111 / 118
母
しおりを挟む
「任せてしまって、すまなかった」
「メルベールもあなたならどうにかしてくれると、今でも思っていますからね」
「ああ、すまない」
サイラはあれだけ怒鳴り散らしていた人と、同一人物だとは思えないほど、すっかり牙を抜かれた獣のようだと思っていた。
ビクビクするようなことはないが、すぐに謝るようになった。
ユーリがこんな姿を見たら、どう思うだろうか、よくやったと言うだろうか、いや、やっぱり今さらだと言われてしまうだろう。
始めからこのようなアレクスだったら、ユーリは死なずに済んだのではないか。そもそも、この人と結婚することはなかったかもしれない。
私にも縁談ではなかったが、一緒になりたいと思う人がいた。男爵家の騎士で、だからこそ似た境遇であったユーリとミランス・オーリー様に、一緒になって欲しかったのかもしれない。
だが、グラーフ伯爵家から話があって、私も抵抗した。彼と一緒になりたいと、だが援助をしてくれるというアレクスに嫁ぐことになった。
その彼は別の令嬢と結婚した、あまり会うことはなかったが、なるべく視界に入らないようにして、過ごしていた。あの場所に立っていたのは私だったかもしれない、そんな風に考えると苦しくて堪らなかった。
彼は現在も幸せそうに見える。話をすることはないが、過去になり、きっとユーリもオーリー様も生きていたら、そうなっていたかもしれない。
たらればなんて言っても仕方がないが、オーランドくんではなく、キリアムくんと結婚していたと何度も考えた。愛は生まれなかったかもしれないが、家族としては支え合って行けたのではないだろうか。
メルベールはユーリがキリアムくんを好きだと思ったから、キリアムくんに言い寄り、オーランドくんの気持ちを利用して、縛り付けた。
メルベールは二度と更生保護施設から出ることはないだろう。出るとしても、本当に一人ぼっちになる時だ。
「メルベールが施設を出ることはないでしょう」
「出ることがあれば、修道院に行くように手配しよう」
「ええ、そうね」
アレクスは爵位を譲るために、事業の整理に忙しい。
ルオンの家族と本邸と別邸を交換することになり、あまり変わりはないとは思うが、アレクスが手持無沙汰になるため、少し手元に事業を残すように変えた。
もう迷惑を掛けることはないかもしれないが、何もせず病気になっても困る。現在、アレクスの唯一の使命はユーリの墓守くらいである。
実家のパーシ子爵家は王都の邸をようやく手放して、領地に戻った。
やらかして嫁いだリルフォーミュアは商家で、手伝いをしながら、役に立たないと、肩身の狭い思いをしているそうだ。実家を頼ろうにもお金もなければ、領地に戻って会うことも出来ない。
妹のミリージュアンは学園の寮に入ろうとしたが、成績も振るわず、学費が払えずに一緒に領地に戻った。家族で細々と暮らしているそうだ。
たが、性根は変わっていない。私宛に不在時に何通も文が届いていた、どれも金を持って来いと書かれていた。領地に移ってからは生活が厳しい、食べることもままならない、病気になってお金がいると、結局はお金、お金、お金。
弟は一応は働こうもしたそうだが、お金がないくせに、利益のない人を見下す性格で、すぐにクビになってしまい、変わったことと言えば、畑で野菜を育てるようになったことくらいだそうだ。
両親は勿論、妻も娘も働く気がなく、リルフォーミュアのせいでもあるが、全て弟に圧し掛かっているそうだ。
弟だけのせいではないが、一番使ったのは弟だろう。
一度だけ今までの援助金を返すために、私も働いていると返事をすると、文は来なくなった。一緒に返すように言われたくないからだろう、分かり易い人たちだ。
「メルベールもあなたならどうにかしてくれると、今でも思っていますからね」
「ああ、すまない」
サイラはあれだけ怒鳴り散らしていた人と、同一人物だとは思えないほど、すっかり牙を抜かれた獣のようだと思っていた。
ビクビクするようなことはないが、すぐに謝るようになった。
ユーリがこんな姿を見たら、どう思うだろうか、よくやったと言うだろうか、いや、やっぱり今さらだと言われてしまうだろう。
始めからこのようなアレクスだったら、ユーリは死なずに済んだのではないか。そもそも、この人と結婚することはなかったかもしれない。
私にも縁談ではなかったが、一緒になりたいと思う人がいた。男爵家の騎士で、だからこそ似た境遇であったユーリとミランス・オーリー様に、一緒になって欲しかったのかもしれない。
だが、グラーフ伯爵家から話があって、私も抵抗した。彼と一緒になりたいと、だが援助をしてくれるというアレクスに嫁ぐことになった。
その彼は別の令嬢と結婚した、あまり会うことはなかったが、なるべく視界に入らないようにして、過ごしていた。あの場所に立っていたのは私だったかもしれない、そんな風に考えると苦しくて堪らなかった。
彼は現在も幸せそうに見える。話をすることはないが、過去になり、きっとユーリもオーリー様も生きていたら、そうなっていたかもしれない。
たらればなんて言っても仕方がないが、オーランドくんではなく、キリアムくんと結婚していたと何度も考えた。愛は生まれなかったかもしれないが、家族としては支え合って行けたのではないだろうか。
メルベールはユーリがキリアムくんを好きだと思ったから、キリアムくんに言い寄り、オーランドくんの気持ちを利用して、縛り付けた。
メルベールは二度と更生保護施設から出ることはないだろう。出るとしても、本当に一人ぼっちになる時だ。
「メルベールが施設を出ることはないでしょう」
「出ることがあれば、修道院に行くように手配しよう」
「ええ、そうね」
アレクスは爵位を譲るために、事業の整理に忙しい。
ルオンの家族と本邸と別邸を交換することになり、あまり変わりはないとは思うが、アレクスが手持無沙汰になるため、少し手元に事業を残すように変えた。
もう迷惑を掛けることはないかもしれないが、何もせず病気になっても困る。現在、アレクスの唯一の使命はユーリの墓守くらいである。
実家のパーシ子爵家は王都の邸をようやく手放して、領地に戻った。
やらかして嫁いだリルフォーミュアは商家で、手伝いをしながら、役に立たないと、肩身の狭い思いをしているそうだ。実家を頼ろうにもお金もなければ、領地に戻って会うことも出来ない。
妹のミリージュアンは学園の寮に入ろうとしたが、成績も振るわず、学費が払えずに一緒に領地に戻った。家族で細々と暮らしているそうだ。
たが、性根は変わっていない。私宛に不在時に何通も文が届いていた、どれも金を持って来いと書かれていた。領地に移ってからは生活が厳しい、食べることもままならない、病気になってお金がいると、結局はお金、お金、お金。
弟は一応は働こうもしたそうだが、お金がないくせに、利益のない人を見下す性格で、すぐにクビになってしまい、変わったことと言えば、畑で野菜を育てるようになったことくらいだそうだ。
両親は勿論、妻も娘も働く気がなく、リルフォーミュアのせいでもあるが、全て弟に圧し掛かっているそうだ。
弟だけのせいではないが、一番使ったのは弟だろう。
一度だけ今までの援助金を返すために、私も働いていると返事をすると、文は来なくなった。一緒に返すように言われたくないからだろう、分かり易い人たちだ。
2,977
お気に入りに追加
3,653
あなたにおすすめの小説
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】貴方の望み通りに・・・
kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも
どんなに貴方を見つめても
どんなに貴方を思っても
だから、
もう貴方を望まない
もう貴方を見つめない
もう貴方のことは忘れる
さようなら
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った
冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。
「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。
※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる