【完結】似て非なる双子の結婚

母の家出１

　慌ただしく、出掛けていたサイラは離縁状を持って、アレクスに申し出た。

「離縁して欲しいの」
「はあ？何を言っている！」
「離縁が嫌なら、別居でも構いません。ここに署名した離縁状がありますので、出すか出さないかはあなたにお任せします」

　サイラは封筒を差し出し、怒り狂うアレクスの顔を冷めた目で見ていた。

「ふざけるな！まだユーリのことをこだわっているのか！」
「私は出て行きますので、後は勝手にしてください」
「許さんぞ！そんなことをしたら子爵家の支援も打ち切りだぞ、いいのか？」

　サイラの生家、パーシ子爵家は領地収入も少なく、性根は腐っていても、経営力はあるグラーフ伯爵家の援助がなければ立ち行かない状態である。どうにかしようという気もなく、ずっと援助頼りで生きている。

「打ち切ってください」
「何だと！本当に打ち切るぞ」
「ええ、もう実家には話してありますので、返済を求めるならばどうぞ」

　サイラがグラーフ伯爵家に嫁いだのも、アレクスがサイラの容姿を気に入り、子爵家も援助目当てであった。

「っな！」
「どうでもいいんですよ、もう。子どもたちも大人です、自分の責任は自分で取れる。私も自分の責任を取らなければならない、遅すぎたんです」
「何の責任だ？」
「娘を見殺しにした責任ですよ」
「あれは勝手に死んだんじゃないか！私たちのせいではない」

　私たちなど一緒にされたくはなかったが、責任は互いにあることは間違いない。

「私たちのせいではなかったら、誰の責任だと言うのですか！」
「ユーリの責任じゃないか」
「話になりませんね、何を言われても出て行きます」
「お前が一人で生きていけるわけないだろう！甘く見やがって！これだけら世間知らずは、実家も困るだろうな、お前を恨むだろうよ」
「それで構いません」
「じゃあ、勝手にしろ！」

　荷物を既にまとめていたサイラはその足で出て行き、アレクスはどうせ戻って来るしかないと止めることなく、使用人も驚いたが、止める者はいなかった。そして、サイラは別邸のルオンの元へ向かった。

「私はこれからグラーフ伯爵家を出ます。離縁か別居かはあの人が決めるでしょうから、任せてあります」
「母上、正気ですか？」
「ええ、あなたも出たいなら出ればいい」
「待ってください、意味が分かりません。ユーリのことは可哀想だと思いますけど、母上が出て行くことはないではありませんか、苦労するだけですよ」

　ルオンは葬儀の前にユーリに何があったか、サイラから聞いている。

「それで構わないの。後、パーシ子爵家が援助を切られるはずだから、あなたを頼って来るかもしれないけど、見捨てていいから」
「ですが」
「いいの、あの人たちは私を売って、楽をしていただけだもの。現実を見るべきなのよ。じゃあ、それだけだから。もう会うことはないかもしれないけど、元気でね」
「それが伯爵夫人のすることですか？」
「もうどうでもいいのよ」
「母親でしょう！」
「ええ、だから出て行くの。娘を見殺しにした罪は負わないといけませんからね」
「見殺しって…」
「そうでしょう？助けられなかった、何も出来なかったのだから」
「ユーリが望むとでも言うのですか！そんなこと望んでいませんよ」

「あなたにユーリの何が分かるの！知ったようなこと言わないで！」

　母は目に涙を溜め、甲高い叫ぶような声だった。

「何も知らないくせに、ずっとバカにしたような態度を取って来たくせに、私も止められなかった責任があります。だから出て行くのです」
「そんな…」

　ルオンは颯爽と去っていた母を追い掛けることが出来ず、サイラが門を出るまでただ見つめていた。