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姪3
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「お母様のことは?」
「ちょっと気付いた時にはおかしかったよね」「うん」
「いなくなって大丈夫?」
アベリーは離縁したらと、トスカーとミエルのことを考えずに言ってしまったことに、少なからず罪悪感を感じていた。
「ほとんど関りがなかったし、怒ってばっかりだったから」「うん」
「そうなの?」
メルベールとトスカーとミエルとの関係性を、アベリーは全く知らない。
「少し服が汚れていたら、汚い近寄らないでって」「酷いって思ったよ」
「それは確かに、おかしいと思うわね」
「でしょう?」「うん」
「ユーリ叔母様には会ったことある?」
「うん、あるよ!」「うん」
「そうなのか?」
黙って微笑ましく聞いていたキリアムが問いかけた。
「うん、実は…」「お祖父様に怒られちゃうから言わないでねって」
「そうだったのか…」
「最初はお母様かと思ったんだ」「うん」
「でも全然違った」「うん」
二人もメルベールと同じ顔だったので、警戒していたが、中身はまるで違った。
「おもちゃとか、本を買ってくれたり」「クッキー焼いてくれたり」
「この邸に来ていたのか?」
「ううん、スカラット侯爵家で」
「スカラット侯爵家!?」
「うん、友達がいるんだ」「そこで会っていたんだ」
確かにトスカーとミエルの同い年の子どもがおり、遊びに行くこともあった。そういえば、友人の中にスカラット侯爵夫人がいた。どうして気付かなかったんだ。
アベリーばかりを甘やかして、トスカーとミエルが二人ぼっちになっていることを知ったユーリが、スカラット侯爵夫人に頼んで、二人に会わせて貰っていた。
「葬儀には出ていないよな?」
「…うん」「そうなんだ、亡くなったって知らなくて」
幼いからとトスカーとミエルはユーリの葬儀に参列していない。キリアムも今さらだが、ユーリのことは覚えていないだろうと、亡くなったことも話していなかった。
「スカラット侯爵夫人から聞いたのか?」
「うん」「泣いたよね」
「そうだったのか…」
二人は人知れず、泣いていたのか。
「ユーリちゃんはね」
「ユーリちゃん?」
「うん、そう呼んでいたんだ。叱られることもあったけど、優しいんだ」
「汚したって洗えばいいって、服を洗ってくれたり。はしゃいで、スカラット侯爵家の花を折ってしまったことがあって、きちんと謝ればいいって言ってくれて、一緒に謝ってくれたよな?」「うん」
ああ、確かにユーリならそうするだろう光景が浮かぶと、キリアムは思った。
「ごめんなさい、叔母様は私のせいで…」
「聞いたよ、でもお姉様も反省している」「うん」
「確かに最初聞いた時は、ユーリちゃんをって思ったよ」「うん」
何があったかきちんと説明された時、母が、姉が、祖父母が、そして叔父上もがと怒りで一杯になった。皆、大嫌いだと思った。
「生きていて欲しかった、勉強だってみて欲しかった」「きっと褒めてくれたよね」
「叔母様に恥じない様に生きるから…」
「うん、きっとユーリちゃんならいいよって言っているはずだよ」
「うん、ユーリちゃんならきっと」
「ありがとう」
二人はアベリーを恨んだこともあった、アベリーが反省していない頃だったら、恨み言をぶつけていたかもしれない。
会ってはいなかったが、キリアムから寄宿学校に入ってから、反省していることを聞き、今のアベリーを見て、言わないことにした。
アベリーは言う資格はないが、遊んで貰った記憶のある二人が羨ましかった。
幼い頃の記憶なのに、あるということはきっと素敵な時間だったのだろう。でもあの頃の私が会っても、二人の様に楽しい時間だったかは分からない。
後悔しかないが、決意を新たに、アベリーは修道院まで送るというキリアムたちを断って、一人で修道院に旅立った。
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本日もお読みいただきありがとうございます。
