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夫
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「生きてたか?」
「ああ、無駄に生きているよ」
オーランドは王太子殿下の側近は後継者を見付け、引継ぎをして、ようやく辞していた。騎士団の団員となり、出張なども家庭がある者に代わって、率先して引き受けているので、王都にいないことも多い。
「アベリーは?」
「無事着いたと手紙が来たよ」
「そうか…」
話し合いはともかく、アベリーの見送りには行きたかったと言っていたのだが、王都にいなかった。
「オーランドも怒っているのではないかと言っていたが、怒る資格はないと思っていると話してある」
「その通りだよ、資格なんてない…今回の行き先、オーリー男爵領だったんだ」
「そこは…」
ユーリの縁談の相手であるミランス・オーリーの領地ではないか。
「是非に行かせて欲しいと頼んでね、行かせて貰ったんだ。良きところだった…」
「そうか…」
「ユーリはそこで幸せにしていたかもしれないと思ったら…堪らなかったよ」
「だが、事故で亡くなったんだろう?」
「事故には違いないが、彼は結婚したら領に戻る予定だったそうだ。ユーリもおそらく領地の医院に勤める予定にしていたのだと思う」
「そうか…」
ユーリと結婚していたら、彼も事故には遭わなかったと思っているのだろう。いや、そう考えずにはいられないのだろう。
「親が昔、よく言っていたよな、双子同士で結婚すればいいって」
「言っていたな」
キリアムは当時は双子同士なんて安易だなと思っていた。
「私はそうなったら、ユーリと結婚が出来るかもしれないって思っていたんだよ。だけど、実際は誰も幸せにはなれなかったな」
「ああ…」
キリアムは離縁、オーランドは死別、ユーリは亡くなり、メルベールは更生保護施設。誰も幸せだとは言えない、幸せだったとも言えない。
「再婚は考えているのか?」
「いや、父上がトスカーとミエルが成長するまで、当主でいてくれたなら、そのまま譲るつもりだよ」
「そうか、ここも誰かが継がない限りは、このままトスター侯爵家に戻すよ」
「再婚してもいいとは思うぞ」
「いや、私は誰かを幸せには出来ない」
「愛してくれなくてもいいという人でもいるんじゃないか?」
「今となっては嫌悪するようになってね、ユーリはきっと愚かだって笑うだろうね」
オーランドはキリアムに向かって、力なく笑った。
「そうだ、トスカーとミエルがユーリに会っていたんだよ」
「え?」
「二人の友人がスカラット侯爵家で、そこで会っていたそうなんだ。サイラ夫人にも話したら、知らなかった。アベリーにばかり構っていることを聞いて、寂しい思いをしていないか、会わせて貰うように頼まれたと言っていたそうだよ」
サイラはスカラット侯爵夫人からも情報を得ていたが、これは三人の秘密だったから言わなかったと聞かされた。
「自分と重ねたのかもしれないな」
「ああ、まだ三歳くらいだったからな、それでも二人は覚えているそうだ。ユーリちゃんと呼んでいたそうだよ」
「そうか…」
呼び名だけでオーランドの目はあっという間に潤んでいった。
「確かに何度か迎えが来ていて、ユーリがいることがバレると不味いと、付き添いも断っていたのだろうな」
「何も知らなかった…」
「トスカーとミエルにユーリは折角双子なんだから、悲しみも喜びも、全部半分にしたらいいと、そう言っていたそうだ。負の部分ばかりを背負わされたユーリの願いだったんじゃないかな」
「そ、うか…」
「だから天国のユーリに双子で良かったと思える人生を届けるってさ」
オーランドはその言葉に声が出ず、静かに涙を流した。
「こんな状況なのに、心配しなくていいって言うんだ。いい息子たちだろう?ユーリが導いてくれたのだろうな」
「ああ…」
「私たちも助け合えって、そうしないか?」
「ああ…ありがとう」
