上 下
29 / 67

義姉の連行

しおりを挟む
 別邸には行くと、2人には気付かれないように護衛も配置しており、マスタール侯爵は廊下にいた執事に王宮に連れて行く準備をするように告げ、応接室に入ると妻は私の顔を見ると肩の力を抜いたようだった。

「父上」「お義父様」
「あなた、終わったのですか」
「ああ…」

 侯爵はリリンナに向き合い、目を見つめてしっかりと告げた。

「リリンナ、御父上が罪を犯し、拘束された。君もこれから王宮で事情聴取を受けなさい」
「な、に、をおっしゃっているのですか」
「父上、どういうことですか」
「今言った通りだ、ソック伯爵は拘束された」

 リリンナは立ち尽くしており、全く話が読めずにハービスも動揺している。

「…お義父様、嘘ですよね?」
「嘘ではない、金銭目的だったのだろう」

 余罪もあることだろう、当分出て来ることは叶わない。いや、もう出て来ることはないかもしれない。

「ソック伯爵もリリンナも、身の丈に合わない、良い暮らしをして来たはずだ。知っていて享受したのではないのか?」
「身の丈に合わないなんてことはありません。当たり前のことです」
「そうか、ならばそう話すといい。このまま向かう」

 侯爵家の騎士を呼び込むが、ハービスとリリンナは理解が出来ない。

「…父上、本当なのですか」
「ああ、おそらく家族も拘束されているだろう。嫁いだ後の話なら情状の余地はあったかもしれないが、難しい」
「そうですか…」
「何かの間違いだわ、万が一、もしお父様が罪を犯していても私は関係ないわ。何も知らないもの」
「それは王宮で話しなさい」
「ハービス、私は関係ないわ!そうでしょう?」
「それは私には分からないよ、でも君があれやこれを買ってくれと言い、ケチだと言っていたのは実家と比べていたからだったのなら、おかしいと思うべきだったのかもしれないな」
「知らないわっ!」

 暴れるリリンナを拘束して、侯爵とハービス共に連れて行くことになった。リリンナは馬車の中でも私は知らない、間違いだと泣き喚いていた。

「どうして、こんなのおかしいわ!」
「私たちに言ってもどうにもならない」
「何をしたって言うのよ!」
「…」

 リリンナを待ち構えていた騎士団に渡し、侯爵とハービスは邸に戻ることになった。ハービスは父の様子から、ソック伯爵の罪状はリリンナの前では話せないのだろうと、聞けずにいたが、2人きりになってようやく聞くことにした。

「ソック伯爵は、何をしたんですか」
「明らかになっているのはワインの密輸に、麻薬の密輸に密売。おそらく別の罪状も見付かるのではないかと思っている」

 ソック伯爵家と親しいことで疑われたコイナー子爵家側の調査で、子どもの人身売買が行われていたことも分かっている。

「っな、麻薬…」
「ワインの密輸もだ」
「はい…」

 ワインの密輸くらいと思っていたわけではない、麻薬に驚いただけだ。いつも凛々しく、小綺麗な義父であったはずだ。

「しかも、他の罪人に罪を紛れ込ませていた」
「…そんな」
「私の落ち度でもある。咎は受ける。お前は恨んでいるか」
「そのようなことはありません、罪は償わせなければなりません」
「そうか…きっかけはバートロ伯爵家かもしれない」
「バートロ伯爵家が?」
「ああ、ワインの密輸はバートロ伯爵家の罪となっていたものだ」
「そうだったのですか」
「離縁となると思うが、いいな?」
「はい、異論はありません」

 リリンナは互いに親にどうかと言われて結ばれた縁談だった。明るく、正義感の強い女性だと、考え方も一緒だと思っていたのに、アイレットのことで二人して間違い、リリンナは関わっていないにしても、享受していたのは間違いない。

 婚約・結婚したが、あまりベタベタした関係ではなく、薄情かもしれないが、夫婦の自身よりも疲れ切った様子の父の方が辛いのではないかと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

いくら時が戻っても

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
大切な書類を忘れ家に取りに帰ったセディク。 庭では妻フェリシアが友人二人とお茶会をしていた。 思ってもいなかった妻の言葉を聞いた時、セディクは――― 短編予定。 救いなし予定。 ひたすらムカつくかもしれません。 嫌いな方は避けてください。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

【完結】結婚しておりませんけど?

との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」 「私も愛してるわ、イーサン」 真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。 しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。 盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。 だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。 「俺の苺ちゃんがあ〜」 「早い者勝ち」 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\ R15は念の為・・

(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)

青空一夏
恋愛
 従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。  だったら、婚約破棄はやめましょう。  ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!  悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!

完結 冗談で済ますつもりでしょうが、そうはいきません。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の幼馴染はいつもわがまま放題。それを放置する。 結婚式でもやらかして私の挙式はメチャクチャに 「ほんの冗談さ」と王子は軽くあしらうが、そこに一人の男性が現れて……

処理中です...