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姪へ告知9
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「何の話だ?」
「グラーフ伯爵家で、アレクスお祖父様の怒鳴り声がして、こっそり覗いたらお母様が叱られていたの。でもその後はお母様にも優しくしていて、きっと何かとても悪いことをしたのだと思っていたけど、嘘を付いたから怒られていたんじゃないの?」
「違う、それはおそらくユーリ叔母様だ」
アベリーはゆっくり目を見開いた、でも母親を見間違えることなんてないはず。いや、あったが、あの時は暗い時間だった。
「お母様が怒られていたのではないの?」
サイラお祖母様が髪型を真似ていたと言っていた、似せていたから気付けなかったのか。じゃあ、あれはお母様じゃないとしたら、私の聞いた言葉と繋がる。
「待って、違うわ…そうよ、なぜ子どもが出来ない、役立たず、子どもを産んでいるお母様ではあるわけがないわ」
キリアムは信じられない言葉に、アレクスを見つめた。サイラは知っていたようで、怒りを抑えるように、唇を噛みしめて、目を瞑っている。
「そうだ、アベリーの言う通りだ。私が理不尽に怒鳴っていたのは、ユーリだ。アベリーを預かっていた時もあったと思う」
アレクスはメルベールと違って、全て自分のせいだと罪を認めているので、言い訳をするつもりはない。
「お祖父様、酷いことを言っていたわ。いつも優しいのに、怒らせると怖いと思っていたから、よく覚えているの。我儘を言いながらも、嫌われないようにしないとって…どこかで思っていた」
「ああ、ユーリに散々酷いことを言った、言い続けていた。ユーリが死を選んだ大部分は私なのだ。私が殺したんだ…だからアベリーも私のせいだと恨んでくれ」
誰も何も言えなかった。アレクスの比重は重いとしか思えないからだ。
「そうだったのね、私はあの人に守って貰ったのね」
「ん?」
「今までお母様だと思っていたけど、お祖父様が怒っていた日に、言われたの」
あの日のことはよく覚えている。
「メイドにケーキを出して貰ったけど、上手く食べられなくて、ぐちゃくちゃになって、でも周りに誰もいなくて、フォークを投げつけたの。そしたら急にやって来て、新しいケーキを出してくれて、ゆっくりでいいからきれいに食べてみましょう、きれいに食べる方がケーキを作ってくれた方も喜ぶからって…」
サイラは思いがけないユーリの話に、涙が流れた。
「でもあの頃の私は、そんなの知らないって言ったけど、一回だけやってみましょうって、手を添えて切ってくれて、食べ終えるまで、横でずっと上手上手って褒めてくれて…その後で、大きくなったらこうやってお茶を飲むのよって、作法も教えてくれて、お母様だと思ったけど、メイドが戻って来て、その後にはいなかったわ」
「そうだったのか…」
「ケーキを食べる度に思い出していたの。ぐちゃくちゃのケーキは」
「それは私よ!」
メルベールは遮ってまで叫んだが、アベリーの方が冷静だった。
「いいえ、違うわ。寄宿学校でお茶の作法を習った時に、あの時の通りだって思った。でもよく考えると、お母様の作法はよく音も立てるし、あんなに優雅じゃない、違ったもの」
ユーリは高位貴族とお茶会をしていた、作法に問題があるはずがない。
「また嘘か…いい加減にしてくれないか」
「っな、どうして信じないのよ」
「信じるはずないじゃないか」
「私がユーリに言ったんだ。悪影響だからアベリーに近付くなと…正しいのはユーリだったのに」
アレクスは悲痛な表情で告白した。ユーリとアベリーにほとんど接点はなかった。キリアムも会ったのは赤子の頃だけだと思っていた。
「側に叔母様がいたら、私は違ったのかしら。ぐちゃくちゃのケーキも、証拠隠滅だと言って二人で食べたの。ふふっ」
アベリーは目に涙を溜めて、空元気に無理やり笑って見せた。
「グラーフ伯爵家で、アレクスお祖父様の怒鳴り声がして、こっそり覗いたらお母様が叱られていたの。でもその後はお母様にも優しくしていて、きっと何かとても悪いことをしたのだと思っていたけど、嘘を付いたから怒られていたんじゃないの?」
「違う、それはおそらくユーリ叔母様だ」
アベリーはゆっくり目を見開いた、でも母親を見間違えることなんてないはず。いや、あったが、あの時は暗い時間だった。
「お母様が怒られていたのではないの?」
サイラお祖母様が髪型を真似ていたと言っていた、似せていたから気付けなかったのか。じゃあ、あれはお母様じゃないとしたら、私の聞いた言葉と繋がる。
「待って、違うわ…そうよ、なぜ子どもが出来ない、役立たず、子どもを産んでいるお母様ではあるわけがないわ」
キリアムは信じられない言葉に、アレクスを見つめた。サイラは知っていたようで、怒りを抑えるように、唇を噛みしめて、目を瞑っている。
「そうだ、アベリーの言う通りだ。私が理不尽に怒鳴っていたのは、ユーリだ。アベリーを預かっていた時もあったと思う」
アレクスはメルベールと違って、全て自分のせいだと罪を認めているので、言い訳をするつもりはない。
「お祖父様、酷いことを言っていたわ。いつも優しいのに、怒らせると怖いと思っていたから、よく覚えているの。我儘を言いながらも、嫌われないようにしないとって…どこかで思っていた」
「ああ、ユーリに散々酷いことを言った、言い続けていた。ユーリが死を選んだ大部分は私なのだ。私が殺したんだ…だからアベリーも私のせいだと恨んでくれ」
誰も何も言えなかった。アレクスの比重は重いとしか思えないからだ。
「そうだったのね、私はあの人に守って貰ったのね」
「ん?」
「今までお母様だと思っていたけど、お祖父様が怒っていた日に、言われたの」
あの日のことはよく覚えている。
「メイドにケーキを出して貰ったけど、上手く食べられなくて、ぐちゃくちゃになって、でも周りに誰もいなくて、フォークを投げつけたの。そしたら急にやって来て、新しいケーキを出してくれて、ゆっくりでいいからきれいに食べてみましょう、きれいに食べる方がケーキを作ってくれた方も喜ぶからって…」
サイラは思いがけないユーリの話に、涙が流れた。
「でもあの頃の私は、そんなの知らないって言ったけど、一回だけやってみましょうって、手を添えて切ってくれて、食べ終えるまで、横でずっと上手上手って褒めてくれて…その後で、大きくなったらこうやってお茶を飲むのよって、作法も教えてくれて、お母様だと思ったけど、メイドが戻って来て、その後にはいなかったわ」
「そうだったのか…」
「ケーキを食べる度に思い出していたの。ぐちゃくちゃのケーキは」
「それは私よ!」
メルベールは遮ってまで叫んだが、アベリーの方が冷静だった。
「いいえ、違うわ。寄宿学校でお茶の作法を習った時に、あの時の通りだって思った。でもよく考えると、お母様の作法はよく音も立てるし、あんなに優雅じゃない、違ったもの」
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アレクスは悲痛な表情で告白した。ユーリとアベリーにほとんど接点はなかった。キリアムも会ったのは赤子の頃だけだと思っていた。
「側に叔母様がいたら、私は違ったのかしら。ぐちゃくちゃのケーキも、証拠隠滅だと言って二人で食べたの。ふふっ」
アベリーは目に涙を溜めて、空元気に無理やり笑って見せた。
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