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姪へ告知2

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「本当の約束では12歳で入ることになっていたが、寄宿学校を卒業してからに変わっただけなんだ」
「去年だったってこと?」
「そうだ、受け入れるのは難しいかもしれないが…」
「どうしてよ!何で私が!」

 アベリーは5歳の頃を彷彿とさせる表情で、大きな声を出した。

「アベリーがぬいぐるみを奪おうとして転ばせた女の子は、ストレ王国のラオン大公家のお孫様なんだ」
「え…」
「ストレ王国の…」
「そうだ、次期大公閣下夫妻のお嬢様で、アンジュリー・エン・ラオン様。大公閣下は国王陛下の弟で、今の王家には女の子がおらず、唯一の直系で、お姫様のような存在の方だ」

 あの頃とは違って、勉強しているアベリーには相手が、自分よりも遥かに高い立場の人だと分かってしまった。ミドルネームのエンは王家の直系の証である。

 あの子がそんな相手だったとは知らなかった。

「だから…修道院に?」
「そうだ」
「あの子、死んじゃったの?」

 転ばせたのは覚えているが、どうなったかまではアベリーは聞いていない。

「いや、生きてらっしゃる」
「じゃあ……いいじゃない」
「お嬢様は、アベリーが転ばせて、頭を打ったせいで、意識が戻らなかったんだ」

 アベリーは息を呑んだ。

「アベリーが転ばせなかったら、頭を打っていないことは分かるな?」
「はい。で、でも、今は元気なんでしょう?」
「ああ、今はお元気にされてらっしゃる。だが頭というのは、何が起こるか分からない場所だ。今後、後遺症が出る可能性もある」

 頭はいつ後遺症が出るか分からないとされ、死に至るようなものでなくとも、日常生活に支障をきたすようなことが、起こる可能性はゼロではないとされている。

「そんな…」
「アベリーはあの頃は幼くて、罪を犯した感覚はないだろう。でもこれが事実なんだ。分かるか?」
「…」
「まだ寄宿学校は1年と少しある。大事な時間だと思って、過ごして欲しいと思って、今日話したんだ」
「卒業したら、修道院に入るってこと?結婚は出来ないの?」
「今のところは出来ないだろう」
「そんな…」

 寄宿学校に入って、貴族の令嬢が優雅に通うような学校ではないことが分かって、暴れたこともあった。自分で決めて入ったという子も稀に入るが、自分や家族に問題があって入っていると聞いた。

 アベリーも入れられたのは、最初はどうして私だけがと思ったが、教師にもどうしてなのか自分で考えるように言われ、他の子の理由を聞いて、自分の我儘のせいだと分かるようになっていた。

 だが、同じような環境に仲間意識も芽生えて、厳しいこともあるが、邸にいるよりも充実していた。勉強は得意とは言えないが、試験でいい点が取れれば嬉しい、同世代の子と話をするのも楽しい。

 そして、寄宿学校を卒業すれば、認めてくれる、見直してくれると思っていた。友人もそう言っている子が多かった。

 人並みに好きな人と結婚したいとも思っていたし、いずれ貴族令息と結婚するのだろうと、漠然と考えていた。

「これからは理解をする時間だ、受け入れて、反省をして、ラオン大公家から許可が出れば、謝罪をして欲しいと思っている」
「謝罪?」
「ああ、アベリーは当時、悪くないと思っていたと言っただろう?」
「はい」
「だから謝罪をしていない、あの時、アベリーを連れて行っても、謝罪出来ないと判断したからだ。分かるか?」
「…はい」

 確かにあの頃の自分だったら、悪くないと言って、謝らなかったかもしれない。

「アベリーも驚いたかもしれないが、卒業してから言われるよりいいだろうと思ったんだ。疲れただろうから休みなさい」
「はい…」

 今日のことだけでもアベリーには一杯だろうと、ユーリのことは次の帰省の際に話す予定にしているので、今回は一切話さなかった。
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