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夫と母1
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数日後、オーランドの元にユーリの母・サイラ夫人が訪ねて来た。
私が知る限り、ユーリを訪ねてくることはなく、母娘がどのような関係性だったのか、分からないままだった。
だがいずれは会いに行かなくてはならないと思っていたので、丁度良かった。義父には言いたいことはあるが、義母であれば落ち着いて話が出来るだろう。
「お待たせしました」
「いえ」
「ユーリのことは…」
「ええ、あなたと結婚させるのではなかったと後悔しかありません」
オーランドはサイラに会えば、ユーリは元気かといつも聞かれ、気に掛けていることは理解していたが、夫であるグラーフ伯爵の言いなりのような姿しか見たことがなく、思わず言葉を失った。
「大事にすると言ったくせに、嘘だったのね」
「大事にしておりました」
「嘘はもう結構よ。ユーリから預かった物を渡しに来ただけですから」
「ユーリに?」
「ええ、ユーリを看取ったのは私だけですから。今となってはそれで良かったと思っています。騒がれていたら、迷惑でしかありませんでしたから」
そこまでは聞いていない。皆で看取ったのではないのか、夫人が一人で看取ったというのか。両親にしっかり話を聞くべきだった。
「え…ユーリは、ユーリはなぜ毒を飲んだのですか!」
「全ての果て…じゃないかしら。これを渡すように頼まれました」
サイラはユーリから預かった封筒をオーランドの前に置くと、オーランドは中を慌てた様子で取り出すと、驚愕した。
「どうして…」
「恋人がいらっしゃるんでしょう?死別でいいならいいけども、妊娠してらしたから、必要かもしれないとユーリが」
「恋人ではありません、私の子でもありません。私の妻はユーリだけです」
離縁など一度も考えたことなどない。子どもは出来なかったが、キリアムのに子どもがいるのだから、継がせるべきであれば、誰かに継がせればいいと思っていた。
「そう、でも少なくともユーリはそう思ったまま、亡くなったわ。もう届くことはない。訂正は二度と出来ない」
これまでのサイラでは考えられない強い口調であった。
「それはそうですが…私が知らないところで起きたことで」
「私に言ってどうするの?あなたの種かそうではないかの違いでしょう?裏切ったことに違いはないのではないかしら?あなたが葬儀に間に合わなくて本当に良かったわ。悲劇の夫?ふざけるな!させるものですか!」
「申し訳ありません…」
正論だ、私の子ではなかっただけで、リリアと関係を持ったことも、押し掛けて来たことも、愛人に子どもが出来たと思わせたことも事実だ。
「恐れながら、旦那様は奥様を大事にされていました」
「アークル、やめなさい」
隅に立っていた執事・アークルが声を上げたが、私は擁護される立場ではない。
「執事さん、あなた、こんなことを言ったことはない?働きに出ずに旦那様は忙しくされているのだから、お支えすればいいのに、と」
「っい、いえ」
「じゃあ、ユーリに子どもがいればと言ったことはない?これで子どもがいれば完璧なのに、と…」
アークルは眉を動かし、言葉に詰まっている様子であった。
「男性は自分で産むわけでもないから、簡単に言うのよ。でも生まれたら、駄目なことは母親のせい、良いことがあれば父親に似たのだと言うの。執事ともなれば、完璧な邸を作ろうとでも思うのでしょうね。旦那様も子どもがいればもっと帰って来られるでしょうになんて、言っていないでしょうね!」
「お前、言ったのか?」
「…」
ユーリに邸で不満や要望はないか問うても、皆さん良くしてくださいます、不満はありませんとしか言わなかった。
私が知る限り、ユーリを訪ねてくることはなく、母娘がどのような関係性だったのか、分からないままだった。
だがいずれは会いに行かなくてはならないと思っていたので、丁度良かった。義父には言いたいことはあるが、義母であれば落ち着いて話が出来るだろう。
「お待たせしました」
「いえ」
「ユーリのことは…」
「ええ、あなたと結婚させるのではなかったと後悔しかありません」
オーランドはサイラに会えば、ユーリは元気かといつも聞かれ、気に掛けていることは理解していたが、夫であるグラーフ伯爵の言いなりのような姿しか見たことがなく、思わず言葉を失った。
「大事にすると言ったくせに、嘘だったのね」
「大事にしておりました」
「嘘はもう結構よ。ユーリから預かった物を渡しに来ただけですから」
「ユーリに?」
「ええ、ユーリを看取ったのは私だけですから。今となってはそれで良かったと思っています。騒がれていたら、迷惑でしかありませんでしたから」
そこまでは聞いていない。皆で看取ったのではないのか、夫人が一人で看取ったというのか。両親にしっかり話を聞くべきだった。
「え…ユーリは、ユーリはなぜ毒を飲んだのですか!」
「全ての果て…じゃないかしら。これを渡すように頼まれました」
サイラはユーリから預かった封筒をオーランドの前に置くと、オーランドは中を慌てた様子で取り出すと、驚愕した。
「どうして…」
「恋人がいらっしゃるんでしょう?死別でいいならいいけども、妊娠してらしたから、必要かもしれないとユーリが」
「恋人ではありません、私の子でもありません。私の妻はユーリだけです」
離縁など一度も考えたことなどない。子どもは出来なかったが、キリアムのに子どもがいるのだから、継がせるべきであれば、誰かに継がせればいいと思っていた。
「そう、でも少なくともユーリはそう思ったまま、亡くなったわ。もう届くことはない。訂正は二度と出来ない」
これまでのサイラでは考えられない強い口調であった。
「それはそうですが…私が知らないところで起きたことで」
「私に言ってどうするの?あなたの種かそうではないかの違いでしょう?裏切ったことに違いはないのではないかしら?あなたが葬儀に間に合わなくて本当に良かったわ。悲劇の夫?ふざけるな!させるものですか!」
「申し訳ありません…」
正論だ、私の子ではなかっただけで、リリアと関係を持ったことも、押し掛けて来たことも、愛人に子どもが出来たと思わせたことも事実だ。
「恐れながら、旦那様は奥様を大事にされていました」
「アークル、やめなさい」
隅に立っていた執事・アークルが声を上げたが、私は擁護される立場ではない。
「執事さん、あなた、こんなことを言ったことはない?働きに出ずに旦那様は忙しくされているのだから、お支えすればいいのに、と」
「っい、いえ」
「じゃあ、ユーリに子どもがいればと言ったことはない?これで子どもがいれば完璧なのに、と…」
アークルは眉を動かし、言葉に詰まっている様子であった。
「男性は自分で産むわけでもないから、簡単に言うのよ。でも生まれたら、駄目なことは母親のせい、良いことがあれば父親に似たのだと言うの。執事ともなれば、完璧な邸を作ろうとでも思うのでしょうね。旦那様も子どもがいればもっと帰って来られるでしょうになんて、言っていないでしょうね!」
「お前、言ったのか?」
「…」
ユーリに邸で不満や要望はないか問うても、皆さん良くしてくださいます、不満はありませんとしか言わなかった。
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