1 / 67
輪廻
しおりを挟む
私の家族は駄目な貴族だったそうだ。
両親も祖父母も、父方は勿論、母方も同様であった。甘い汁が吸えれば何でもいい。使用人もおかしいとは思っても、逆らうことは出来ない者しかいない。
税を上げ、それなのに領地に天候で被害が起きても何もしない、子どもが連れ去られる事件が多発するようになっても、何もしなかった。
贅沢をするのが務めと言わんばかりだった。
国でも内密に調査も行われてはいたが、その前に領民によって反乱が起きた。頼りにならない領主など要らない。いつかこんな日が来るだろうと皆が思っていた。
親族だけが殺され、邸には火が上がった。ちょうど新年で親族が集まっており、狙われたのであろう。他の貴族も関わっていたようで、年若い私や子どもは生け捕りとなって、牢に入れられ、そこで侍女に前述の話を聞かされた。
その侍女も女性だと思っていたが、声変わり前の男の子だったようだ。
「このままでは処刑されます」
「…」
「弁明されてください。あなたは愚かな人間ではないはずです」
「証拠がありません」
「あなたは関与してはいないと、使用人が証言してくださいます」
「…」
「修道院に行っていただきます。人は生きてこそ意味があります。死んでは何も出来ません。償いたいというのならば、生きて償うことが責任ではないでしょうか」
「私の罪は何なのでしょうか…生まれて来たことでしょうか。それならば、火種を残すのは良くないと思いませんか」
「なぜですか!」
それから私は一切話さず、何度もこのままでは処刑になると言われたが、その言葉にだけこくりと頷いた。彼は自らの剣で私を処刑した、調査のために派遣された子爵家の子息だったそうだ。
短い人生を終えたはずだったが、また人として生まれて落ちてしまった。しかも成長して調べてみると、死んですぐのことだった。
切り殺された家族も、燃え盛る火も、殺された記憶もある、あの立ち上がれないほどの痛みも、生温かい傷も、血の匂いも、冷たい床も覚えている。
またやり直せと言うのか、それとも修道院に行かずに、処刑を選んだことの償いをしろと言うのか。神がいるなら教えて欲しい。
会いたいあなたはもうどこにもいないのに。
私の今の名前は、アイレット・マスタール。
現在の親は私の家族を罰した貴族だった。面識もないのに、気付いたのは親族に私を処刑した彼がいたからだ、彼の家が今、あの領地を賜っている。
ハービス、フィーストという兄2人、アデリーナという姉が1人いる。3人とも勤勉で優秀。両親は正義を愛し、事あるごとに私の家族の話を聞かせた。恥ずかしきバートロ伯爵家、兄たちと姉は熱くなって議論し、もっと早く殺すべきだったと話すことはお決まりとなっている。
私がその娘だと言えば、皆はどんな顔をするだろう。きちんと今度は消えるように罰を与えてくれるだろうか。
3人は学園でも社交界でも、嫌がらせには爵位関係なく仲裁に入り、勉強を教えたり、乗馬やダンスが苦手だと言えば練習に付き合ったりしているそうだ。
正義のマスタール侯爵家、そう呼ばれている。
アイレットだけは異質で、毎日戒めのように聖書を読み、毎週礼拝に通い、無口で、よく言えば大人しい子、悪く言えば陰湿な子。信仰を咎めることは出来ないが、兄たちと姉は幾度となく、自分たちのようになるように言って来るようになった。
「どうして私たちを見習って同じようにしないんだ」
「同じにすればいいだけだろう?簡単じゃないか」
「そうよ、あなたこのままでは嫁ぎ先もないわよ」
「申し訳ございません」
顔を合わせれば似たようなやり取りが毎回繰り広げられる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お読みいただきありがとうございます。
連載中も前世がある令嬢ですが、
こちらは前世を抱え続けているような令嬢です。
どうぞよろしくお願いいたします。
両親も祖父母も、父方は勿論、母方も同様であった。甘い汁が吸えれば何でもいい。使用人もおかしいとは思っても、逆らうことは出来ない者しかいない。
税を上げ、それなのに領地に天候で被害が起きても何もしない、子どもが連れ去られる事件が多発するようになっても、何もしなかった。
贅沢をするのが務めと言わんばかりだった。
国でも内密に調査も行われてはいたが、その前に領民によって反乱が起きた。頼りにならない領主など要らない。いつかこんな日が来るだろうと皆が思っていた。
親族だけが殺され、邸には火が上がった。ちょうど新年で親族が集まっており、狙われたのであろう。他の貴族も関わっていたようで、年若い私や子どもは生け捕りとなって、牢に入れられ、そこで侍女に前述の話を聞かされた。
その侍女も女性だと思っていたが、声変わり前の男の子だったようだ。
「このままでは処刑されます」
「…」
「弁明されてください。あなたは愚かな人間ではないはずです」
「証拠がありません」
「あなたは関与してはいないと、使用人が証言してくださいます」
「…」
「修道院に行っていただきます。人は生きてこそ意味があります。死んでは何も出来ません。償いたいというのならば、生きて償うことが責任ではないでしょうか」
「私の罪は何なのでしょうか…生まれて来たことでしょうか。それならば、火種を残すのは良くないと思いませんか」
「なぜですか!」
それから私は一切話さず、何度もこのままでは処刑になると言われたが、その言葉にだけこくりと頷いた。彼は自らの剣で私を処刑した、調査のために派遣された子爵家の子息だったそうだ。
