上 下
33 / 118

夫の恋人の出産

しおりを挟む
 サイラは戻って来ないまま、時間だけは流れていた。オーランドもキリアムから出て行ったことを聞かされたが、やはりそうなったかと思うだけであった。

 そして、ついにリリア・コートは女の子を出産し、オーランドは確認のために子爵領まで赴いた。アンドリュー王太子殿下には全ての事情を話してあり、それでも側近として置いて貰えている。

 今回もきちんと解決して来るようにと言われて、ここまでやって来たのだ。

「オーランド!やっと来てくれたのね。生まれたのよ、私たちの子どもよ、プリメーラと名付けたのだけど、良かったかしら?早く抱いて頂戴」

 見せ付けて来る赤子は、髪も目の色も、肌の色も、オーランドに似たところは一つもなかった。明らかに違い、リリアもさすがに似ていないことに気付いている。

「私の両親に似てしまったの!次は頑張るから」

 弟であるコート子爵は渋い顔をして、首を振った。

「あなたは覚えていないかもしれないけど、両親に似ているの!」
「鑑定をすればいい話だ」
「私を疑っているの?似ていないこともあるのよ」
「疑うに決まっているだろう?」
「どうしてよ、子どもがいないんでしょう?この子はあなたの子、それでいいじゃない!どうして分かってくれないの?」

 オーランドは鑑定をする者を呼んでおり、リリアは抵抗していたが、鑑定結果はやはりオーランドの子どもではなかった。

「私はオーランドだと思って、オーランドの子どもだったらと思って産んだのよ!」
「私は君に子どもを産んで欲しいと思ったことはない」
「え…」
「不貞行為はお互い様だったことから、慰謝料はいい。ただし、リリア・コートは名誉棄損したことから、私には接近禁止とさせて貰う。万が一破った場合は、拘束を受けて貰う。それでいいか?」
「承知しました、ですが、慰謝料は払わせてください」
「ならば、元夫に払っておいてくれ。傷付けた妻はもう受け取れない、私が受け取るわけにはいかない…」
「…奥様には大変申し訳ありませんでした」
「どうしてよ、なんで、あんな子どもの産めない女より私の方が価値があるに決まっているじゃない!どうして分からないのぉ!」

 オーランドは素早い動作で剣を抜き、リリアの喉元に剣先を突き付けた。誰も止めようとする者はいない。

「死にたいか?妻を侮辱して、私が怒らないと思っているのか?」
「愛していないんでしょう?」
「愛していないなどと、いつ言った?」
「だって、愛していたら浮気なんてしないわ」
「確かにそれはその通りだな。私は身体の関係を持つことに妻以外には、何の感情もない。手筈通りに行うだけ。だが妻は辛そうにしていないか、嫌がっていないかと、嫌われたくない気持ちがある、唯一の人だった。子ども?妻の子なら欲しかったが、妻が産まないなら、必要ない」
「そんな…」
「私も最低だが、お前の最低の人間だ。子どもはきちんと育てろ、出来ないなら育ててくれる人に任せてやれ」

 オーランドはコート子爵に接近禁止に同意させて帰って行き、リリアはオーランドの子どもでなくても、自身を救ってくれると信じていた。

 不貞行為の頃は、友人の延長のように二人は酒を飲んでは、関係を持っていた。オーランドも軽い関係だったからこそ、何度か関係を持ったに過ぎなかった。

 だが、リリアは離縁が決まって、ようやくオーランドの妻になれると浮足立っていた。子どもを宿したと思ったあの日も、オーランドのことばかり考えていたため、オーランドだと思い込んだのだ。

 その後、プリメーラにあなたがオーランドの子どもじゃなかったからと言い出し、コート子爵も子育てをするような気力もなく、虐待する恐れがあるため、知り合いの子どものいない夫婦に引き取って貰うことにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです

たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。 お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。 これからどうやって暮らしていけばいいのか…… 子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに…… そして………

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

無価値な私はいらないでしょう?

火野村志紀
恋愛
いっそのこと、手放してくださった方が楽でした。 だから、私から離れようと思うのです。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

処理中です...