【完結】会いたいあなたはどこにもいない

野村にれ

文字の大きさ
上 下
3 / 67

姉の縁談

しおりを挟む
「トレース・フォリッチです」
「アデリーナ・マスタールでございます」

 お互いに第一印象は悪くないまま、話は進み、2人で話すことになった。

 トレースは1つ年上で、フォリッチ夫妻も大らかで、話し方も柔らかく優しい印象であった。

「やはりマスタール家の教育は厳しいのですか」
「そうですね、幼い頃から家庭教師が付き、兄たちはよく逃げ出しておりましたわ。後は善悪について家族と話すことも多いです」
「やはりそうなんですね、私がマスタール家に生まれていたら大変だったでしょうね、ははは」
「そのようなことはありませんでしょう。他家のことは分かりませんが、マスタールとして当たり前だと思って来ましたから、少し違うのかもしれませんわね」
「妹君も、」
「アイレットですか?アイレットだけはなぜあんな風になってしまったのか。兄たちも両親も手を焼いているのです」
「え?」

 アデリーナは困っているのと言わんばかりに手を頬にあてる仕草をしている。

 トレースは学園を卒業しているが、妹・パルシエが在学中であるため、アイレットのことをよく聞かされていた。その姉と縁談の話があり、どういった勉強法なのか聞いてみたかっただけであった。

「不出来な妹で申し訳ないですわ。何かご不快なことがありましたか、もしあったのならば、私が代わりに謝罪いたします」
「いえ、妹が同級生でして」

 パルシエから聞いた話と全く違う。妹は良くも悪くも素直なので、嘘を言うはずはない。成績は入学してからずっと1位。それが不出来だというのか。

 マスタールとしても、如何なる時も正義を貫くと聞いていたが、アイレットは見ているだけで、仲裁に入ることはない。だが、その後に保健室に連れて行き、教師に報告を行っていたという。

 おそらく、自身が入っても解決にならないことを分かっているからこそ、状況を判断しているのだろうと言っていた。

「まあ、何か迷惑を掛けたのではありませんか、申し訳ございません」
「いえ、そのようなことは聞いておりません」
「そうですか、あの子は皆と似ておりませんの。もう少し、しっかりしてくれるといいのだけど」

 トレースはアデリーナは好みではなかったが、フォリッチ公爵家には嫁ぎたい。好感触だろうと思っていたが、フォリッチ側から断られることになった。

「どうしてですの?」
「アデリーナでは、フォリッチ公爵家では役不足だろうという理由だそうだ」
「え?」
「そのようなことはないと言ったのだが、我が家には勿体ないの一点張りでね」
「そうですか…私も少し頼りない感じがしていましたから仕方ありませんわ」

 今度は同じ爵位のエネジア侯爵家と顔合わせをすることになったが、結果は同じで、断られた言葉も同じであった。

「我が家では役不足でしょう」

 再びそんなことはないと言えど、アデリーナに問題があるわけではないと言われ、ただもっと相応の相手と言われてしまう。どこに出しても恥ずかしくない娘ではあるが、公爵家・侯爵家以上のなかなか相手はいない。他国の王族に簡単に縁組が出来るわけがない。

 アデリーナのことで悩みながらも、アイレットのことも考えなくてはならない。

「アイレットは卒業後はどうするつもりだ?」
「修道女になります」
「そうか、その道に進むのだな…」
「はい」

 アイレットは久し振りに父親に呼ばれ、父も幼い頃から聖書を読み、礼拝に通う姿に、おそらくそうだろうと思っていたので、驚くことはなかった。マスタールとして周りに比べられるよりも、修道女が1人いるのも悪くはないと受け入れられた。

 兄たちと姉にも知らされ、驚きはしたが、こちらも陰気で不出来なアイレットには向いているのかもしれないと受け入れた。

 20歳になってもアデリーナの婚約者が決まらないまま、時は過ぎ、ハービスは既に結婚したが、フィーストの婚約者が白紙に戻して欲しいと言い出したのだ。そこで2人はようやく知ることとなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。 しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。 数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

処理中です...