31 / 116
母の家出2
しおりを挟む
サイラはその足でトスター侯爵家の別邸、メルベールを訪ねた。慌てて迎えたメルベールは、サイラに戻ってから結局会えていなかった。
「お母様、やっと会えた。その荷物は?またどこか行くの?」
「グラーフ伯爵家を出て来たの。ルオンには伝えてあるわ。離縁になるか別居になるかは、あの人に任せて来たから」
母が嘘を言っているようには見えなかったが、理解が出来なかった。
「どういうこと?」
「ユーリを守れなかった私にあの家にいる資格も、いる理由もないわ」
「それは…」
私も父と冷静に話すことも出来なかった、顔を見るのも嫌なのも分かる。
「私の実家のパーシ子爵家が来ても、追い返していいから。おそらく援助が打ち切りになったら、あなたを頼るかもしれないわ。キリアムくんとオーランドくんにも見捨ててくれと伝えておいて」
母の実家のパーシ子爵家は、グラーフ伯爵家の援助で成り立っていると聞いている。確かに母が出て行ったら、父は援助を打ち切るだろう。
そうなれば、父が駄目ならルオン、ルオンが駄目なら私やキリアム、オーランドに頼ってくる可能性はある。
「待って、お父様が嫌になったのは分かるけど、これからどうするの?」
「どこかで雇ってもらうわ」
「お母様、働いたことあるの?」
母は学園を出て、すぐに父と結婚して、私たちを産んだと聞いている。
「ないけど、働くつもりだったから、針仕事は出来るの。どこか雇って貰って、生きていくから。迷惑は掛けないから、心配しないで」
「嫌ならここにいればいいじゃない」
「嫌よ、こんな伯爵家が見えるようなところ。吐き気がするわ」
「おかあ、さま…?」
そんな言い方をする母を初めて見た、いつも言いたいことを我慢して、飲み込むような人だったはずだ。
「吹っ切れたの、私は娘を見殺しにした罪を裁かれることなく生きていくの。私は罪深い人間よ」
「それは、私だって」
自分の産んだ娘のせいで亡くなった罪がある。お母様だけじゃない。
「メルベールはどうせ、実感がないでしょう?ユーリが苦しんでいた時間、あなたは何をしていたのかしらね?ホテルを変えたがために、葬儀にも間に合わなかった。たった一人の妹なのに」
「私だって知っていたらすぐに戻ったわ、ユーリに会いたかった。今でも会いたいと思っているわ」
どうして意地悪な言い方をするの?ホテルを変えたのは悪かったけど、そんなことになっているなんて、何も知らなかった。
知っていたら、眠らず、お風呂に入れなくても、何に変えても、急いで駆け付けていた。おかげで領地でのことは思い出したくもないほど、くすんでしまった。
「だから誰も許さないことにしたの」
「許さない…?」
「ええ、ユーリを傷付けた人は許さない。勿論、私自身もよ」
「だから出て行くっていうの?」
「そう、あの人といたら、殺してしまうかもしれないもの。あと子爵家に援助して欲しくもないの、私がいたら援助は続いてしまうでしょう?」
「でも、そんな急に、ユーリもいなくなって、お母様まで」
ユーリにはいつも話を聞いて貰っていた、聞き上手で、話すだけで気持ちを落ち着かせることが出来た。母だって同じ、義母は頼りにはなるが、相談したり、愚痴を言うのは母なのに、いなくなったら困る。
「あなたは母親でしょう?しかも怪我をさせた母親、しっかりしなさい。落ち着いたら、手紙くらいは書くから。これまでメルベールとルオンに使った時間をユーリに使うことにしたの。いいでしょう?もう私はいないと思って頂戴」
「待って…」
こちらも颯爽と去って行き、メルベールも追いかけられないまま、呆然と見つめるしかなかった。
サイラは戻って来ることなく、手紙を書くと言ったが、連絡もなかった。
「お母様、やっと会えた。その荷物は?またどこか行くの?」
「グラーフ伯爵家を出て来たの。ルオンには伝えてあるわ。離縁になるか別居になるかは、あの人に任せて来たから」
母が嘘を言っているようには見えなかったが、理解が出来なかった。
「どういうこと?」
「ユーリを守れなかった私にあの家にいる資格も、いる理由もないわ」
「それは…」
私も父と冷静に話すことも出来なかった、顔を見るのも嫌なのも分かる。
「私の実家のパーシ子爵家が来ても、追い返していいから。おそらく援助が打ち切りになったら、あなたを頼るかもしれないわ。キリアムくんとオーランドくんにも見捨ててくれと伝えておいて」
母の実家のパーシ子爵家は、グラーフ伯爵家の援助で成り立っていると聞いている。確かに母が出て行ったら、父は援助を打ち切るだろう。
そうなれば、父が駄目ならルオン、ルオンが駄目なら私やキリアム、オーランドに頼ってくる可能性はある。
「待って、お父様が嫌になったのは分かるけど、これからどうするの?」
「どこかで雇ってもらうわ」
「お母様、働いたことあるの?」
母は学園を出て、すぐに父と結婚して、私たちを産んだと聞いている。
「ないけど、働くつもりだったから、針仕事は出来るの。どこか雇って貰って、生きていくから。迷惑は掛けないから、心配しないで」
「嫌ならここにいればいいじゃない」
「嫌よ、こんな伯爵家が見えるようなところ。吐き気がするわ」
「おかあ、さま…?」
そんな言い方をする母を初めて見た、いつも言いたいことを我慢して、飲み込むような人だったはずだ。
「吹っ切れたの、私は娘を見殺しにした罪を裁かれることなく生きていくの。私は罪深い人間よ」
「それは、私だって」
自分の産んだ娘のせいで亡くなった罪がある。お母様だけじゃない。
「メルベールはどうせ、実感がないでしょう?ユーリが苦しんでいた時間、あなたは何をしていたのかしらね?ホテルを変えたがために、葬儀にも間に合わなかった。たった一人の妹なのに」
「私だって知っていたらすぐに戻ったわ、ユーリに会いたかった。今でも会いたいと思っているわ」
どうして意地悪な言い方をするの?ホテルを変えたのは悪かったけど、そんなことになっているなんて、何も知らなかった。
知っていたら、眠らず、お風呂に入れなくても、何に変えても、急いで駆け付けていた。おかげで領地でのことは思い出したくもないほど、くすんでしまった。
「だから誰も許さないことにしたの」
「許さない…?」
「ええ、ユーリを傷付けた人は許さない。勿論、私自身もよ」
「だから出て行くっていうの?」
「そう、あの人といたら、殺してしまうかもしれないもの。あと子爵家に援助して欲しくもないの、私がいたら援助は続いてしまうでしょう?」
「でも、そんな急に、ユーリもいなくなって、お母様まで」
ユーリにはいつも話を聞いて貰っていた、聞き上手で、話すだけで気持ちを落ち着かせることが出来た。母だって同じ、義母は頼りにはなるが、相談したり、愚痴を言うのは母なのに、いなくなったら困る。
「あなたは母親でしょう?しかも怪我をさせた母親、しっかりしなさい。落ち着いたら、手紙くらいは書くから。これまでメルベールとルオンに使った時間をユーリに使うことにしたの。いいでしょう?もう私はいないと思って頂戴」
「待って…」
こちらも颯爽と去って行き、メルベールも追いかけられないまま、呆然と見つめるしかなかった。
サイラは戻って来ることなく、手紙を書くと言ったが、連絡もなかった。
応援ありがとうございます!
323
お気に入りに追加
4,484
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる