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最終話
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ユーリが亡くなって、15年の歳月が流れていた。
アベリーは二十歳、トスカーとミエルも十八歳になり、キリアムとオーランドは四十歳になっていた。ユーリも生きていたら、同じ年になっていた。
アベリーは修道院で生活をしながら、ユーリの月命日には墓参りを続けていた。アレクスとサイラに会うこともあった。
そして五年が経ち、文のやり取りはしていたが、キリアムはアベリーに会いに行くことにした。
実は謝罪の後でラオン大公家から、キリアムの判断でアベリーを修道院を出していいと許可を得ていた。だがキリアムは最低でも五年は、アベリーにこのことを伝えることはしないと決めていた。
「実はラオン大公家から私の判断で、修道院から出す許可を持っていた」
「そうだったのですか」
「でも五年は言わないと決めていたのだ。すまない」
「いえ、謝ることではありません。私はこのまま、ここで暮らします」
「勿論、それでもいい。でも私と暮らすことも考えて貰えないか?仕事も手伝ってくれると助かる。トスカーとミエルも承諾しているし、勿論父上もだよ」
「でもいずれトスカーとミエルに奥様が娶られるでしょう?」
トスカーとミエルとも文もやり取りをしており、まだ二人に婚約者はいないと聞いている。相手がいなくて困っているのではなく、勉強で忙しいと聞いている。
「そうなったら、領地に移ればいい。クレナ伯爵家に移ってもいい」
「クレナ伯爵家に?」
「オーランド叔父さんが寂しく暮らしているから、いいかもしれない。今日、答えを出さなくていい。直接言いたかったから、来ただけだからな。勿論、ユーリの墓参りはこれまで通り行けばいい」
一生ここにいると思っていたアベリーは混乱し、頭を抱えた。
修道院も辛くて苦しいだけの場所ではない、やり甲斐もある。寄宿学校の友人とも文のやり取りをしながら、愚痴を言い合ったり、励まし合ったりしている。それなのに、私だけそんな温かい場所に行っていいのか。
「そんな…私だけいいの…」
「いいんだよ、アンジュリー様の希望でもある」
「アンジュリー様が?」
「ああ、全てを聞いて、アベリーの手紙も読んで、そう仰ったそうだ」
アベリーはもし渡していただけるのならと、アンジュリー様に文を託していた。アンジュリーも無事十九歳になっており、来年には結婚することが決まっている。
「一週間後に迎えに来る。準備をして置きなさい」
「は、い」
そして一週間後、アベリーは修道院を出て、トスター侯爵家に戻った。
「「「おかえりなさい」」」
祖父・マトムとトスカーとミエルの顔に、涙が出た。
レイアは未だに働いているため、不在であるが、彼女は既に離縁されていないだけで、存在がないような状態である。
アレクスとサイラは、ルオンに爵位を譲って、お互い仕事を続けている。ルオンはグラーフ伯爵となり、妻と二人の子どもを平等に愛して育てている。
そして、誰も名前を出すことも、気にもされなくなったメルベールはというと…あのまま更生保護施設にいる。
始めは身の回りのことすら出来なかったが、汚れて行く自分に渋々行うようになり、虚言癖の治療も自分の罪を理解することもあれば、相変わらずユーリのせいにして、私は悪くないと言い出し、改善されないと判断されている。
一生、施設にいることになりそうだが、費用は責任を取るべきアレクスが出している。サイラはこのためにも事業を少し残すようにしたのである。
ナイフで刺さなくとも、言葉で行動で、人は殺せてしまう。
少しずつでも、追い込み、絶望の淵に立つ者に、何かきっかけが降りかかって来たら、手放してしまうことだってある。
ユーリがなぜ死ななければならなかったのか。
後悔した者たちは、一生問い掛け続けるだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最後までお読みいただきありがとうございます。
暗い話は覚悟で書いておりましたが、
こんなに長くなるとは思っておらず、
お付き合いいただき、ありがとうございました。
いくら後悔しても謝罪する相手がいないという状態なので、
