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輪廻
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私の家族は駄目な貴族だったそうだ。
両親も祖父母も、父方は勿論、母方も同様であった。甘い汁が吸えれば何でもいい。使用人もおかしいとは思っても、逆らうことは出来ない者しかいない。
税を上げ、それなのに領地に天候で被害が起きても何もしない、子どもが連れ去られる事件が多発するようになっても、何もしなかった。
贅沢をするのが務めと言わんばかりだった。
国でも内密に調査も行われてはいたが、その前に領民によって反乱が起きた。頼りにならない領主など要らない。いつかこんな日が来るだろうと皆が思っていた。
親族だけが殺され、邸には火が上がった。ちょうど新年で親族が集まっており、狙われたのであろう。他の貴族も関わっていたようで、年若い私や子どもは生け捕りとなって、牢に入れられ、そこで侍女に前述の話を聞かされた。
その侍女も女性だと思っていたが、声変わり前の男の子だったようだ。
「このままでは処刑されます」
「…」
「弁明されてください。あなたは愚かな人間ではないはずです」
「証拠がありません」
「あなたは関与してはいないと、使用人が証言してくださいます」
「…」
「修道院に行っていただきます。人は生きてこそ意味があります。死んでは何も出来ません。償いたいというのならば、生きて償うことが責任ではないでしょうか」
「私の罪は何なのでしょうか…生まれて来たことでしょうか。それならば、火種を残すのは良くないと思いませんか」
「なぜですか!」
それから私は一切話さず、何度もこのままでは処刑になると言われたが、その言葉にだけこくりと頷いた。彼は自らの剣で私を処刑した、調査のために派遣された子爵家の子息だったそうだ。
短い人生を終えたはずだったが、また人として生まれて落ちてしまった。しかも成長して調べてみると、死んですぐのことだった。
切り殺された家族も、燃え盛る火も、殺された記憶もある、あの立ち上がれないほどの痛みも、生温かい傷も、血の匂いも、冷たい床も覚えている。
またやり直せと言うのか、それとも修道院に行かずに、処刑を選んだことの償いをしろと言うのか。神がいるなら教えて欲しい。
会いたいあなたはもうどこにもいないのに。
私の今の名前は、アイレット・マスタール。
現在の親は私の家族を罰した貴族だった。面識もないのに、気付いたのは親族に私を処刑した彼がいたからだ、彼の家が今、あの領地を賜っている。
ハービス、フィーストという兄2人、アデリーナという姉が1人いる。3人とも勤勉で優秀。両親は正義を愛し、事あるごとに私の家族の話を聞かせた。恥ずかしきバートロ伯爵家、兄たちと姉は熱くなって議論し、もっと早く殺すべきだったと話すことはお決まりとなっている。
私がその娘だと言えば、皆はどんな顔をするだろう。きちんと今度は消えるように罰を与えてくれるだろうか。
3人は学園でも社交界でも、嫌がらせには爵位関係なく仲裁に入り、勉強を教えたり、乗馬やダンスが苦手だと言えば練習に付き合ったりしているそうだ。
正義のマスタール侯爵家、そう呼ばれている。
アイレットだけは異質で、毎日戒めのように聖書を読み、毎週礼拝に通い、無口で、よく言えば大人しい子、悪く言えば陰湿な子。信仰を咎めることは出来ないが、兄たちと姉は幾度となく、自分たちのようになるように言って来るようになった。
「どうして私たちを見習って同じようにしないんだ」
「同じにすればいいだけだろう?簡単じゃないか」
「そうよ、あなたこのままでは嫁ぎ先もないわよ」
「申し訳ございません」
顔を合わせれば似たようなやり取りが毎回繰り広げられる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お読みいただきありがとうございます。
連載中も前世がある令嬢ですが、
こちらは前世を抱え続けているような令嬢です。
どうぞよろしくお願いいたします。
両親も祖父母も、父方は勿論、母方も同様であった。甘い汁が吸えれば何でもいい。使用人もおかしいとは思っても、逆らうことは出来ない者しかいない。
税を上げ、それなのに領地に天候で被害が起きても何もしない、子どもが連れ去られる事件が多発するようになっても、何もしなかった。
贅沢をするのが務めと言わんばかりだった。
国でも内密に調査も行われてはいたが、その前に領民によって反乱が起きた。頼りにならない領主など要らない。いつかこんな日が来るだろうと皆が思っていた。
親族だけが殺され、邸には火が上がった。ちょうど新年で親族が集まっており、狙われたのであろう。他の貴族も関わっていたようで、年若い私や子どもは生け捕りとなって、牢に入れられ、そこで侍女に前述の話を聞かされた。
その侍女も女性だと思っていたが、声変わり前の男の子だったようだ。
「このままでは処刑されます」
「…」
「弁明されてください。あなたは愚かな人間ではないはずです」
「証拠がありません」
「あなたは関与してはいないと、使用人が証言してくださいます」
「…」
「修道院に行っていただきます。人は生きてこそ意味があります。死んでは何も出来ません。償いたいというのならば、生きて償うことが責任ではないでしょうか」
「私の罪は何なのでしょうか…生まれて来たことでしょうか。それならば、火種を残すのは良くないと思いませんか」
「なぜですか!」
それから私は一切話さず、何度もこのままでは処刑になると言われたが、その言葉にだけこくりと頷いた。彼は自らの剣で私を処刑した、調査のために派遣された子爵家の子息だったそうだ。
短い人生を終えたはずだったが、また人として生まれて落ちてしまった。しかも成長して調べてみると、死んですぐのことだった。
切り殺された家族も、燃え盛る火も、殺された記憶もある、あの立ち上がれないほどの痛みも、生温かい傷も、血の匂いも、冷たい床も覚えている。
またやり直せと言うのか、それとも修道院に行かずに、処刑を選んだことの償いをしろと言うのか。神がいるなら教えて欲しい。
会いたいあなたはもうどこにもいないのに。
私の今の名前は、アイレット・マスタール。
現在の親は私の家族を罰した貴族だった。面識もないのに、気付いたのは親族に私を処刑した彼がいたからだ、彼の家が今、あの領地を賜っている。
ハービス、フィーストという兄2人、アデリーナという姉が1人いる。3人とも勤勉で優秀。両親は正義を愛し、事あるごとに私の家族の話を聞かせた。恥ずかしきバートロ伯爵家、兄たちと姉は熱くなって議論し、もっと早く殺すべきだったと話すことはお決まりとなっている。
私がその娘だと言えば、皆はどんな顔をするだろう。きちんと今度は消えるように罰を与えてくれるだろうか。
3人は学園でも社交界でも、嫌がらせには爵位関係なく仲裁に入り、勉強を教えたり、乗馬やダンスが苦手だと言えば練習に付き合ったりしているそうだ。
正義のマスタール侯爵家、そう呼ばれている。
アイレットだけは異質で、毎日戒めのように聖書を読み、毎週礼拝に通い、無口で、よく言えば大人しい子、悪く言えば陰湿な子。信仰を咎めることは出来ないが、兄たちと姉は幾度となく、自分たちのようになるように言って来るようになった。
「どうして私たちを見習って同じようにしないんだ」
「同じにすればいいだけだろう?簡単じゃないか」
「そうよ、あなたこのままでは嫁ぎ先もないわよ」
「申し訳ございません」
顔を合わせれば似たようなやり取りが毎回繰り広げられる。
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お読みいただきありがとうございます。
連載中も前世がある令嬢ですが、
こちらは前世を抱え続けているような令嬢です。
どうぞよろしくお願いいたします。
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