短い人生を終えたはずだったが、また人として生まれて落ちてしまった。しかも成長して調べてみると、死んですぐのことだった。
切り殺された家族も、燃え盛る火も、殺された記憶もある、あの立ち上がれないほどの痛みも、生温かい傷も、血の匂いも、冷たい床も覚えている。
またやり直せと言うのか、それとも修道院に行かずに、処刑を選んだことの償いをしろと言うのか。神がいるなら教えて欲しい。
会いたいあなたはもうどこにもいないのに。
私の今の名前は、アイレット・マスタール。
現在の親は私の家族を罰した貴族だった。面識もないのに、気付いたのは親族に私を処刑した彼がいたからだ、彼の家が今、あの領地を賜っている。
ハービス、フィーストという兄2人、アデリーナという姉が1人いる。3人とも勤勉で優秀。両親は正義を愛し、事あるごとに私の家族の話を聞かせた。恥ずかしきバートロ伯爵家、兄たちと姉は熱くなって議論し、もっと早く殺すべきだったと話すことはお決まりとなっている。
私がその娘だと言えば、皆はどんな顔をするだろう。きちんと今度は消えるように罰を与えてくれるだろうか。
3人は学園でも社交界でも、嫌がらせには爵位関係なく仲裁に入り、勉強を教えたり、乗馬やダンスが苦手だと言えば練習に付き合ったりしているそうだ。
正義のマスタール侯爵家、そう呼ばれている。
アイレットだけは異質で、毎日戒めのように聖書を読み、毎週礼拝に通い、無口で、よく言えば大人しい子、悪く言えば陰湿な子。信仰を咎めることは出来ないが、兄たちと姉は幾度となく、自分たちのようになるように言って来るようになった。
「どうして私たちを見習って同じようにしないんだ」
「同じにすればいいだけだろう?簡単じゃないか」
「そうよ、あなたこのままでは嫁ぎ先もないわよ」
「申し訳ございません」
顔を合わせれば似たようなやり取りが毎回繰り広げられる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お読みいただきありがとうございます。
連載中も前世がある令嬢ですが、
こちらは前世を抱え続けているような令嬢です。
どうぞよろしくお願いいたします。
493
お気に入りに追加
2,352
あなたにおすすめの小説
忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。
完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言
音爽(ネソウ)
恋愛
王太子の心が離れたと気づいたのはいつだったか。
婚姻直前にも拘わらず、すっかり冷えた関係。いまでは王太子は堂々と愛人を侍らせていた。
愛人を側妃として置きたいと切望する、だがそれは継承権に抵触する事だと王に叱責され叶わない。
絶望した彼は「いっそのこと市井に下ってしまおうか」と思い悩む……
愛のない貴方からの婚約破棄は受け入れますが、その不貞の代償は大きいですよ?
日々埋没。
恋愛
公爵令嬢アズールサは隣国の男爵令嬢による嘘のイジメ被害告発のせいで、婚約者の王太子から婚約破棄を告げられる。
「どうぞご自由に。私なら傲慢な殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」
しかし愛のない政略結婚でこれまで冷遇されてきたアズールサは二つ返事で了承し、晴れて邪魔な婚約者を男爵令嬢に押し付けることに成功する。
「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って実は〇〇ですよ? まあ独り言ですが」
嘘つき男爵令嬢に騙された王太子は取り返しのつかない最期を迎えることになり……。
※この作品は過去に公開したことのある作品に修正を加えたものです。
またこの作品とは別に、他サイトでも本作を元にしたリメイク作を別のペンネー厶で公開していますがそのことをあらかじめご了承ください。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
(完結)婚約破棄から始まる真実の愛
青空一夏
恋愛
私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。
女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?
美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
【完結】他人に優しい婚約者ですが、私だけ例外のようです
白草まる
恋愛
婚約者を放置してでも他人に優しく振る舞うダニーロ。
それを不満に思いつつも簡単には婚約関係を解消できず諦めかけていたマルレーネ。
二人が参加したパーティーで見知らぬ令嬢がマルレーネへと声をかけてきた。
「単刀直入に言います。ダニーロ様と別れてください」
[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで
みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める
婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様
私を愛してくれる人の為にももう自由になります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる