73 / 118
答え1
しおりを挟む
「ユーリを思って、後悔しましたか?私はそれを問うために戻って来たのです」
サイラが皆の手紙に書いた問い。一番初めに馬鹿にしたように答えたのは、やっぱりアレクスだった。
「はっ!後悔などするものか」
「あなたはそう言うと思っていましたよ、だから出て行ったのですから」
「お前!」
「ユーリを行かせたあなた、止められなかった私、見て見ぬ振りをしたルオン、帰って来ないオーランドくんに、メルベール。私はどうしても問いたかった。キリアムくんと、トスター侯爵夫妻もいらしていただいて良かったです」
サイラは出さなかった三人にも同じ内容を書くべきか悩んだ。アベリーも本当ならば一緒に聞いて欲しかったが、寄宿学校なら仕方ないと諦めるしかなかった。
「私は娘を助けられなかった母親として、ユーリに頼まれたことを行った後で、死のうと思っていました」
「おま、お前、そんなことを…」
「自然な流れでしょう、私はこの邸のユーリの部屋で、一人であの子を看取ったのですよ!まだ年若い、これから未来のあるユーリを…アレクス!あなたに私を縛るものは、もうこの世にはありません!」
アレクスは勿論だが、あまりの気迫に、後追いをキリアムとオーランドは考えなかったわけではない。だが、生きているはずだと思いたかったのだ。
メルベールは考えたこともなく、ショックを受けたが、ルオンはもしかしたらと考えることもあり、生きていて本当に良かったと口には出さなかったが、思っていた。
サイラはユーリを亡くして、繋がっていた糸がプチンと切れたような気持ちになってしまった。残された娘に息子、孫、使用人たち、そして夫。弟、両親、全てなくなってもいいとすら思った。
その時、ようやくこれまで繋げていたのはユーリだったのだと分かった。ユーリにこれ以上、迷惑を掛けるわけにはいかない…だからこそ我慢をしていたのだと、でもそれ以上に我慢を強いたのがユーリだったのだ。
失ってから気付いた、どうしようもない愚かな人間だと自分を責め続けていた。
「ルオンはどう?」
「後悔しているよ、私がもっと強かったらって、何度も思った。死ぬことはなかった、あの日、ユーリ姉様がどんな顔をしていたかすら覚えていない…見ていなかったということだ。見て見ぬ振りをしなければ良かった。取り返しが付かなくなって、気付いても遅かったのに…」
「そうね、あなたは嫌なことが過ぎるのをただ待っていた」
ルオンはユーリが責め立てられていても、庇うこともしなければ、言い返すこともなく、意見を言うこともなかった。
「勝手にどうにかなると思って、目を逸らし続けた。父上にとって、メルベールは可愛い、大事な存在だろう?三人が危険な目に遭っていたら一番に助ける。ユーリ姉様は反対に何をしてもいい存在。そして、私はどうでもいい存在」
「っ、ルオン!お前は」
「あなたは黙って」
サイラは鋭い目つきでアレクスを睨み付けた。後悔していない人間に用はない。ただ、グラーフ伯爵だからここにいるだけで、集まる場所はユーリの亡くなったこの邸でなければならなかった。
「私はそれでもユーリ姉様よりマシだと思って生きていた、馬鹿にしていい人ではないのに、弱さからそう扱ってしまった、後悔しているよ…謝りたい」
「そう、伝わっていて良かったわ」
サイラはルオンが、アレクスから自分を守ろうとしていたことも知っている。だからと言ってユーリに責任転嫁して、蔑むような態度だけは許せなかった。後悔はしているなら、それでいい。
「オーランドくんはどう?」
「はい、後悔しています。ユーリが毒を飲むことに躊躇いがなかったのは、私のせいです」
「え?」「は?」
声を上げたのは何も知らない、メルベールとアレクスだ。レイアは庇おうと口を開こうとしたが、マトムが肩を持ち、首を振って黙らせた。
サイラが皆の手紙に書いた問い。一番初めに馬鹿にしたように答えたのは、やっぱりアレクスだった。
「はっ!後悔などするものか」
「あなたはそう言うと思っていましたよ、だから出て行ったのですから」
「お前!」
「ユーリを行かせたあなた、止められなかった私、見て見ぬ振りをしたルオン、帰って来ないオーランドくんに、メルベール。私はどうしても問いたかった。キリアムくんと、トスター侯爵夫妻もいらしていただいて良かったです」
サイラは出さなかった三人にも同じ内容を書くべきか悩んだ。アベリーも本当ならば一緒に聞いて欲しかったが、寄宿学校なら仕方ないと諦めるしかなかった。
「私は娘を助けられなかった母親として、ユーリに頼まれたことを行った後で、死のうと思っていました」
「おま、お前、そんなことを…」
「自然な流れでしょう、私はこの邸のユーリの部屋で、一人であの子を看取ったのですよ!まだ年若い、これから未来のあるユーリを…アレクス!あなたに私を縛るものは、もうこの世にはありません!」
アレクスは勿論だが、あまりの気迫に、後追いをキリアムとオーランドは考えなかったわけではない。だが、生きているはずだと思いたかったのだ。
