【完結】似て非なる双子の結婚

野村にれ

文字の大きさ
上 下
45 / 118

夫と義兄3

しおりを挟む
 キリアムは両親とはオーランドも一緒に話をした方がいいと、先にオーランドに会いに行った。

 メルベールと、両親、特に母上が行っていたことを話すと、オーランドは母上に怒りを感じたようだった。

「メルベールのことはすまないと言っても、もうどうしようもないのだが」
「私に怒る資格はない。何も知らなかった…母上の要求も、確認してみるが、私は何も聞いていない。ユーリが一人で支払ったのだと思う」

 ユーリを不躾に扱い、サイラに叱られた執事・アークルは解雇されているため、把握している者はいないだろう。

「ユーリは収支を付けていたそうだ。分かるか?」
「いいや、私は何も知らない…部屋を探してはみるが」

 ユーリの部屋はあのまま手付かずの状態で残している。

「やっぱりそうか…ならば、茶葉のブレンドをしていたことも知らないんだな?」
「…知らない」
「やはり、シュアト公爵夫人に聞くしかないな」
「シュアト公爵夫人?」
「ユーリはシュアト公爵夫人、コンクエッツ公爵夫人と、マクシス伯爵夫人と、スカラット侯爵夫人と、ガルツ侯爵夫人と親しかったそうだ」
「っな」

 語り合うような時間はなかったが、そのような話を聞いたこともない。茶会なども行っている様子はあったが、相手まで聞くことはなかった。

 私はユーリについて何も知らなかった。知ろうとしなかった。

「おそらくマクシス伯爵夫人が、同じ医院の医師だからだろうな。その方々が集まる茶会で、母上とメルベールは自分の愚かな行為を暴露されたそうだ」
「ユーリが言ったのか?いや、想像が出来ないのだが…」
「ああ、私もそうだよ。ユーリが言ったことは思えない。誰かに見られていたか、使用人が話したとも考えられる」

 手紙ではなく、言いに行っていたようだから、誰かに聞かれていてもおかしくはない。手紙だと証拠が残るとでも思っていたのだろうか。

 直接言う方が、よほどみっともないとは思わないのか。

「母上はただのたかりじゃないか」
「ああ、そうだ。だがメルベールはバレないと思って、ユーリに半分払ったと嘘までついてしまった。シュアト公爵夫人が会ってくれるかどうかだが、オーランドが支払っていないなら、ユーリに支払うことも出来ない」
「ああ、私に払うくらいなら義母上に払って欲しい」
「居場所が分かったのか?」

 義母・サイラはグラーフ伯爵家に戻っておらず、サイラの弟・トアス・パーシ子爵が当分、金の無心に来ていたが、何度門前払いしてもやって来るので、通報すると言ってからは、ようやく来なくなった。サイラからの連絡はまだない。

「いや、分からない。見付かったら義母上に支払ってくれ。それがユーリにとって一番いいだろう」
「そうだな…」

 義父・アレクスに渡すことは、ユーリにとって最も不本意だろう。トアス・パーシ子爵は論外である。

「明日、両親に時間を貰った。話をするから、仕事が終わってからでいい、オーランドも付き合ってくれ。いくらユーリが亡くなったからと言って、御夫人方の前で暴露されて、このままというわけにはいかない」
「そうだな…母上はどういうつもりで、たかりのようなことをしたのか知りたい」
「私たちの両親はそんなに非常識な人だったのかと思っていた」

 キリアムとオーランドにとって、両親は頼りになる存在だった。

「おそらく、私たちには言わず、嫁だから言っていたんだろうな。嫌われたくない存在だから、言っても構わないだろうと」
「義母上に言われたら、贈るかもしれないが…言わないだろうな」
「そうなんだよ、義母上も、あんな義父上でも私たちには言わないだろう?余計にどれだけ常識外れか、分かると言うものだ…」

 二人は溜息を付き、また明日と別れた。オーランドは意を決して、ユーリの本棚や机の引き出しを探したが、それらしきものはなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫から「余計なことをするな」と言われたので、後は自力で頑張ってください

今川幸乃
恋愛
アスカム公爵家の跡継ぎ、ベンの元に嫁入りしたアンナは、アスカム公爵から「息子を助けてやって欲しい」と頼まれていた。幼いころから政務についての教育を受けていたアンナはベンの手が回らないことや失敗をサポートするために様々な手助けを行っていた。 しかしベンは自分が何か失敗するたびにそれをアンナのせいだと思い込み、ついに「余計なことをするな」とアンナに宣言する。 ベンは周りの人がアンナばかりを称賛することにコンプレックスを抱えており、だんだん彼女を疎ましく思ってきていた。そしてアンナと違って何もしないクラリスという令嬢を愛するようになっていく。 しかしこれまでアンナがしていたことが全部ベンに回ってくると、次第にベンは首が回らなくなってくる。 最初は「これは何かの間違えだ」と思うベンだったが、次第にアンナのありがたみに気づき始めるのだった。 一方のアンナは空いた時間を楽しんでいたが、そこである出会いをする。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

もう彼女の夢は見ない。

豆狸
恋愛
私が彼女のように眠りに就くことはないでしょう。 彼女の夢を見ることも、もうないのです。

処理中です...