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長兄の後悔1
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ハービスは父の補佐をしている、執務室で書類や手紙を整理していたが、手を止めて、真剣な表情で父に問いかけた。
「父上、アイレットが修道女になるのは変わらないのですか」
「ああ、そうだ」
「そんなことをすれば、優秀な娘を追い出したと言われかねません」
「アイレットは信仰心が強いんだ」
「それは分かっていますが、私たちはアイレットを格下に見ていたのです」
不出来だと勝手に決め付けたのは悪かったと思う。だがそんなこと思うはずないじゃないか。本は与えていたようだが、家庭教師も付いていなかった。
信仰心が強いことは疑っていない。だがアイレットとの関係性が変わらないまま、修道女になってしまったら、見下したまま追い出したように見えるではないか。
「お前たちが勝手に見下していただけじゃないか」
「それはそうですが、優秀な者は去られるような家だと思われてもいいのですか!」
「そのようなことにはならん」
ビオ公爵家の手前もあり、アイレットが修道女にならないということ出来ない。アイレットも許可を得ずとも出て行くだろう。
「それよりもアデリーナに誰かいい人はいないのか」
「アデリーナはアイレットを悪く言っていたのが広まっているようです」
「…そうか」
「どこかうちの縁者の者に娶らせるしかないのではありませんか」
「やはりそれしかないか…」
フィーストも保留になっている、アデリーナも望むような縁談も、相手からの縁談の希望もない。マスタールの縁者に娶らせるしかない、父も考えていたはずだ。
ハービスは先日、アイレットを不出来だとよく言っていた、侯爵家と伯爵家の3人の友人たちに誤りだったと話した。すると、ああと皆は目を逸らした。
「知っていたのか」
「まあな、だがお前が何を持って不出来だと言っているのかは分からなかったからな。いくら勉強が出来ても、何かあるのかと思っていた」
「何かあるのか?」
「いや、正直に話すが、暗くてほとんど喋らないんだ。だからきっと勉強も出来ないだろうと思っていた」
「それは酷いな」
「それだけで不出来はないだろう」
「ああ、私もそう思う。情けない、恥ずかしいと何度も思った」
「夫婦揃って言っていたもんな」
「リリンナも?」
リリンナはハービスの妻で、マスタール家の遠縁のソック伯爵令嬢である。
「知らなかったのか?」
「可哀想だと思って、私が話し掛けてあげているのに、ちっとも楽しそうじゃない。なんか気持ち悪い、不出来な義妹は要らないとか。マスタールに相応しくないとか。私の妻によく言っていたそうだ」
「嘘だろ…」
私が言ったことを信じたのだろうが、同調することはあっても、そこまで言っていると思わなかった。
「正直、似た物夫婦だと思っていたよ」
「私は元はマスタール侯爵家の遠縁なのに、どうしてそこまで言えるのかちょっと疑問だったよ」
「それは私が」
「いや、それでも侯爵家に嫁いだ身なのに、あんなに風に蔑むのは資質の問題じゃないか」
「そんな風に思っていたのか…」
何度もリリンナにも会わせ、夫婦同士でも仲良くしていると思っていたが、そうではなかったとは。
「ああ、もう言ってしまった方が君のためだと思ってな。夫人は夫人たちの茶会の誘いがないのではないか?」
「えっ、ああ、確かに最近減ったとは言っていたが」
「嫁いだ先の妹君をあんなに蔑んでいるような人を付き合いたくないとね、言われているんだよ。姉の方がまだ実の妹だから、まあマシってところかな」
「そんな…リリンナにはちゃんと言って聞かせるよ」
確かにアデリーナの方が実妹だから、家族の軽口という場合もあるが、リリンナは嫁いで来た身で、義妹の悪口を言っていたら、付き合いを避けられるようになるだろう。どうして気付かなかったのか。
「父上、アイレットが修道女になるのは変わらないのですか」
「ああ、そうだ」
「そんなことをすれば、優秀な娘を追い出したと言われかねません」
「アイレットは信仰心が強いんだ」
「それは分かっていますが、私たちはアイレットを格下に見ていたのです」
不出来だと勝手に決め付けたのは悪かったと思う。だがそんなこと思うはずないじゃないか。本は与えていたようだが、家庭教師も付いていなかった。
信仰心が強いことは疑っていない。だがアイレットとの関係性が変わらないまま、修道女になってしまったら、見下したまま追い出したように見えるではないか。
「お前たちが勝手に見下していただけじゃないか」
「それはそうですが、優秀な者は去られるような家だと思われてもいいのですか!」
「そのようなことにはならん」
ビオ公爵家の手前もあり、アイレットが修道女にならないということ出来ない。アイレットも許可を得ずとも出て行くだろう。
「それよりもアデリーナに誰かいい人はいないのか」
「アデリーナはアイレットを悪く言っていたのが広まっているようです」
「…そうか」
「どこかうちの縁者の者に娶らせるしかないのではありませんか」
「やはりそれしかないか…」
フィーストも保留になっている、アデリーナも望むような縁談も、相手からの縁談の希望もない。マスタールの縁者に娶らせるしかない、父も考えていたはずだ。
ハービスは先日、アイレットを不出来だとよく言っていた、侯爵家と伯爵家の3人の友人たちに誤りだったと話した。すると、ああと皆は目を逸らした。
「知っていたのか」
「まあな、だがお前が何を持って不出来だと言っているのかは分からなかったからな。いくら勉強が出来ても、何かあるのかと思っていた」
「何かあるのか?」
「いや、正直に話すが、暗くてほとんど喋らないんだ。だからきっと勉強も出来ないだろうと思っていた」
「それは酷いな」
「それだけで不出来はないだろう」
「ああ、私もそう思う。情けない、恥ずかしいと何度も思った」
「夫婦揃って言っていたもんな」
「リリンナも?」
リリンナはハービスの妻で、マスタール家の遠縁のソック伯爵令嬢である。
「知らなかったのか?」
「可哀想だと思って、私が話し掛けてあげているのに、ちっとも楽しそうじゃない。なんか気持ち悪い、不出来な義妹は要らないとか。マスタールに相応しくないとか。私の妻によく言っていたそうだ」
「嘘だろ…」
私が言ったことを信じたのだろうが、同調することはあっても、そこまで言っていると思わなかった。
「正直、似た物夫婦だと思っていたよ」
「私は元はマスタール侯爵家の遠縁なのに、どうしてそこまで言えるのかちょっと疑問だったよ」
「それは私が」
「いや、それでも侯爵家に嫁いだ身なのに、あんなに風に蔑むのは資質の問題じゃないか」
「そんな風に思っていたのか…」
何度もリリンナにも会わせ、夫婦同士でも仲良くしていると思っていたが、そうではなかったとは。
「ああ、もう言ってしまった方が君のためだと思ってな。夫人は夫人たちの茶会の誘いがないのではないか?」
「えっ、ああ、確かに最近減ったとは言っていたが」
「嫁いだ先の妹君をあんなに蔑んでいるような人を付き合いたくないとね、言われているんだよ。姉の方がまだ実の妹だから、まあマシってところかな」
「そんな…リリンナにはちゃんと言って聞かせるよ」
確かにアデリーナの方が実妹だから、家族の軽口という場合もあるが、リリンナは嫁いで来た身で、義妹の悪口を言っていたら、付き合いを避けられるようになるだろう。どうして気付かなかったのか。
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