あと3話で完結予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。
「ちょっと気付いた時にはおかしかったよね」「うん」
「いなくなって大丈夫?」
アベリーは離縁したらと、トスカーとミエルのことを考えずに言ってしまったことに、少なからず罪悪感を感じていた。
「ほとんど関りがなかったし、怒ってばっかりだったから」「うん」
「そうなの?」
メルベールとトスカーとミエルとの関係性を、アベリーは全く知らない。
「少し服が汚れていたら、汚い近寄らないでって」「酷いって思ったよ」
「それは確かに、おかしいと思うわね」
「でしょう?」「うん」
「ユーリ叔母様には会ったことある?」
「うん、あるよ!」「うん」
「そうなのか?」
黙って微笑ましく聞いていたキリアムが問いかけた。
「うん、実は…」「お祖父様に怒られちゃうから言わないでねって」
「そうだったのか…」
「最初はお母様かと思ったんだ」「うん」
「でも全然違った」「うん」
二人もメルベールと同じ顔だったので、警戒していたが、中身はまるで違った。
「おもちゃとか、本を買ってくれたり」「クッキー焼いてくれたり」
「この邸に来ていたのか?」
「ううん、スカラット侯爵家で」
「スカラット侯爵家!?」
「うん、友達がいるんだ」「そこで会っていたんだ」
確かにトスカーとミエルの同い年の子どもがおり、遊びに行くこともあった。そういえば、友人の中にスカラット侯爵夫人がいた。どうして気付かなかったんだ。
アベリーばかりを甘やかして、トスカーとミエルが二人ぼっちになっていることを知ったユーリが、スカラット侯爵夫人に頼んで、二人に会わせて貰っていた。
「葬儀には出ていないよな?」
「…うん」「そうなんだ、亡くなったって知らなくて」
幼いからとトスカーとミエルはユーリの葬儀に参列していない。キリアムも今さらだが、ユーリのことは覚えていないだろうと、亡くなったことも話していなかった。
「スカラット侯爵夫人から聞いたのか?」
「うん」「泣いたよね」
「そうだったのか…」
二人は人知れず、泣いていたのか。
「ユーリちゃんはね」
「ユーリちゃん?」
「うん、そう呼んでいたんだ。叱られることもあったけど、優しいんだ」
「汚したって洗えばいいって、服を洗ってくれたり。はしゃいで、スカラット侯爵家の花を折ってしまったことがあって、きちんと謝ればいいって言ってくれて、一緒に謝ってくれたよな?」「うん」
ああ、確かにユーリならそうするだろう光景が浮かぶと、キリアムは思った。
「ごめんなさい、叔母様は私のせいで…」
「聞いたよ、でもお姉様も反省している」「うん」
「確かに最初聞いた時は、ユーリちゃんをって思ったよ」「うん」
何があったかきちんと説明された時、母が、姉が、祖父母が、そして叔父上もがと怒りで一杯になった。皆、大嫌いだと思った。
「生きていて欲しかった、勉強だってみて欲しかった」「きっと褒めてくれたよね」
「叔母様に恥じない様に生きるから…」
「うん、きっとユーリちゃんならいいよって言っているはずだよ」
「うん、ユーリちゃんならきっと」
「ありがとう」
二人はアベリーを恨んだこともあった、アベリーが反省していない頃だったら、恨み言をぶつけていたかもしれない。
会ってはいなかったが、キリアムから寄宿学校に入ってから、反省していることを聞き、今のアベリーを見て、言わないことにした。
アベリーは言う資格はないが、遊んで貰った記憶のある二人が羨ましかった。
幼い頃の記憶なのに、あるということはきっと素敵な時間だったのだろう。でもあの頃の私が会っても、二人の様に楽しい時間だったかは分からない。
後悔しかないが、決意を新たに、アベリーは修道院まで送るというキリアムたちを断って、一人で修道院に旅立った。
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あと3話で完結予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。
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