続けたいと思っています」
「…頑張ってください」

 ピリッとした雰囲気のまま、アイレットはロズウェル子爵領、元バートロ伯爵領に着くも、懐かしいという気持ちにはならなかった。

 街並みが変わったこともあるのかもしれないが、正直、外に出ることはまずなかったため、邸から見る街並みしか憶えていない。だが、その邸は今はもうない、あの景色を見ることは二度と出来ない。

「元バートロ伯爵家が見たいのですよね?」
「はい、お願いします」

 何もなくなっていると思ったが、所々崩れた外壁が残っていた。

「焼け落ちた物は撤去しましたが、後はそのまま戒めのために残してあります」
「遺体は?」
「ご遺体は、山に埋められています」
「全員?」
「はい、私は当時、潜入のために使用人として邸に居りましたから、人数を確認しております」
「そう…」

 山に埋められているのか、私もあの人も。そう思うと、魂など墓にはないのだと実感出来るものだなと思った。

 ここにあった大豪邸とは言えないが、私にとっては大きな邸を思い出していた。両親はほとんど領地に居らず、居ても子どもに構うことはなく、家令に任せきりだったそうだ。

 あの人も元気な頃は王都にいたけど、具合が悪くなってからは領地に捨て置かれるようになった。私は話す相手が出来て嬉しかったけど、彼はそうではなかったのかもしれないと思うこともあった。

 でも彼は笑っていた、ベットの上で微笑んでいた姿しか思い出せない。

「お嬢様?」
「あっ、ええ、行きましょうか」
「このようなところになぜ来たいとおっしゃったのですか」
「よく家族が話していたの、悪の例のようにね。だから見てみたかったの…悪はどうなったのか」
「さようですか」
「あなたは生きているバートロ伯爵家の人たちに会ったことがあるのよね?どんな人だった?悪だった?」
「悪…何もしていない悪というべきでしょうか。領地経営を家令に任せて、その家令も見て見ぬふり、逃げ出す使用人もおりましたが、皆、お嬢様とお坊ちゃまのために残っておいでだったのではないでしょうか」
「そう…」

 使用人に嫌がらせをされたり、何か訴えられるようなこともなかった。何も出来ない可哀想な娘だと諦めていたのだろう。

「お嬢様を見ると、バートロ伯爵家のお嬢様を思い出します」
「…似ているの?」
「いえ、見た目は似ておりませんが、最期に見た彼女と、邸にいるお嬢様は雰囲気が似ております。お気を悪くしたら申し訳ありません」
「いえ、会ったこともないから怒りようもないわ」
「寂しそうな方でした…私が、殺したのです」

 アイレットは酷く驚いた顔をしたが、その本当の意味をリンダースは気付くことは出来ない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

【完結】恋は、終わったのです

楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。 今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。 『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』 身長を追い越してしまった時からだろうか。  それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。 あるいは――あの子に出会った時からだろうか。 ――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

[完結]想ってもいいでしょうか?

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
貴方に逢いたくて逢いたくて逢いたくて胸が張り裂けそう。 失ってしまった貴方は、どこへ行ってしまったのだろう。 暗闇の中、涙を流して、ただただ貴方の事を考え続ける。 後悔しているの。 何度も考えるの。 でもどうすればよかったのか、どうしても分からない。 桜が舞い散り、灼熱の太陽に耐え、紅葉が終わっても貴方は帰ってこない。 本当は分かっている。 もう二度と私の元へ貴方は帰ってこない事を。 雪の結晶がキラキラ輝きながら落ちてくる。 頬についた結晶はすぐに溶けて流れ落ちる。 私の涙と一緒に。 まだ、あと少し。 ううん、一生でも、私が朽ち果てるまで。 貴方の事を想ってもいいでしょうか?

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

処理中です...