上 下
117 / 118

しおりを挟む
「生きてたか?」
「ああ、無駄に生きているよ」

 オーランドは王太子殿下の側近は後継者を見付け、引継ぎをして、ようやく辞していた。騎士団の団員となり、出張なども家庭がある者に代わって、率先して引き受けているので、王都にいないことも多い。

「アベリーは?」
「無事着いたと手紙が来たよ」
「そうか…」

 話し合いはともかく、アベリーの見送りには行きたかったと言っていたのだが、王都にいなかった。

「オーランドも怒っているのではないかと言っていたが、怒る資格はないと思っていると話してある」
「その通りだよ、資格なんてない…今回の行き先、オーリー男爵領だったんだ」
「そこは…」

 ユーリの縁談の相手であるミランス・オーリーの領地ではないか。

「是非に行かせて欲しいと頼んでね、行かせて貰ったんだ。良きところだった…」
「そうか…」
「ユーリはそこで幸せにしていたかもしれないと思ったら…堪らなかったよ」
「だが、事故で亡くなったんだろう?」
「事故には違いないが、彼は結婚したら領に戻る予定だったそうだ。ユーリもおそらく領地の医院に勤める予定にしていたのだと思う」
「そうか…」

 ユーリと結婚していたら、彼も事故には遭わなかったと思っているのだろう。いや、そう考えずにはいられないのだろう。

「親が昔、よく言っていたよな、双子同士で結婚すればいいって」
「言っていたな」

 キリアムは当時は双子同士なんて安易だなと思っていた。

「私はそうなったら、ユーリと結婚が出来るかもしれないって思っていたんだよ。だけど、実際は誰も幸せにはなれなかったな」
「ああ…」

 キリアムは離縁、オーランドは死別、ユーリは亡くなり、メルベールは更生保護施設。誰も幸せだとは言えない、幸せだったとも言えない。

「再婚は考えているのか?」
「いや、父上がトスカーとミエルが成長するまで、当主でいてくれたなら、そのまま譲るつもりだよ」
「そうか、ここも誰かが継がない限りは、このままトスター侯爵家に戻すよ」
「再婚してもいいとは思うぞ」
「いや、私は誰かを幸せには出来ない」
「愛してくれなくてもいいという人でもいるんじゃないか?」
「今となっては嫌悪するようになってね、ユーリはきっと愚かだって笑うだろうね」

 オーランドはキリアムに向かって、力なく笑った。

「そうだ、トスカーとミエルがユーリに会っていたんだよ」
「え?」
「二人の友人がスカラット侯爵家で、そこで会っていたそうなんだ。サイラ夫人にも話したら、知らなかった。アベリーにばかり構っていることを聞いて、寂しい思いをしていないか、会わせて貰うように頼まれたと言っていたそうだよ」

 サイラはスカラット侯爵夫人からも情報を得ていたが、これは三人の秘密だったから言わなかったと聞かされた。

「自分と重ねたのかもしれないな」
「ああ、まだ三歳くらいだったからな、それでも二人は覚えているそうだ。ユーリちゃんと呼んでいたそうだよ」
「そうか…」

 呼び名だけでオーランドの目はあっという間に潤んでいった。

「確かに何度か迎えが来ていて、ユーリがいることがバレると不味いと、付き添いも断っていたのだろうな」
「何も知らなかった…」
「トスカーとミエルにユーリは折角双子なんだから、悲しみも喜びも、全部半分にしたらいいと、そう言っていたそうだ。負の部分ばかりを背負わされたユーリの願いだったんじゃないかな」
「そ、うか…」
「だから天国のユーリに双子で良かったと思える人生を届けるってさ」

 オーランドはその言葉に声が出ず、静かに涙を流した。

「こんな状況なのに、心配しなくていいって言うんだ。いい息子たちだろう?ユーリが導いてくれたのだろうな」
「ああ…」
「私たちも助け合えって、そうしないか?」
「ああ…ありがとう」

 妻がいなくなった者同士、ユーリに恥じぬように生きていくことだけが、出来ることだろう。キリアムはオーランドの肩をポンと叩いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

【完結】貴方の望み通りに・・・

kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも どんなに貴方を見つめても どんなに貴方を思っても だから、 もう貴方を望まない もう貴方を見つめない もう貴方のことは忘れる さようなら

処理中です...