とことん後悔を書くことが出来て満足です。
今後ともよろしくお願いいたします。
アベリーは二十歳、トスカーとミエルも十八歳になり、キリアムとオーランドは四十歳になっていた。ユーリも生きていたら、同じ年になっていた。
アベリーは修道院で生活をしながら、ユーリの月命日には墓参りを続けていた。アレクスとサイラに会うこともあった。
そして五年が経ち、文のやり取りはしていたが、キリアムはアベリーに会いに行くことにした。
実は謝罪の後でラオン大公家から、キリアムの判断でアベリーを修道院を出していいと許可を得ていた。だがキリアムは最低でも五年は、アベリーにこのことを伝えることはしないと決めていた。
「実はラオン大公家から私の判断で、修道院から出す許可を持っていた」
「そうだったのですか」
「でも五年は言わないと決めていたのだ。すまない」
「いえ、謝ることではありません。私はこのまま、ここで暮らします」
「勿論、それでもいい。でも私と暮らすことも考えて貰えないか?仕事も手伝ってくれると助かる。トスカーとミエルも承諾しているし、勿論父上もだよ」
「でもいずれトスカーとミエルに奥様が娶られるでしょう?」
トスカーとミエルとも文もやり取りをしており、まだ二人に婚約者はいないと聞いている。相手がいなくて困っているのではなく、勉強で忙しいと聞いている。
「そうなったら、領地に移ればいい。クレナ伯爵家に移ってもいい」
「クレナ伯爵家に?」
「オーランド叔父さんが寂しく暮らしているから、いいかもしれない。今日、答えを出さなくていい。直接言いたかったから、来ただけだからな。勿論、ユーリの墓参りはこれまで通り行けばいい」
一生ここにいると思っていたアベリーは混乱し、頭を抱えた。
修道院も辛くて苦しいだけの場所ではない、やり甲斐もある。寄宿学校の友人とも文のやり取りをしながら、愚痴を言い合ったり、励まし合ったりしている。それなのに、私だけそんな温かい場所に行っていいのか。
「そんな…私だけいいの…」
「いいんだよ、アンジュリー様の希望でもある」
「アンジュリー様が?」
「ああ、全てを聞いて、アベリーの手紙も読んで、そう仰ったそうだ」
アベリーはもし渡していただけるのならと、アンジュリー様に文を託していた。アンジュリーも無事十九歳になっており、来年には結婚することが決まっている。
「一週間後に迎えに来る。準備をして置きなさい」
「は、い」
そして一週間後、アベリーは修道院を出て、トスター侯爵家に戻った。
「「「おかえりなさい」」」
祖父・マトムとトスカーとミエルの顔に、涙が出た。
レイアは未だに働いているため、不在であるが、彼女は既に離縁されていないだけで、存在がないような状態である。
アレクスとサイラは、ルオンに爵位を譲って、お互い仕事を続けている。ルオンはグラーフ伯爵となり、妻と二人の子どもを平等に愛して育てている。
そして、誰も名前を出すことも、気にもされなくなったメルベールはというと…あのまま更生保護施設にいる。
始めは身の回りのことすら出来なかったが、汚れて行く自分に渋々行うようになり、虚言癖の治療も自分の罪を理解することもあれば、相変わらずユーリのせいにして、私は悪くないと言い出し、改善されないと判断されている。
一生、施設にいることになりそうだが、費用は責任を取るべきアレクスが出している。サイラはこのためにも事業を少し残すようにしたのである。
ナイフで刺さなくとも、言葉で行動で、人は殺せてしまう。
少しずつでも、追い込み、絶望の淵に立つ者に、何かきっかけが降りかかって来たら、手放してしまうことだってある。
ユーリがなぜ死ななければならなかったのか。
後悔した者たちは、一生問い掛け続けるだろう。
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最後までお読みいただきありがとうございます。
暗い話は覚悟で書いておりましたが、
こんなに長くなるとは思っておらず、
お付き合いいただき、ありがとうございました。
いくら後悔しても謝罪する相手がいないという状態なので、
とことん後悔を書くことが出来て満足です。
今後ともよろしくお願いいたします。
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