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褒美
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マスタール侯爵がソック伯爵とロズウェル子爵を暴いたことで、侯爵家が罪を被ることはなかったが、侯爵は責任を取って監査担当を外して欲しいと申し出た。
だが調査担当を決めたのはマスタール侯爵ではないことから、陛下とフォリッチ公爵に止められて、残留することになった。今後は再発の可能性を考えて、調査は馴れ合いにならないように担当させることになった。
フィーストとアデリーナ、そしてアイレットにもリリンナのことは伝えられ、アイレットは静かに頷いただけであったが、フィーストとアデリーナは正義感を剥き出しにして、怒り出した。
「何てことをしてくれたんだ!」
「最低じゃない!」
「父上の顔をも泥を塗って」
「犯罪者がいたなんて虫唾が走るわ。お兄様は大丈夫なの?」
「今日は一人にして欲しいと言っていたが、落ち着いたら、いずれこちらで暮らすようにするつもりだ」
「あの屋敷は徹底的に掃除しましょう」
「そうよ!気に食わない人だったけど、家族が犯罪を犯していたなんて!私たちに影響があったらどうしてくれるのよ!」
アデリーナの影響とは何も決まっていない、自身の結婚のことである。
「罪はいずれ公になるはずだが、まだ余計なことは外で話してはならぬぞ、分かっているな?」
「はい」「はい、アイレットは…話す相手もいないわよね?」「…はい」
侯爵はここでアイレットが見付けたことだと言う気はなかった。またアデリーナの敵意に晒されることになることは明白であったからだ。
アデリーナのいない隙にアイレットを呼び出して、欲しいものがあるとは思えないが、褒美について聞くことにした。
「今回の件で、何かフォリッチ公爵に褒美を与えるべきだと言われてね、何かあるか?」
「…元バートロ伯爵領に行きたいです」
外にはほとんど出たことがなかったため、領には思い出はないが、最後にあの邸があった場所を見たいと思った。
「見てみたいということか」
「はい、折角調べたので、実際に見てみたいです」
「そうか、だがロズウェル子爵もどうなるか分からない状況ではあるからな」
「関わっていたのですか」
「ああ、そうなんだ」
「ご子息も?」
「いや、息子は関わっていない。ロズウェル子爵の独断だったらしい」
あの日、自身は正しいと正義感を振りかざしていたのに、父親が罪を犯していたとは、私と同じではないかと思い、酷く滑稽に感じた。
「卒業までに行けるようでしたら行かせてください。難しければ諦めます」
「分かった、可能かどうか取り計らってみる」
「よろしくお願いいたします」
あの子が教会と図書館以外に行きたいというところを初めて聞いた。行かせてやりたいところだが、ロズウェル子爵にも調査が入っており、他の余罪はない様子ではあるが、そんな際に娘を行かせるのも、どうだろうか。
父の責任を取って、辞すると言ったリンダースだったが、侯爵が悪いと思っているのならば、このまま働くように言い、変わらず働いている。
「リンダース、子爵領はどうだ?」
「はい、調査は終えたようで、父の罰を待っている状態です」
「御父上は邸か?」
「はい、逃げることはないだろうということで自宅謹慎となっております」
「妻と嫡男は?」
「はい、母は調査が終わってからは一緒におります。弟は領地におります」
リンダースは長男だが、嫡男ではなく、バートロ伯爵家の事件後からマスタール侯爵家で働いている。それもバートロ伯爵家の娘を殺めたことで、私は相応しくないと弟に譲って、嫡男を降りたからだ。
ロズウェル子爵は重い罪にはならないはずだが、罰は受けなくてはならない。おそらく嫡男が当主となることになるだろう。
だが調査担当を決めたのはマスタール侯爵ではないことから、陛下とフォリッチ公爵に止められて、残留することになった。今後は再発の可能性を考えて、調査は馴れ合いにならないように担当させることになった。
フィーストとアデリーナ、そしてアイレットにもリリンナのことは伝えられ、アイレットは静かに頷いただけであったが、フィーストとアデリーナは正義感を剥き出しにして、怒り出した。
「何てことをしてくれたんだ!」
「最低じゃない!」
「父上の顔をも泥を塗って」
「犯罪者がいたなんて虫唾が走るわ。お兄様は大丈夫なの?」
「今日は一人にして欲しいと言っていたが、落ち着いたら、いずれこちらで暮らすようにするつもりだ」
「あの屋敷は徹底的に掃除しましょう」
「そうよ!気に食わない人だったけど、家族が犯罪を犯していたなんて!私たちに影響があったらどうしてくれるのよ!」
アデリーナの影響とは何も決まっていない、自身の結婚のことである。
「罪はいずれ公になるはずだが、まだ余計なことは外で話してはならぬぞ、分かっているな?」
「はい」「はい、アイレットは…話す相手もいないわよね?」「…はい」
侯爵はここでアイレットが見付けたことだと言う気はなかった。またアデリーナの敵意に晒されることになることは明白であったからだ。
アデリーナのいない隙にアイレットを呼び出して、欲しいものがあるとは思えないが、褒美について聞くことにした。
「今回の件で、何かフォリッチ公爵に褒美を与えるべきだと言われてね、何かあるか?」
「…元バートロ伯爵領に行きたいです」
外にはほとんど出たことがなかったため、領には思い出はないが、最後にあの邸があった場所を見たいと思った。
「見てみたいということか」
「はい、折角調べたので、実際に見てみたいです」
「そうか、だがロズウェル子爵もどうなるか分からない状況ではあるからな」
「関わっていたのですか」
「ああ、そうなんだ」
「ご子息も?」
「いや、息子は関わっていない。ロズウェル子爵の独断だったらしい」
あの日、自身は正しいと正義感を振りかざしていたのに、父親が罪を犯していたとは、私と同じではないかと思い、酷く滑稽に感じた。
「卒業までに行けるようでしたら行かせてください。難しければ諦めます」
「分かった、可能かどうか取り計らってみる」
「よろしくお願いいたします」
あの子が教会と図書館以外に行きたいというところを初めて聞いた。行かせてやりたいところだが、ロズウェル子爵にも調査が入っており、他の余罪はない様子ではあるが、そんな際に娘を行かせるのも、どうだろうか。
父の責任を取って、辞すると言ったリンダースだったが、侯爵が悪いと思っているのならば、このまま働くように言い、変わらず働いている。
「リンダース、子爵領はどうだ?」
「はい、調査は終えたようで、父の罰を待っている状態です」
「御父上は邸か?」
「はい、逃げることはないだろうということで自宅謹慎となっております」
「妻と嫡男は?」
「はい、母は調査が終わってからは一緒におります。弟は領地におります」
リンダースは長男だが、嫡男ではなく、バートロ伯爵家の事件後からマスタール侯爵家で働いている。それもバートロ伯爵家の娘を殺めたことで、私は相応しくないと弟に譲って、嫡男を降りたからだ。
ロズウェル子爵は重い罪にはならないはずだが、罰は受けなくてはならない。おそらく嫡男が当主となることになるだろう。
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