似て非なる双子の結婚

母の帰館

　指定された日に指定された四人と、キリアムとマトム、レイアがグラーフ伯爵家で待っていると、執事に案内されて、本当にサイラがやって来た。

「ごきげんよう」

　一年以上振りに姿を現したサイラは外見はこれといって変わっていなかったが、オーランド、キリアム、マトム、ルオンは肝の据わり方が変わったように思った。

「お前どこに行っていたんだ！ふざけるのもいい加減にしろ！子どもみたいなことをして、恥ずかしくないのか！」
「お母様、ずっと探していたのよ！」
「母上」
「「義母上…」」
「サイラ…」「サイラ夫人…」

　無事で良かったとも言えない皆に、変わっていないと実感することが出来た。

「私がどこにいたかなんてどうでもいいのです。療養中ということになっているんでしょう？まあ、確かに療養中でした、それでいいではありませんか」
「何だと！」
「アレクス、怒っていては話にならぬ」

　声を上げたのはマトム。グラーフ伯爵家の者では止めらないアレクスを制するためにも、この場には必要だっただろう。

「アベリーは寄宿学校に入ったのですね」
「そうなの！大変だったんだから」
「何が大変だったの？」
「だから、ちっとも言うことを聞いてくれなくて」
「私、あなたに何度も甘やかしていたら、碌なことにならないと言ったわよね？お父様も甘やかすから、伯爵家にも連れて来るなと。でもあなたは自分が遊びに行くのに、都合のいい預け先に使った、そうでしょう？」
「お母様…？どうしてそんな言い方するの？」
「事実を言っただけじゃない。どうせ実家に行くと言って、遊びに行っていたんでしょう？違う？」

　キリアムはそういうことだったのかと合点がいった。実家にアベリーを連れて行っては、自分はアベリーを置いて出掛けていたのか。

　義父上がアベリーを甘やかしたのは事実だが、そのような環境に置いていたのはメルベールじゃないか。

「メルベールを責めることはないだろう」
「どうして？メルベール以外に誰を責めるの？アベリーが物を強請る姿が、メルベールに本当にそっくりで驚いたわ。母親を真似していたのかもしれないわね」
「そ、そんなことはないわ！」
「罪を犯したから、自分には似ていないと言いたいのでしょうけど、そっくりじゃない。そしてレイア夫人の隔世遺伝もあって、生粋の欲しがり娘が誕生したのよね？」
「っな、サイラ…夫人」
「レイア夫人、そうよね？」

　マトムは勿論、レイアも、アレクス以外の皆も、レイアが強請っていたことを知っているのだと察した。

「子どもが強請って何が悪い？」
「子どもなら…私もそう思っていたけど、アベリーはどうなった？人様の物を奪うようになったのよ？メルベールは奪うよりも、押し付けるようになったのよね？ユーリに自分より良いものを持たせまいと必死だったものね」
「っな、っな」

　メルベールは母親に、言葉が出て来ない。

「ユーリに良いものなど必要ない」
「あなたはいなくなっても、まだユーリを責めろというの？ユーリはもういないの、あなたに都合のいい相手はここには一人もいないわ」

　案の定、アレクスがメルベールを庇うが、もう責任転嫁する相手はいない。メルベールは自分で責任を取らなくてはいけない。

「っな！実家が大変なことになっているのも知らないんだろう！お前が謝罪して回るというなら、金を」
「知っているわ！あんな家、没落すれば良かったのに。また娘を売ったようね、愚かなものだわ」
「お、お前の育った場所だろう」
「消えてなくなればいいと思っているわ」
「っな」

　アレクスにとってはパーシ子爵家とユーリが、サイラの弱点であった。それを持っていたからこそ、サイラに強く出ていられたのだ。

「実家のことなんてどうでもいいの。それよりも、私は文の答えが聞きたいわ」