妻がいなくなった者同士、ユーリに恥じぬように生きていくことだけが、出来ることだろう。キリアムはオーランドの肩をポンと叩いた。
「ああ、無駄に生きているよ」
オーランドは王太子殿下の側近は後継者を見付け、引継ぎをして、ようやく辞していた。騎士団の団員となり、出張なども家庭がある者に代わって、率先して引き受けているので、王都にいないことも多い。
「アベリーは?」
「無事着いたと手紙が来たよ」
「そうか…」
話し合いはともかく、アベリーの見送りには行きたかったと言っていたのだが、王都にいなかった。
「オーランドも怒っているのではないかと言っていたが、怒る資格はないと思っていると話してある」
「その通りだよ、資格なんてない…今回の行き先、オーリー男爵領だったんだ」
「そこは…」
ユーリの縁談の相手であるミランス・オーリーの領地ではないか。
「是非に行かせて欲しいと頼んでね、行かせて貰ったんだ。良きところだった…」
「そうか…」
「ユーリはそこで幸せにしていたかもしれないと思ったら…堪らなかったよ」
「だが、事故で亡くなったんだろう?」
「事故には違いないが、彼は結婚したら領に戻る予定だったそうだ。ユーリもおそらく領地の医院に勤める予定にしていたのだと思う」
「そうか…」
ユーリと結婚していたら、彼も事故には遭わなかったと思っているのだろう。いや、そう考えずにはいられないのだろう。
「親が昔、よく言っていたよな、双子同士で結婚すればいいって」
「言っていたな」
キリアムは当時は双子同士なんて安易だなと思っていた。
「私はそうなったら、ユーリと結婚が出来るかもしれないって思っていたんだよ。だけど、実際は誰も幸せにはなれなかったな」
「ああ…」
キリアムは離縁、オーランドは死別、ユーリは亡くなり、メルベールは更生保護施設。誰も幸せだとは言えない、幸せだったとも言えない。
「再婚は考えているのか?」
「いや、父上がトスカーとミエルが成長するまで、当主でいてくれたなら、そのまま譲るつもりだよ」
「そうか、ここも誰かが継がない限りは、このままトスター侯爵家に戻すよ」
「再婚してもいいとは思うぞ」
「いや、私は誰かを幸せには出来ない」
「愛してくれなくてもいいという人でもいるんじゃないか?」
「今となっては嫌悪するようになってね、ユーリはきっと愚かだって笑うだろうね」
オーランドはキリアムに向かって、力なく笑った。
「そうだ、トスカーとミエルがユーリに会っていたんだよ」
「え?」
「二人の友人がスカラット侯爵家で、そこで会っていたそうなんだ。サイラ夫人にも話したら、知らなかった。アベリーにばかり構っていることを聞いて、寂しい思いをしていないか、会わせて貰うように頼まれたと言っていたそうだよ」
サイラはスカラット侯爵夫人からも情報を得ていたが、これは三人の秘密だったから言わなかったと聞かされた。
「自分と重ねたのかもしれないな」
「ああ、まだ三歳くらいだったからな、それでも二人は覚えているそうだ。ユーリちゃんと呼んでいたそうだよ」
「そうか…」
呼び名だけでオーランドの目はあっという間に潤んでいった。
「確かに何度か迎えが来ていて、ユーリがいることがバレると不味いと、付き添いも断っていたのだろうな」
「何も知らなかった…」
「トスカーとミエルにユーリは折角双子なんだから、悲しみも喜びも、全部半分にしたらいいと、そう言っていたそうだ。負の部分ばかりを背負わされたユーリの願いだったんじゃないかな」
「そ、うか…」
「だから天国のユーリに双子で良かったと思える人生を届けるってさ」
オーランドはその言葉に声が出ず、静かに涙を流した。
「こんな状況なのに、心配しなくていいって言うんだ。いい息子たちだろう?ユーリが導いてくれたのだろうな」
「ああ…」
「私たちも助け合えって、そうしないか?」
「ああ…ありがとう」
妻がいなくなった者同士、ユーリに恥じぬように生きていくことだけが、出来ることだろう。キリアムはオーランドの肩をポンと叩いた。
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