メルベールは考えたこともなく、ショックを受けたが、ルオンはもしかしたらと考えることもあり、生きていて本当に良かったと口には出さなかったが、思っていた。
サイラはユーリを亡くして、繋がっていた糸がプチンと切れたような気持ちになってしまった。残された娘に息子、孫、使用人たち、そして夫。弟、両親、全てなくなってもいいとすら思った。
その時、ようやくこれまで繋げていたのはユーリだったのだと分かった。ユーリにこれ以上、迷惑を掛けるわけにはいかない…だからこそ我慢をしていたのだと、でもそれ以上に我慢を強いたのがユーリだったのだ。
失ってから気付いた、どうしようもない愚かな人間だと自分を責め続けていた。
「ルオンはどう?」
「後悔しているよ、私がもっと強かったらって、何度も思った。死ぬことはなかった、あの日、ユーリ姉様がどんな顔をしていたかすら覚えていない…見ていなかったということだ。見て見ぬ振りをしなければ良かった。取り返しが付かなくなって、気付いても遅かったのに…」
「そうね、あなたは嫌なことが過ぎるのをただ待っていた」
ルオンはユーリが責め立てられていても、庇うこともしなければ、言い返すこともなく、意見を言うこともなかった。
「勝手にどうにかなると思って、目を逸らし続けた。父上にとって、メルベールは可愛い、大事な存在だろう?三人が危険な目に遭っていたら一番に助ける。ユーリ姉様は反対に何をしてもいい存在。そして、私はどうでもいい存在」
「っ、ルオン!お前は」
「あなたは黙って」
サイラは鋭い目つきでアレクスを睨み付けた。後悔していない人間に用はない。ただ、グラーフ伯爵だからここにいるだけで、集まる場所はユーリの亡くなったこの邸でなければならなかった。
「私はそれでもユーリ姉様よりマシだと思って生きていた、馬鹿にしていい人ではないのに、弱さからそう扱ってしまった、後悔しているよ…謝りたい」
「そう、伝わっていて良かったわ」
サイラはルオンが、アレクスから自分を守ろうとしていたことも知っている。だからと言ってユーリに責任転嫁して、蔑むような態度だけは許せなかった。後悔はしているなら、それでいい。
「オーランドくんはどう?」
「はい、後悔しています。ユーリが毒を飲むことに躊躇いがなかったのは、私のせいです」
「え?」「は?」
声を上げたのは何も知らない、メルベールとアレクスだ。レイアは庇おうと口を開こうとしたが、マトムが肩を持ち、首を振って黙らせた。
2,851
お気に入りに追加
3,647
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢の立場を捨てたお姫様
羽衣 狐火
恋愛
公爵令嬢は暇なんてないわ
舞踏会
お茶会
正妃になるための勉強
…何もかもうんざりですわ!もう公爵令嬢の立場なんか捨ててやる!
王子なんか知りませんわ!
田舎でのんびり暮らします!
それでも、私は幸せです~二番目にすらなれない妖精姫の結婚~
柵空いとま
恋愛
家族のために、婚約者である第二王子のために。政治的な理由で選ばれただけだと、ちゃんとわかっている。
大好きな人達に恥をかかせないために、侯爵令嬢シエラは幼い頃からひたすら努力した。六年間も苦手な妃教育、周りからの心無い言葉に耐えた結果、いよいよ来月、婚約者と結婚する……はずだった。そんな彼女を待ち受けたのは他の女性と仲睦まじく歩いている婚約者の姿と一方的な婚約解消。それだけではなく、シエラの新しい嫁ぎ先が既に決まったという事実も告げられた。その相手は、悪名高い隣国の英雄であるが――。
これは、どんなに頑張っても大好きな人の一番目どころか二番目にすらなれなかった少女が自分の「幸せ」の形を見つめ直す物語。
※他のサイトにも投稿しています
家出した伯爵令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。
番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています
6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
【完結】貴方の望み通りに・・・
kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも
どんなに貴方を見つめても
どんなに貴方を思っても
だから、
もう貴方を望まない
もう貴方を見つめない
もう貴方のことは忘れる
さようなら
【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います
ユユ
恋愛
大家族で大富豪の伯爵家に産まれた令嬢には
好きな人がいた。
彼からすれば誰にでも向ける微笑みだったが
令嬢はそれで恋に落ちてしまった。
だけど彼は私を利用するだけで
振り向いてはくれない。
ある日、薬の過剰摂取をして
彼から離れようとした令嬢の話。
* 完結保証付き
* 3万文字未満
* 暇つぶしにご利用下さい
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる