【完結】似て非なる双子の結婚

野村にれ

文字の大きさ
上 下
40 / 118

姉と義母

しおりを挟む
 馬車に乗ったレイアとメルベールはしばらく沈黙していたが、お互いに目の前は真暗だった。味方どころか、完全に嫌われてしまった。

「どうして嘘なんて言ったの!贈りたくないなら、そう言えば良かったじゃない」
「そうではなくて、買いに行く時間がなくて…それでつい」
「ユーリだって忙しかったのに、毎年贈ってくれていたのに」
「それは…あの子は子どもがいないから」
「あなた四六時中、子どもといたっていうの?乳母にほとんど任せていたじゃない。払ってもいないのに、よくも言えたわね」
「…申し訳ございません」

 義母だって、誕生日の贈り物を強請っていることを知られていた。皆知っていると言っていた。『今年は靴がいいかしら』なんて私にも言って来ていたが、キリアムにも話して、必ずしも希望した物をあげなかったりもした。

 ユーリは馬鹿正直に、言われた物をあげていたのだろう。それを暴露されて、少しざまあみろと思った。

 自身の親ならまだしも、義理の親に強請られるのはいい気分ではなかった。しかもユーリのハンカチ一枚よりかはましだが、私も花束や小物で、お金の掛かっていない贈り物しかもらっていないことは、実はずっと不満だった。

「恥を晒しに行っただけじゃない!これからどうすれば…」
「行かなければ良かったですね」

 レイアが誘って欲しい文を出していることを知らないメルベールは、向こうから誘われて晒し者にされたと思っている。

「そのために呼んだのでしょうか?」
「陥れるために?」

 陥れられたわけではなく、事実を突き付けられただけなのだが、同じ思考となっている二人はわざと貶めたのだと考えている。

「そうではありませんか?どうして、ご存知だったのですか」
「ユーリは言っていないと言っていたけど、話したんじゃない。はあ…強請ったのではなく、教えてあげただけなのに、何てことをしてくれたのかしら、もう弁解もして貰えないじゃない。どうすればいいのよ…」

 そう言うとレイアは頭を抱えてしまい、メルベールはその言葉に苛立ったが、自分も同じことを考えたことは、なかったことにしている。

 ユーリが今日の方たちと過ごしていたのかは分からないが、ユーリが面白おかしく話すとも思えないもの事実である。

 恨むまではいかなくても、私が一緒に購入したことは一切言っていなかったが、誰かから聞いていたのかもしれない。それで気分を害して、そうだったとしてもユーリは言わなかっただろう。せめて言ってくれていたら、お金くらい払ったのに。

 参加者は公爵家と侯爵家で、クレア夫人だけが伯爵家だが、実家はバエルン侯爵。社交界を牛耳っている、次代も牛耳っていく存在なのは間違いない。

 相手にされないどころか、嫌われてしまったら、トスター侯爵家はますます厳しくなる。今まではメルベールの双子の妹という存在が、ユーリだった。だが、今日の参加者は違う、ユーリの姉がメルベールなのだ。

「この子はユーリよ、双子の妹なの。私にそっくりでしょう?」
「本当、そっくりね」

「ユーリは内気なの、だから皆、優しくしてあげてね」
「メルベールの妹なら当たり前よ」

 何もしなくても、勝手に周りがメルベールを持ち上げてくれる。それなのに、今日は何の手応えもなかった。おかしいとしか思えなかった。

 メルベールは生まれた時からずっと、自身の方が優位な立場であったために、どう接すれば好感を持って貰えるのか、感覚が分かっていなかった。

 自身の都合よく、比較するためのユーリはいない。

 残されたのは怪我をさせたアベリーと、強欲な義両親と、見殺しにした父。母とは連絡が取れない、こんなはずではなかったと、気付くのはいつだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

「いなくても困らない」と言われたから、他国の皇帝妃になってやりました

ネコ
恋愛
「お前はいなくても困らない」。そう告げられた瞬間、私の心は凍りついた。王国一の高貴な婚約者を得たはずなのに、彼の裏切りはあまりにも身勝手だった。かくなる上は、誰もが恐れ多いと敬う帝国の皇帝のもとへ嫁ぐまで。失意の底で誓った決意が、私の運命を大きく変えていく。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

処理中です...