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私の葬儀
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翌日のユーリ・クレナの葬儀は、今にも雨が降りそうなどんよりとした空の中で、一滴も雨が降らないまま終わった。
途中でラオン大公もやって来て、献花だけで帰られたが、関係性を考えるとギリギリなところだろう。サイラは深く頭を下げた。
サイラは棺を見る度に、ホテルに出発する前にユーリが責任を取って来ると言った時の顔が、何度も浮かんでは胸を締め付けた。あの瞬間には、きっとユーリは覚悟をしていたのだ。
ラオン大公が子どものやったことだからと、笑って許してくれていたら、ユーリは生きていたと思わなかったと言えば嘘になるが、相手は大公家。大公様にも立場も、矜持がおありになるはずだ。
さすがに教会に運ぶ際に、ようやくユーリが亡くなったと気付いたルオンと、妻・マリリアも参列しており、夫であるオーランド、姉であるメルベール、義兄であるキリアムはいない。
アベリーは最初は座っていたが、大人しく出来ず、楽しくない、お菓子食べたいと喚き出したので、侯爵家の使用人に任せて邸に戻した。
ユーリがお世話になっていたと言っていた、クレア伯爵夫人は憔悴した様子で、歩くこともままならず、夫に支えられ、姉であるニーナ・シュアト公爵夫人と一緒に訪れ、顔を見た瞬間に二人は堪え切れず、大粒の涙を流した。
化粧を施しはしたが、黒い斑点はうっすらと見えており、怪訝な顔をする者もいる中、二人は躊躇いなく、むしろ愛おしそうにユーリの頬や髪を撫でており、周りは不思議そうな顔をしていた。
サイラだけはユーリは二人にきっと大事にしていただいていたのだと、こちらを見てもいないが、再び深く頭を下げた。
葬儀を終えると、ユーリは埋葬されることになり、クレア夫人が棺にリボンを入れて貰えないかと持って来られた。
「誕生日に、渡そうと、思っていたのだけど…一緒に入れて貰えないかしら」
ユーリの二十五歳の誕生日は二週間後だった。リボンは白地にミモザの刺繍のあしらわれた、可愛らしい品であった。
「…あ、ありが、とうござい…ます。ユーリはミモザが好きでしたから」
「そう思って買ってあったの…付けてあげてもいいかしら」
「はい…もちろんです。ありがとうござい、ます…ううっ」
サイラはユーリへの優しさに涙を堪えられず、ハンカチでは押さえきれないほどの涙が零れていた。アレクスもニーナ夫人がクレア夫人を庇うように、睨みを利かせていたため、何も言うことはなかった。
「よく、似合っているわ」
「ありがどうございます。よろごんでいると、おもいます…」
横に束ねた髪に付けられたミモザのリボンは、新たな旅立ちの装いの様に、キラキラと輝いて見えた。
そして、ユーリ・クレナは、家族に見守られながら、静かに埋葬された。
レイア夫人は葬儀の手伝いもしなかったのにも関わらず、せめてオーランドが戻るまで待って欲しいと言い出した。
「早く安心できる場所に帰したいのです。ユーリはオーランドくんを待ってはおりません」
「そんなことないわ!最期に顔を見ないなんて」
「そういう運命だったのでしょう、キリアムくんとメルベールからも返事すらありません」
慌てて戻っているとしても、戻っているという連絡くらいするべきではないかと思うほど、三人から連絡は全くなかった。
「今、戻っているのよ。キリアムだって元々明日には戻る予定なのよ」
「いいえ、オーランドくんは恋人がいるのに、今さら悲劇の夫のように振舞われても困ります」
「っな」
「そうではありませんか、レイア夫人だったら、愛人を孕ませた夫を待ちますか?」
「ーっ」
そう言うとさすがに黙り、埋葬に同意した。
クレナ伯爵家の執事により、二週間前くらいにお腹の膨らんだ、恋人だと名乗る女性がやって来たことは事実だと分かっていた。ユーリはオーランドに言ってください、離縁を望まれるなら受け入れますからと、その恋人を追い返したという。
