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姪2

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 アベリーはラオン大公家への文に自分の悪かったこと、今どう思っているか、それまで何も分かっておらず、どう思っていたかも、全て正直に書いた。その上で、会ってくれることになった。

「キリアム・トスターでございます」
「アベリー・トスターでございます」

 アベリーは息が荒くなるほど緊張していたが、きちんと皆の前に立った。

 ラオン大公夫妻、そして次期ラオン大公夫妻も同席している。

 アンジュリーは同席していない。怪我をしたことは覚えているが、相手の顔までは覚えておらず、その相手が寄宿学校に入り、修道院に行くことも話していない。

「アンジュリー・エン・ラオン様の大事なぬいぐるみを、無理やり奪おうとして、怪我をさせて申し訳ございませんでした。そして、お詫びが大変遅くなったことも、重ねて申し訳ありませんでした」

 アベリーは早口になりそうなところを、なるべくゆっくり話すことを心掛けた。

「手紙は読ませてもらった」
「ありがとうございます」
「自分の責任だと、きちんと理解が出来たようだな」

 会ってはいないが寄宿学校の様子だと、入学当初の報告書は全く反省しておらず、五歳の頃に謝罪が出来ないと言ったのは事実だったと思ったが、15歳の彼女は成長し、驚くほど落ち着いている。

「はい、私が全て引き起こしたことです」
「伯母君のことも聞いたんだな?」
「はい、私のせいで、大変申し訳なく思っています」
「そうか…」

 自分のせいで伯母を殺したようなものだと感じているだろう。だが、実際様々なことが重なっており、ユーリ夫人は追い込まれていたことを聞いている。

 コンクエッツ公爵家、シュアト公爵家からも、ユーリのことを恨まないで欲しいと歎願された。

 衝撃的ではあったが、ユーリ夫人を恨む気持ちは一つもなかった、むしろ同情するばかりだった。

「君の伯母君、父、祖母、一応祖父もかな?謝罪をして貰った。アンジュリーも、後遺症もなく元気だ。兄上も理解してくれている。今日の姿を見て決めるつもりだったが、修道院に入らずとも良い、そう思っている」

 他の三人も頷いており、キリアムはそのように言われるとは思っていなかった。

「どうだろうか」
「意見を許されるのならば」
「ああ、言ってみなさい」
「修道院で、アンジュリー・エン・ラオン様のご健康と、伯母様の冥福を祈りたいと思っています」
「…そうか」

 やったなど言うとは思わなかったが、今の彼女ならば、もう十分に罰を受けたと思った。そして、修道院に行くと言うのではないかとも文を読んで、感じてもいた。

「はい、許してもらいたいからではなく、嘘偽りない本心でございます」
「分かった」

 他の三人も真剣な様子で頷いている。

「おかしなことを言うようだが、君がユーリ夫人の子なら良かったのになと、思うことがあった。そうであれば、君の人生は大きく変わったのではないかと…」
「…はい」
「アンジュリーのことはもう気にしなくていい。だが、ユーリ夫人の冥福は祈ってやって欲しい。それがこちらからの願いだ」
「はい、ありがとうございます。申し訳ございませんでした」

 アベリーはユーリの墓地に近い修道院に決め、それまでキリアムとトスカーとミエルと一緒に過ごした。

「迷惑を掛けて、ごめんなさい。私のせいであなたたちが嫌な思いをしたら、ごめんなさい」
「反省したって聞いているから、僕たちのことは気にしないで、双子なんだから助け合ってやっていくよ」
「そうだよ、修道院って辛いところなんでしょう…」

 トスカーとミエルはただならぬ様子に気付きながらも、お互いを支えにしっかり頑張っていた。

「寄宿学校でも掃除も洗濯も、簡単な料理だってしていたんだから、大丈夫よ」
「そうなの?」「お姉ちゃん、凄いね」

 そんな些細なやり取りですら、三人にとってはして来なかったことであった。
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