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「任せてしまって、すまなかった」
「メルベールもあなたならどうにかしてくれると、今でも思っていますからね」
「ああ、すまない」

 サイラはあれだけ怒鳴り散らしていた人と、同一人物だとは思えないほど、すっかり牙を抜かれた獣のようだと思っていた。

 ビクビクするようなことはないが、すぐに謝るようになった。

 ユーリがこんな姿を見たら、どう思うだろうか、よくやったと言うだろうか、いや、やっぱり今さらだと言われてしまうだろう。

 始めからこのようなアレクスだったら、ユーリは死なずに済んだのではないか。そもそも、この人と結婚することはなかったかもしれない。

 私にも縁談ではなかったが、一緒になりたいと思う人がいた。男爵家の騎士で、だからこそ似た境遇であったユーリとミランス・オーリー様に、一緒になって欲しかったのかもしれない。

 だが、グラーフ伯爵家から話があって、私も抵抗した。彼と一緒になりたいと、だが援助をしてくれるというアレクスに嫁ぐことになった。

 その彼は別の令嬢と結婚した、あまり会うことはなかったが、なるべく視界に入らないようにして、過ごしていた。あの場所に立っていたのは私だったかもしれない、そんな風に考えると苦しくて堪らなかった。

 彼は現在も幸せそうに見える。話をすることはないが、過去になり、きっとユーリもオーリー様も生きていたら、そうなっていたかもしれない。

 たらればなんて言っても仕方がないが、オーランドくんではなく、キリアムくんと結婚していたと何度も考えた。愛は生まれなかったかもしれないが、家族としては支え合って行けたのではないだろうか。

 メルベールはユーリがキリアムくんを好きだと思ったから、キリアムくんに言い寄り、オーランドくんの気持ちを利用して、縛り付けた。

 メルベールは二度と更生保護施設から出ることはないだろう。出るとしても、本当に一人ぼっちになる時だ。

「メルベールが施設を出ることはないでしょう」
「出ることがあれば、修道院に行くように手配しよう」
「ええ、そうね」

 アレクスは爵位を譲るために、事業の整理に忙しい。

 ルオンの家族と本邸と別邸を交換することになり、あまり変わりはないとは思うが、アレクスが手持無沙汰になるため、少し手元に事業を残すように変えた。

 もう迷惑を掛けることはないかもしれないが、何もせず病気になっても困る。現在、アレクスの唯一の使命はユーリの墓守くらいである。

 実家のパーシ子爵家は王都の邸をようやく手放して、領地に戻った。

 やらかして嫁いだリルフォーミュアは商家で、手伝いをしながら、役に立たないと、肩身の狭い思いをしているそうだ。実家を頼ろうにもお金もなければ、領地に戻って会うことも出来ない。

 妹のミリージュアンは学園の寮に入ろうとしたが、成績も振るわず、学費が払えずに一緒に領地に戻った。家族で細々と暮らしているそうだ。

 たが、性根は変わっていない。私宛に不在時に何通も文が届いていた、どれも金を持って来いと書かれていた。領地に移ってからは生活が厳しい、食べることもままならない、病気になってお金がいると、結局はお金、お金、お金。

 弟は一応は働こうもしたそうだが、お金がないくせに、利益のない人を見下す性格で、すぐにクビになってしまい、変わったことと言えば、畑で野菜を育てるようになったことくらいだそうだ。

 両親は勿論、妻も娘も働く気がなく、リルフォーミュアのせいでもあるが、全て弟に圧し掛かっているそうだ。

 弟だけのせいではないが、一番使ったのは弟だろう。

 一度だけ今までの援助金を返すために、私も働いていると返事をすると、文は来なくなった。一緒に返すように言われたくないからだろう、分かり易い人たちだ。
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