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夫の恋人
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オーランドはもう二度と主が帰って来ないユーリの部屋を開けると、どうしようもないほどの喪失感が襲って来た。
「お荷物などはいかがしますか」
「掃除だけはして、何も動かさずに、そのままにして置いてくれ」
「承知しました」
部屋に入ろうかと思ったが、入ってはならぬ気がして、自室に戻った。
王太子殿下から一週間は休暇を貰っていたため、押し掛けて来た騎士である、リリア・コートに話を付けなくてはならないと思った。執事を呼んで、どこにいるか聞いたか訊ねると衝撃的な出来事が飛び出した。
「実は二日前に奥様が亡くなったとお知りになったようで、再び押し掛けていらっしゃいました」
「はあ?」
「子どもがいる、私が妻になると大騒ぎしましたので、騎士団に連絡をするというと、ようやく帰って行きました」
「愚か者が…迷惑を掛けたな」
「いえ、旦那様の子ではないのですよね?」
「ああ、絶対に違う」
しきりにパースホテルに滞在しているから、オーランドに伝えてと叫んでいたそうなので、翌日、護衛を連れて向かうことにした。
「オーランド!会いたかったわ」
リリアは満面の笑みで、オーランドに抱き着こうとしたが、肩を押されて、遠ざけられ、不思議そうな顔をしたが、すぐに自身の腹を撫で始めた。
「私たちの子がここにいるのよ?ねえ、触ってみて、この子もお父さんに触って貰ったら喜ぶわ」
「話がしたい、座ってくれ」
「勿論よ!奥様、死んだんでしょう?私もようやく離縁したの、だから」
離縁していたのか、リリアは母は幼い頃に亡くし、父も亡くし、継ぐ気はなかったが、弟はまだ十三歳で、親戚に乗っ取られそうになったために、夫とは弟が十八になって、爵位を譲るまでの間の形式だけの結婚で、一緒に暮らしてもおらず、互いに自由で、咎められることはないと話していた。
ただそれもリリアに聞いただけなので、事実かどうかは分からない。
「黙れ!お前が妻のこと口に出すな!」
「えっ、でも」
「その腹の子が私の子だと言ったそうだな」
「そうよ!あなたと私の子どもよ」
「そんなわけないだろう?何ヶ月だ?」
「七ヶ月よ…あの時の皆で演習の際に、泊った時があったじゃない」
確かにリリアに会ったのは、その演習が最後だ。騎士団と他の領地や地方騎士たちの合同演習があり、皆、宿舎やホテルに泊まっていた。
「私はあの日、自邸に帰っている。お前を抱いてはいない」
「そんなはずないわ」
「もし私との子であれば、既に産まれていないとおかしい」
オーランドがリリアと関係を持ったのは、二年以上前である。万が一、オーランドの子であったとするならば、既に産まれていないとおかしい。相手がリリアだと分かった時に、自分の子ではないと確信があった。
「そんなはずないわ」
「それはこちらの台詞だ、何の目的だ?妻を貶めたかったとでも言うのか!」
実際に妊娠しており、絶対に私の子ではないのに、目的が分からない。私がいないのをいいことに、はったりでユーリを追い出そうとしたとでもいうのか。
「ち、違うわ…でも本当にあなたの子なの」
「生まれてみれば分かるさ、私の子ではない」
「そんな…」
「どうせ、酔っていたんだろう?」
「でも、オーランドだって…そう思って」
本当に私と間違えたというのか、まさかキリアム?いや、キリアムは演習に参加していない。別の騎士の方が可能性が高い。
「本当に違うの?じゃあ、誰の子なの…」
「知らない、だが妻に言ったこと、虚偽を触れ回ったことは責任を取って貰う」
「私はどうすればいいの…」
「産まなくてはならないだろう。処罰は出産後にしてやる。いいな?」
「嘘、嘘よ…」