オーランドはそれから戻ってはいないため、確認は出来ていないが、レイア夫人もオーランドの女性関係を知っているので、違うとは言い切れない。
途中でラオン大公もやって来て、献花だけで帰られたが、関係性を考えるとギリギリなところだろう。サイラは深く頭を下げた。
サイラは棺を見る度に、ホテルに出発する前にユーリが責任を取って来ると言った時の顔が、何度も浮かんでは胸を締め付けた。あの瞬間には、きっとユーリは覚悟をしていたのだ。
ラオン大公が子どものやったことだからと、笑って許してくれていたら、ユーリは生きていたと思わなかったと言えば嘘になるが、相手は大公家。大公様にも立場も、矜持がおありになるはずだ。
さすがに教会に運ぶ際に、ようやくユーリが亡くなったと気付いたルオンと、妻・マリリアも参列しており、夫であるオーランド、姉であるメルベール、義兄であるキリアムはいない。
アベリーは最初は座っていたが、大人しく出来ず、楽しくない、お菓子食べたいと喚き出したので、侯爵家の使用人に任せて邸に戻した。
ユーリがお世話になっていたと言っていた、クレア伯爵夫人は憔悴した様子で、歩くこともままならず、夫に支えられ、姉であるニーナ・シュアト公爵夫人と一緒に訪れ、顔を見た瞬間に二人は堪え切れず、大粒の涙を流した。
化粧を施しはしたが、黒い斑点はうっすらと見えており、怪訝な顔をする者もいる中、二人は躊躇いなく、むしろ愛おしそうにユーリの頬や髪を撫でており、周りは不思議そうな顔をしていた。
サイラだけはユーリは二人にきっと大事にしていただいていたのだと、こちらを見てもいないが、再び深く頭を下げた。
葬儀を終えると、ユーリは埋葬されることになり、クレア夫人が棺にリボンを入れて貰えないかと持って来られた。
「誕生日に、渡そうと、思っていたのだけど…一緒に入れて貰えないかしら」
ユーリの二十五歳の誕生日は二週間後だった。リボンは白地にミモザの刺繍のあしらわれた、可愛らしい品であった。
「…あ、ありが、とうござい…ます。ユーリはミモザが好きでしたから」
「そう思って買ってあったの…付けてあげてもいいかしら」
「はい…もちろんです。ありがとうござい、ます…ううっ」
サイラはユーリへの優しさに涙を堪えられず、ハンカチでは押さえきれないほどの涙が零れていた。アレクスもニーナ夫人がクレア夫人を庇うように、睨みを利かせていたため、何も言うことはなかった。
「よく、似合っているわ」
「ありがどうございます。よろごんでいると、おもいます…」
横に束ねた髪に付けられたミモザのリボンは、新たな旅立ちの装いの様に、キラキラと輝いて見えた。
そして、ユーリ・クレナは、家族に見守られながら、静かに埋葬された。
レイア夫人は葬儀の手伝いもしなかったのにも関わらず、せめてオーランドが戻るまで待って欲しいと言い出した。
「早く安心できる場所に帰したいのです。ユーリはオーランドくんを待ってはおりません」
「そんなことないわ!最期に顔を見ないなんて」
「そういう運命だったのでしょう、キリアムくんとメルベールからも返事すらありません」
慌てて戻っているとしても、戻っているという連絡くらいするべきではないかと思うほど、三人から連絡は全くなかった。
「今、戻っているのよ。キリアムだって元々明日には戻る予定なのよ」
「いいえ、オーランドくんは恋人がいるのに、今さら悲劇の夫のように振舞われても困ります」
「っな」
「そうではありませんか、レイア夫人だったら、愛人を孕ませた夫を待ちますか?」
「ーっ」
そう言うとさすがに黙り、埋葬に同意した。
クレナ伯爵家の執事により、二週間前くらいにお腹の膨らんだ、恋人だと名乗る女性がやって来たことは事実だと分かっていた。ユーリはオーランドに言ってください、離縁を望まれるなら受け入れますからと、その恋人を追い返したという。
オーランドはそれから戻ってはいないため、確認は出来ていないが、レイア夫人もオーランドの女性関係を知っているので、違うとは言い切れない。
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