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姉1

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 そして、アベリーへの告知は全て終わり、執事が離縁が認められたと戻って来た。ついにキリアムとメルベールは別れた。

 ずっと前から破綻していたが、もう会うこともないかもしれない。

 メルベールはアレクスとサイラが戻って、部屋からようやく出された。随分、物に当たったようで、サイラはその姿に呆れるしかなかった。

「これからどうするか話し合いましょう」
「離縁は無効だって言っているでしょう!」
「離縁は認められました」
「そんな!横暴よ!」
「何もしていなかった者が、よくもそんなことが言えますね。まだ出来ないと言った方が可愛げがあったのに」

 キリアムも出来ないと言えば、寄り添っただろう。でもメルベールはユーリにやらせて、誤魔化した。キリアムはそのことを怒っているのだ。

「あなたの選択肢は、更生保護施設か、修道院です」
「領地じゃないの?」

 以前は領地で軟禁だと言われていたので、そうなるのだと思っていた。

「止めました」
「保護施設が何か分からないけど、どちらも嫌よ!今までだって自由なんてなかったのよ、可哀想だと思わないの?」
「不自由のない暮らしをさせて貰って、何を言っているの」
「だって、着る服だって、食事だって、全然違うのよ!」
「だったら働けば良かったじゃない。働いたお金でドレスを買って、美味しい物を食べればよかった。あなたは何もしなかったんでしょう?」

 今まではアレクスにも働いたこともないくせにと言われていたが、働き出したサイラには言う権利がある。

「じゃあ、領地で働くわ」
「それは無理よ、領主の娘なんて、扱い辛いに決まっているでしょう?誰が雇うもんですか」

 領地で働かせる選択肢はなかった。領民が困るだけである。

「じゃあ、出て行くわ」
「それでもいいかと思っているの。縁を切って、もし困って現れても、他人だということになるけどいい?働いたこともない、能力もないあなたに、何か出来るといいけど、何も出来なかったら、命も落としかねないわよ?」

 今まで人に頼って生きて来たメルベールは、トスター侯爵家の領地でも、その気になれば、出て行くことは出来ただろうが、しなかったのだ。

 誰かがどうにかしてくれる、救ってくれるはずだと信じていて、王子様でも現れて、メルベールを攫ってくれれば、ついて行っただろうが、そんな人は簡単に現れるはずもない。いたとしてもお金目当ての誘拐くらいだろう。

「っな!お母様は私が死ねば良かったと思っているのでしょう!」
「それを言ったら、あなたと同じになってしまうじゃない」

 ユーリを返してくれるのなら、いくらでも言うが、アレクスに死ねばいいと言った、メルベールと同じになるつもりはない。

「再婚するわよ」
「そう、グラーフ伯爵家とは縁を切っているとちゃんと言いなさいよ、でないと嘘つきどころか、詐欺になってしまうわ」
「私に平民になれって言うの?」
「出て行くなら、縁を切ると言ったでしょう?」
「娘なんだから、援助しなさいよ!」

 形振り構っていられなくなったメルベールは、酷い形相である。

「醜いわね。ユーリは、最期にメルベールの役に立てたかしらと言っていたの…そう聞いても、何も思わない?」
「そう言ったの?」
「そうよ、あなたが無事であって欲しいともね」
「じゃあ、ユーリが願ったんだから!」
「ユーリが願っても、私もお父様も願わないってだけの話よ。ルオンも同じ意見だから、何を言っても無駄よ」

 既にグラーフ伯爵家での話し合いは行われて、二択になったのだ。

 アベリーに領地だと言ったのは、今と変わらない選択肢を残すことで、少しでも責任を感じさせないためであった。

「どうしてよ!どうして私がこんな目に遭わなければならないのよ!」
「本当に醜いわね。ユーリが命を差し出す価値もないのに…」
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