上 下
54 / 118

悩める夫たち1

しおりを挟む
 ルオンから聞いた話を父・マトムとキリアムに義母上は娘を見殺しにした罪は負わないといけないと出て行ったこと。

 義父上・アレクスも探していて、見付かっておらず、連絡もないことを伝えた。メルベールの話は父には話すのは、キリアムに話してからにしようと思っていた。

 皮肉にもマトムも、キリアムも、オーランドも、アレクスも、妻のことで悩ましい思いをする日々となっていた。

 マトムが執務に戻ると、オーランドはキリアムに向かって話し始めた。

「メルベールもあまり出さない方がいいかもしれない」
「何かあったのか?」
「メルベールが言った通り、グラーフ伯爵家には私は関知していないが、ユーリが誕生日に花を贈っていた」
「そうか…」
「メルベールは一度も贈っていないそうだ。ルオンが義母上に確認したそうだから、間違いないと。手土産に菓子を持って来るくらいだったそうだ」
「そう、なのか。何度か聞いたことがあるか、何か贈っておくと言っていたはずだ。私は毎年夫妻から貰っていたぞ?」
「私もだ」

 グラーフ伯爵家からシャツやタイ、万年筆、靴などを貰っていた。

「メルベールは今年も貰っていなかったか?」

 ユーリは誕生日を迎える前に亡くなっていたが、メルベールは今年も貰っているかもしれない。

「確か…イヤリングを貰ったと」
「おそらく母上と同じで、これが欲しいと義父上に買って貰っているそうだ。まあ、実の親だけマシかもしれないがな」

 やっていることは同じでも、嫁と実父に強請るのは大きく違うだろう。

「は?それなのに母上のことを嫌悪していたのか?」
「同族嫌悪ってやつじゃないか?あと、メルベールは悪いとも思っていないだろうと言っていた。母上のことを話したのだが、メルベールならやり兼ねないと、自分の両親にもしていたかもしれないとまで」
「嘘だろう…?」

 以前にもユーリに買わせて、二人で一緒に買ったのと言っていたのか?母上のせいかのように言っていたが、元々していたのか?

「ユーリは文句を言わないだろうからな。花もクレナ伯爵家からではなければ、自分も一緒に贈ったと言ったかもしれないと。メルベールにとって、大したことではないと、元々あったんじゃなか」
「たかが贈り物でも、それこそ礼儀の問題だよな…」

 貴族として、家族として最低限の礼儀は必要だろう。

「ああ、私も人のことは言えない。ルオンにも愛人がいると思われて、警戒されていたようだしな」
「それは自業自得だろう?シュアト公爵家も把握していると思うぞ?」
「分かっている。ユーリがいたからこそ、何も言わなかっただけだろうな…責任を取って側近を辞めようかとも考えている」
「それ、は」
「まだ殿下に止められてはいるが、評価の悪い私がいることも良くないだろう?」

 妻が亡くなったことを責められるようなことはないが、生家のトスター侯爵家の評判は下がり、愛人の騒動のことも知っている者は知っている。

 元々、継がなくてはならない家ではないため、クレナ伯爵家はどうにでもなる。

 正直、再婚をすればいいのではないかという声や、お寂しいでしょうと言い寄って来る相手にも、今や嫌悪感しかない。

 医院に挨拶に行った時も、私を見付けて、ユーリのお悔やみを言いながら、邸に行ってみたいなどいう不躾な女もいたくらいだ。

「結構だ!」
「でもぉ、私ユーリ先輩と親しかったんですよ。心配なんです」
「親しいならユーリの呼び名を知っているか?」
「っえ、ユーだったかな?」
「違うが?親しいなどと嘘を付いて、詐欺師なのか君は」
「そんな、違います」
「詐欺師にしか見えない!今後近付いてきたら警備を呼ぶ」

 そう言うとようやく去って行き、メルベールはメル、ルルなどと呼ばれていたが、ユーリに呼び名などない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

処理中です...