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弟と従姉妹2

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「これは善意の忠告だ。もう止めた方がいい。父に援助を全て返せと言われたら、おそらく邸どころか、領地も爵位を売っても、返せる額ではないよ?邸を売ってどうにかなるならいい方だ。パーシ子爵領で慎ましく暮らせるくらいは出来るだろう」

 父上は返金しろとは言っていないようだから、まだいい方だろう。

「そんな…」「嘘…お姉様、どうにかなるって言ったじゃない」
「だって、パパが…」

 やはり叔父に言われてやって来たのか、お前たちなら泣き落としすればと言ったのかもしれない。泣いてはいないようだけど。

「返せと言われたら、君たちは平民だ」
「そんな…」「嫌よ、平民なんて」

 夫人が付けた名前だそうだが、名前を変えない限り、いかにも没落貴族という目で見られるだろう。

「それより自分の身を心配した方がいいんじゃないか?」
「どういう、意味?」
「母上が売られたように、君たちも援助してくれるようなところに売られるんじゃないか?子爵家のために」
「そんな!」「そんなことあり得ないわ」
「あの家ではあり得るさ、祖父母も、君たちの両親も、それで贅沢をして来たんだから、君たちがやめられない以上に、やめられないはずだよ」

 今までは援助金があるから余裕があった、それがなくなったことで、心は荒むはずだ。母上と同じように、援助をしてくれる相手と結婚させればと考えるだろう。

「二人は婚約者はいないのか?援助して貰えばいいじゃないか」
「今、吟味しているところだったから、パーティーにも誘われたのに、ドレスが…」
「そうよ、ドレスがあったら」

 本当に知らなかったが、二人とも婚約者はいないのか。

 見た目や中身を知って好意を持ってくれたのならばいいが、政略的であれば、きちんと調べれば収入が少なく、旨みのない家に縁談はなかったのかもしれない。

「人気があるならいいじゃないか。相手によっては、我が家なんかより金持ちになれると思うぞ?」
「そうよね…」「ええ、そうね」
「結婚相手によって生活が一変することはある話だろう?吟味するほどいるなら、心配はないじゃないか、違うか?」
「まあそうだけど」「まだ結婚なんてって思っていたから」

 礼儀もなっていない二人に高位貴族は難しいだろうが、お金のある家ならいくらでもある。もしかしたら気に入ってくれる人もいるかもしれない。

 勝手に新しい寄生先を探してくれ、我が家は今、それどころではない。

「早い方がいいんじゃないか?勝手に決められるかもしれないぞ」
「えっ、そんなの困るわ。かっこいい人がいいもの」「私だってそうよ」
「そうだろう?早く相手を見付けたらいい。それか働くか?それなら自分だけは多少贅沢は出来るだろう」
「え…そんなこと考えたこともなかった」「いずれ結婚すればって」

 働くなんて一切考えていないことは分かっていたが、本来なら働いて稼ぐべきことだ。だが、両親を見て育っていたら、そうは考えもしないのだろう。

 ただ、働いても、そのお金すら充てにする可能性はあるだろうけど。

 母親は寄生先に寄生しているような状態だ、生家は子爵家だそうだが、援助してくれるどころか、パーシ子爵家と同じような状態らしい。

 お金に困っているなら、自分も援助して貰えそうな相手と結婚するべきだっただろう。全て母上頼りだったことがよく分かる。

「答えは出たじゃないか」
「結婚相手がいれば…」「そうね、それなら」
「ただ婚約者がいる相手は止めておけよ、慰謝料で本当に没落する。後、そろそろ帰った方がいい、父上が帰って来るぞ」

 二人は慌てて帰って行き、どうなるか知らないが、もう会うことはないだろう。

 子爵家に帰ったリルフォーミュアとミリージュアンは、どうだったかと縋る両親に、結婚相手を探すと宣言したそうだ。
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