リリアの弟に連絡を入れて、引き取りに来てもらい、出産まで出来る医院に入院したそうだ。弟も騎士も辞めて行方が分からなかったらしい。
「お荷物などはいかがしますか」
「掃除だけはして、何も動かさずに、そのままにして置いてくれ」
「承知しました」
部屋に入ろうかと思ったが、入ってはならぬ気がして、自室に戻った。
王太子殿下から一週間は休暇を貰っていたため、押し掛けて来た騎士である、リリア・コートに話を付けなくてはならないと思った。執事を呼んで、どこにいるか聞いたか訊ねると衝撃的な出来事が飛び出した。
「実は二日前に奥様が亡くなったとお知りになったようで、再び押し掛けていらっしゃいました」
「はあ?」
「子どもがいる、私が妻になると大騒ぎしましたので、騎士団に連絡をするというと、ようやく帰って行きました」
「愚か者が…迷惑を掛けたな」
「いえ、旦那様の子ではないのですよね?」
「ああ、絶対に違う」
しきりにパースホテルに滞在しているから、オーランドに伝えてと叫んでいたそうなので、翌日、護衛を連れて向かうことにした。
「オーランド!会いたかったわ」
リリアは満面の笑みで、オーランドに抱き着こうとしたが、肩を押されて、遠ざけられ、不思議そうな顔をしたが、すぐに自身の腹を撫で始めた。
「私たちの子がここにいるのよ?ねえ、触ってみて、この子もお父さんに触って貰ったら喜ぶわ」
「話がしたい、座ってくれ」
「勿論よ!奥様、死んだんでしょう?私もようやく離縁したの、だから」
離縁していたのか、リリアは母は幼い頃に亡くし、父も亡くし、継ぐ気はなかったが、弟はまだ十三歳で、親戚に乗っ取られそうになったために、夫とは弟が十八になって、爵位を譲るまでの間の形式だけの結婚で、一緒に暮らしてもおらず、互いに自由で、咎められることはないと話していた。
ただそれもリリアに聞いただけなので、事実かどうかは分からない。
「黙れ!お前が妻のこと口に出すな!」
「えっ、でも」
「その腹の子が私の子だと言ったそうだな」
「そうよ!あなたと私の子どもよ」
「そんなわけないだろう?何ヶ月だ?」
「七ヶ月よ…あの時の皆で演習の際に、泊った時があったじゃない」
確かにリリアに会ったのは、その演習が最後だ。騎士団と他の領地や地方騎士たちの合同演習があり、皆、宿舎やホテルに泊まっていた。
「私はあの日、自邸に帰っている。お前を抱いてはいない」
「そんなはずないわ」
「もし私との子であれば、既に産まれていないとおかしい」
オーランドがリリアと関係を持ったのは、二年以上前である。万が一、オーランドの子であったとするならば、既に産まれていないとおかしい。相手がリリアだと分かった時に、自分の子ではないと確信があった。
「そんなはずないわ」
「それはこちらの台詞だ、何の目的だ?妻を貶めたかったとでも言うのか!」
実際に妊娠しており、絶対に私の子ではないのに、目的が分からない。私がいないのをいいことに、はったりでユーリを追い出そうとしたとでもいうのか。
「ち、違うわ…でも本当にあなたの子なの」
「生まれてみれば分かるさ、私の子ではない」
「そんな…」
「どうせ、酔っていたんだろう?」
「でも、オーランドだって…そう思って」
本当に私と間違えたというのか、まさかキリアム?いや、キリアムは演習に参加していない。別の騎士の方が可能性が高い。
「本当に違うの?じゃあ、誰の子なの…」
「知らない、だが妻に言ったこと、虚偽を触れ回ったことは責任を取って貰う」
「私はどうすればいいの…」
「産まなくてはならないだろう。処罰は出産後にしてやる。いいな?」
「嘘、嘘よ…」
リリアの弟に連絡を入れて、引き取りに来てもらい、出産まで出来る医院に入院したそうだ。弟も騎士も辞めて行方が分からなかったらしい。
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