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姉夫妻2

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 キリアムは今さらどうにもならないオーランドに、私たちが今から出来ることをやって行くしかないと話して別れた。

 メルベールは、毎日アベリーに説明を続けているが、報われていない。メルベールにはオーランドの不貞のことは、今はまだ話すべきではないだろうと思っている。 

「オーランドが来ていた」
「そう…私はまだ合わせる顔がないわ…落ち込んでいた?」
「ああ、謝ったが、どうにかなる話ではないからな…」
「そうね…ああ、どうしたらいいの」
「アベリーは今日もか」

 あれから毎日、アベリーの泣き喚く声と、メルベールの説教する声がしている。前ならば間に入っていたが、私もアベリーを庇うことは出来ない。

 祖父母である侯爵夫妻もアベリーから距離を置いている。

 義父上はアベリーに会わせて欲しいとやって来るが、メルベールも、両親も許さず、会わせていない。

「何を言っても響かない。なんて言えば理解が出来るのかしら」
「五歳でもしっかりしている子はしているからな、年齢のせいには出来ない。寄宿学校なら八歳から入学出来るそうだ、入れてみるのもいいかもしれないと思っている」
「やっていけるのかしら…」
「どちらにしても、十二歳になれば、修道院に行くことになる。準備としてはいいのではないだろうか」
「そうね、親よりも同世代に指摘されれば理解できるかもしれないものね」
「まだ時間はある、選択肢に入れておこう」

 アベリーが寄宿学校に入るとしても、八歳になるまでは約二年弱はある。入れるととしても、それまでに理解が出来る状態にしてからでないとならない。アベリーも自身のしたことではあるが、相手が悪かったとは言えるだろう。

「オーランド様はどうする気かしら」
「何をだ?」
「再婚とか考えるのかしら」
「当分は無理だろうな、実感がないと言っていた」
「葬儀に参加していない私たちはまるで実感がないまま、取り残されているみたい」
「そうだな…」
「でも、そろそろ向き合わなくちゃいけないわよね…」

 メルベールとキリアムは、グリメール墓地に行くことにした。

 教えてもらった場所には、紛れもなくユーリ・クレナという墓が存在していた。メルベールは、決意してやって来たが、やはり崩れ落ちてしまった。

「ああ、本当に、ユーリにはもう会えないのね」
「ああ…どうしてこんなのことに」
「苦しかったでしょうね、ああ、どうして…どうして、お土産だって買って来たのよ、あなたの好きなジャムよ。今回はラズベリーとアプリコットよ」

 メルベールはジャムを墓に置くも、何も起こることはない。

「最後に別れた時のユーリの顔ばかりが浮かぶの。あの笑顔で、ありがとうって言ってくれるはずだったでしょう?パンに塗って食べたわ、美味しかったよって言ってくれるはずでしょう?なのに、どうして…」

 キリアムも掛けられる言葉を持っていなかった。メルベールがユーリのために、ジャムを選んでいたのを横で見ていた、きっと喜ぶわと言ったメルベールに、ああ、きっと喜ぶと言った覚えがある。

 だが、そのささやかな願いすら一生叶わなくなってしまった。

 選ばれたジャムも、ユーリの手に届くことは二度とない。私たちが早く帰っていれば、せめてホテルを変えなければ、葬儀には間に合ったかもしれない。

 顔を見て、送り出すことが出来たかもしれない。顔を見て、謝罪が出来たかもしれない。ずっと後悔の波が押しては引くように過ごしている。

 ユーリの墓は生き生きとした花が沢山飾られており、寂しくないように咲いているように見えた。
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