上 下
31 / 67

長兄と義姉2

しおりを挟む
「難しいと思った方がいい。それでなくても皆に避けられているというのに…」
「どういう意味?友人なら妊娠中だからよ?カゼット侯爵家に、誘われなかったのはハービスのせいじゃない」
「君もだよ、友人の奥方にアイレットのことを言っただろう?私が話し掛けてあげているのに、楽しそうじゃない。なんか気持ち悪い、不出来な義妹は要らないとか言ったんだろう?私はそんなことは言っていない。君の意思だろう?」
「それは…でも友人たちは何も言っていなかったわ」
「それは訂正したからだろう?」
「え…」
「まさかしていないのか…いや、もう今さらだな」

 ハービスは訂正をしていなかったこと怒りを一瞬覚えたが、もう何をしてもこうなった以上今さら言っても仕方ない。

「わざわざ訂正する必要はないと思ったから…」
「気付いていなかったのか?女性はそういったことに鋭いだろう?」

 気付いていないのも、周りが気遣ったのか、気付けないのか、どちらにしてももう関係ないことだ。友人たちにも二度と会うことはないだろう。

「それはハービスが言ったからじゃない」
「君は嫁ぎ先の文句を言っていることになる」
「でもどうせ出て行く人じゃない」
「それでも嫁ぎ先の家族の文句を公に言う人だと認定され、どんどん価値を下げていたそうだよ、だから誰も誘ってくれなかったんだ」

 自身の家族のことならばまだ家のことと思える部分もあるが、婚家のこと、義妹のことを悪く言うような嫁だと思われて当然だろう。

「そんな…」
「確かに頭がいいだけで使えない者はいる。だが、君は言うべきではなかった」
「修道院なんて…」
「ならば代わりに返済するのか?恨んでいる者もいるだろう、だから修道院なんだ」
「危険だって言うの…」
「そうだ、罪状は聞いただろう?」
「…それは」

 リリンナは取り調べで初めてソック伯爵家に対する罪状を聞いた。さすがに麻薬の密輸・密売に子どもの人身売買と言われて、自身の父親がそんなことをしていたのかと思うと、震えが止まらなかった。

 だけど、本当に何も知らなかった。唯一、あり得ると思ったのはワインが沢山あったので、ワインの密輸くらいだった。

 祖父母も母も関与していたとされ、弟は知らなかったとは言えないと、まだ取り調べを受けているという。

 リリンナだけが聞くことがないからと監視できる保護施設に移されたのだ。

 家族も拘束されているので誰も会いには来れない。最後に全員で会ったのがいつだったか、それが本当の最後になるなんて思いもしなかった。

 ようやく来たのがハービスと義父で、マスタール侯爵家が許すはずがないのは分かっていた。でもどこかで期待せずにはいられなかった。こんなことは夢だと、間違いだったと言ってくれるのではないかと願っていた。

「マスタール侯爵家として、君を許すわけにはいかない。正義感の強い君なら分かるだろう?ソック伯爵家だってそうだったはずだ…残念でならないよ」
「ああ…どうして」

 リリンナはぽろぽろと涙を零し、顔を覆ってしまった。

「裁判で公になるはずだ、きっと修道院でも確認することは出来るはずだ。君も関わった者として、何か思い出すようなことがあれば証言し、生きて償って欲しい。お別れだ、さようなら」

 そう言われても、リリンナは顔を上げることはなかった。それでいいとハービスは父に行きましょうと声を掛けて、保護施設を後にした。

 リリンナは証言の機会がないとは言えないため、皆の罪が決まるまで、ここで待ち続けるしかないのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

真実の愛の言い分

豆狸
恋愛
「仕方がないだろう。私とリューゲは真実の愛なのだ。幼いころから想い合って来た。そこに割り込んできたのは君だろう!」 私と殿下の結婚式を半年後に控えた時期におっしゃることではありませんわね。

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

処理中です...