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姉の縁談
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「トレース・フォリッチです」
「アデリーナ・マスタールでございます」
お互いに第一印象は悪くないまま、話は進み、2人で話すことになった。
トレースは1つ年上で、フォリッチ夫妻も大らかで、話し方も柔らかく優しい印象であった。
「やはりマスタール家の教育は厳しいのですか」
「そうですね、幼い頃から家庭教師が付き、兄たちはよく逃げ出しておりましたわ。後は善悪について家族と話すことも多いです」
「やはりそうなんですね、私がマスタール家に生まれていたら大変だったでしょうね、ははは」
「そのようなことはありませんでしょう。他家のことは分かりませんが、マスタールとして当たり前だと思って来ましたから、少し違うのかもしれませんわね」
「妹君も、」
「アイレットですか?アイレットだけはなぜあんな風になってしまったのか。兄たちも両親も手を焼いているのです」
「え?」
アデリーナは困っているのと言わんばかりに手を頬にあてる仕草をしている。
トレースは学園を卒業しているが、妹・パルシエが在学中であるため、アイレットのことをよく聞かされていた。その姉と縁談の話があり、どういった勉強法なのか聞いてみたかっただけであった。
「不出来な妹で申し訳ないですわ。何かご不快なことがありましたか、もしあったのならば、私が代わりに謝罪いたします」
「いえ、妹が同級生でして」
パルシエから聞いた話と全く違う。妹は良くも悪くも素直なので、嘘を言うはずはない。成績は入学してからずっと1位。それが不出来だというのか。
マスタールとしても、如何なる時も正義を貫くと聞いていたが、アイレットは見ているだけで、仲裁に入ることはない。だが、その後に保健室に連れて行き、教師に報告を行っていたという。
おそらく、自身が入っても解決にならないことを分かっているからこそ、状況を判断しているのだろうと言っていた。
「まあ、何か迷惑を掛けたのではありませんか、申し訳ございません」
「いえ、そのようなことは聞いておりません」
「そうですか、あの子は皆と似ておりませんの。もう少し、しっかりしてくれるといいのだけど」
トレースはアデリーナは好みではなかったが、フォリッチ公爵家には嫁ぎたい。好感触だろうと思っていたが、フォリッチ側から断られることになった。
「どうしてですの?」
「アデリーナでは、フォリッチ公爵家では役不足だろうという理由だそうだ」
「え?」
「そのようなことはないと言ったのだが、我が家には勿体ないの一点張りでね」
「そうですか…私も少し頼りない感じがしていましたから仕方ありませんわ」
今度は同じ爵位のエネジア侯爵家と顔合わせをすることになったが、結果は同じで、断られた言葉も同じであった。
「我が家では役不足でしょう」
再びそんなことはないと言えど、アデリーナに問題があるわけではないと言われ、ただもっと相応の相手と言われてしまう。どこに出しても恥ずかしくない娘ではあるが、公爵家・侯爵家以上のなかなか相手はいない。他国の王族に簡単に縁組が出来るわけがない。
アデリーナのことで悩みながらも、アイレットのことも考えなくてはならない。
「アイレットは卒業後はどうするつもりだ?」
「修道女になります」
「そうか、その道に進むのだな…」
「はい」
アイレットは久し振りに父親に呼ばれ、父も幼い頃から聖書を読み、礼拝に通う姿に、おそらくそうだろうと思っていたので、驚くことはなかった。マスタールとして周りに比べられるよりも、修道女が1人いるのも悪くはないと受け入れられた。
兄たちと姉にも知らされ、驚きはしたが、こちらも陰気で不出来なアイレットには向いているのかもしれないと受け入れた。
20歳になってもアデリーナの婚約者が決まらないまま、時は過ぎ、ハービスは既に結婚したが、フィーストの婚約者が白紙に戻して欲しいと言い出したのだ。そこで2人はようやく知ることとなった。
「アデリーナ・マスタールでございます」
お互いに第一印象は悪くないまま、話は進み、2人で話すことになった。
トレースは1つ年上で、フォリッチ夫妻も大らかで、話し方も柔らかく優しい印象であった。
「やはりマスタール家の教育は厳しいのですか」
「そうですね、幼い頃から家庭教師が付き、兄たちはよく逃げ出しておりましたわ。後は善悪について家族と話すことも多いです」
「やはりそうなんですね、私がマスタール家に生まれていたら大変だったでしょうね、ははは」
「そのようなことはありませんでしょう。他家のことは分かりませんが、マスタールとして当たり前だと思って来ましたから、少し違うのかもしれませんわね」
「妹君も、」
「アイレットですか?アイレットだけはなぜあんな風になってしまったのか。兄たちも両親も手を焼いているのです」
「え?」
アデリーナは困っているのと言わんばかりに手を頬にあてる仕草をしている。
トレースは学園を卒業しているが、妹・パルシエが在学中であるため、アイレットのことをよく聞かされていた。その姉と縁談の話があり、どういった勉強法なのか聞いてみたかっただけであった。
「不出来な妹で申し訳ないですわ。何かご不快なことがありましたか、もしあったのならば、私が代わりに謝罪いたします」
「いえ、妹が同級生でして」
パルシエから聞いた話と全く違う。妹は良くも悪くも素直なので、嘘を言うはずはない。成績は入学してからずっと1位。それが不出来だというのか。
マスタールとしても、如何なる時も正義を貫くと聞いていたが、アイレットは見ているだけで、仲裁に入ることはない。だが、その後に保健室に連れて行き、教師に報告を行っていたという。
おそらく、自身が入っても解決にならないことを分かっているからこそ、状況を判断しているのだろうと言っていた。
「まあ、何か迷惑を掛けたのではありませんか、申し訳ございません」
「いえ、そのようなことは聞いておりません」
「そうですか、あの子は皆と似ておりませんの。もう少し、しっかりしてくれるといいのだけど」
トレースはアデリーナは好みではなかったが、フォリッチ公爵家には嫁ぎたい。好感触だろうと思っていたが、フォリッチ側から断られることになった。
「どうしてですの?」
「アデリーナでは、フォリッチ公爵家では役不足だろうという理由だそうだ」
「え?」
「そのようなことはないと言ったのだが、我が家には勿体ないの一点張りでね」
「そうですか…私も少し頼りない感じがしていましたから仕方ありませんわ」
今度は同じ爵位のエネジア侯爵家と顔合わせをすることになったが、結果は同じで、断られた言葉も同じであった。
「我が家では役不足でしょう」
再びそんなことはないと言えど、アデリーナに問題があるわけではないと言われ、ただもっと相応の相手と言われてしまう。どこに出しても恥ずかしくない娘ではあるが、公爵家・侯爵家以上のなかなか相手はいない。他国の王族に簡単に縁組が出来るわけがない。
アデリーナのことで悩みながらも、アイレットのことも考えなくてはならない。
「アイレットは卒業後はどうするつもりだ?」
「修道女になります」
「そうか、その道に進むのだな…」
「はい」
アイレットは久し振りに父親に呼ばれ、父も幼い頃から聖書を読み、礼拝に通う姿に、おそらくそうだろうと思っていたので、驚くことはなかった。マスタールとして周りに比べられるよりも、修道女が1人いるのも悪くはないと受け入れられた。
兄たちと姉にも知らされ、驚きはしたが、こちらも陰気で不出来なアイレットには向いているのかもしれないと受け入れた。
20歳になってもアデリーナの婚約者が決まらないまま、時は過ぎ、ハービスは既に結婚したが、フィーストの婚約者が白紙に戻して欲しいと言い出したのだ。そこで2人はようやく知ることとなった。
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