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寄宿学校へ

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 アベリーが8歳になり、寄宿学校に入る時がやって来た。

 キリアムとメルベールはアベリーに付き添って、列車と馬車で、寄宿学校のあるカミオール王国まで向かった。

 寄宿学校は大きく、歴史ある建物の様で、曲がりくねった道の先の高台にあり、賑わうような場所までは上り下りして、さらに移動をしなければならない。周りは静かではあるが、学校内は子どもたちの声も聞こえて、空気のいい場所だった。

 アベリーは遠いことに驚いてはいたが、列車や邸以外の外に久し振りに出たこと、学校に行けることが嬉しいようで、大人しく言うことを聞いてくれた。

 そして寄宿学校で手続きを行い、ラオン大公家に送るために入学許可証を貰った。休暇で1年に一度は会えるが、それでも当分会えないことになる。

「しっかりやるんだぞ」「そうよ、分かっているの?」
「分かっているわ、楽しみだもの」
「休暇には会えるから、話を聞かせてくれ」
「分かったわ、ばいばい」

 アベリーはあっさりとしたもので、甘えた生活から誰も相手にしてくれなくなって、こんなところにいたくないという反動も大きかった。

 そしてキリアムとメルベールは送り届けて、母国に戻ることになった。

「少し観光して帰りましょうよ」
「いいや、仕事を残して来ているんだ。急いで帰らなくてはならない。君もまだ頼んだ書類が出来ていないだろう?」
「折角ここまで来たのよ?」
「遊びに来たわけじゃないだろう」
「それはそうだけど…少しくらいいじゃない」
「家のためにも、アベリーの今後のためにも、帰って仕事をしなくてはならない、そうだろう?違うか?」
「…ええ、そうね」

 キリアムの酷く疲れた様子にさすがにメルベールも黙ったが、メルベールは折角、来たんだから観光ぐらいして帰ろうと勝手に思っていた。

 アベリーも寄宿学校に入り、これから再び社交界にも復帰する際に、話の種にしようと思ったが、娘を寄宿学校に送った先で、観光をしたなどという話をして、人にどう思われるか、メルベールは分かっていない。

 キリアムはメルベールとの温度差をひしひし感じる日々を送っており、これから二人で帰らなくてはならないため、いい加減にしろという言葉をグッとこらえたが、表情までは取り繕えなかった。

 大人しく帰ったものの、一向に書類は出来上がらない。

 それなのにメルベールも、レイアも、これで社交に復帰できると思っており、いそいそと準備を始めていたが、夫たちはそんなことは考えていなかった。

「書類はまだなのか?」
「もうちょっと待ってって言ったじゃない」
「あれから何日経っていると思っているんだ?いつ出来るんだ?」

 メルベールに任せたのは、帳簿を見ながら別邸の支出報告書と、父から任された領地の三分の一に当たる地区の収支の報告書、とは言っても前からやっていることで、事件後はアベリーに付きっ切りで、キリアムも仕事に逃げていたところもあり、自分でやっていたが、再びメルベールに戻しただけである。

 メルベールが作った報告書をキリアムが確認することになっており、いつもなら一週間以内には出来上がるはずが、一向に持ってくる気配がない。

「えっと、久し振りだから時間が掛かってしまって」
「今まで完璧にやって来たじゃないか」
「なかなか勘が戻らなくて」
「はあ…それでいつ出来るんだ?」
「三日以内には…」
「分かった、早くしてくれよ」

 しかし、三日後に執事がメルベールから預かったという書類は、読み辛い上に、これだけであるはずないだろうという書き方に、枚数であった。

「何だ、これは?書き方も忘れたのか?」
「失礼ながら、奥様は誰かに頼んでやって貰っていたのではありませんか?以前の字体と微妙に違う様に思います」
「まさか…」
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