上 下
15 / 118

何も知らなかった義父

しおりを挟む
「あなた、大変なことになったわ」

 レイア夫人は戻って、手の空いている者はグラーフ伯爵家に行くようにい、クレナ伯爵家にも知らせるように告げた。マトム・トスター侯爵にサイラからの話を伝えると、何だと、ふざけるなと怒りながらも、絶望するしかなかった。

「どうして、ユーリが…アベリーも、オーランドも何をやっているんだ!」
「オーランドに頼んで、口添えして貰うしかないと思ったのだけど」
「王家には知らせる。愛人がいようが、妻が亡くなったんだ」

 オーランドが学生時代に、来るもの拒まずで、情報のためでもあったと言いながら、多数の女性と関係を持っていたのは知っている。だが、結婚してからも、ましてや妊娠させていたなどとは思わなかった。

 妊娠していると言ったことから、おそらくユーリに会ったのだろう。探して、妊娠が本当なら、確かめなくてはならない。

「そ、そうね」
「大公家のお孫さんと言えば、アンジュリー様だろう。男の子ばかりで、国王陛下も大層可愛がってらっしゃると聞く。万が一、酷い後遺症となれば…」

 いくら子どものやったことでも、侯爵家で責任を取れるものではない。ユーリはメルベールより賢く、本音は隠しているはずだ。だが、命をこんなにも簡単に投げ出すとは、何か理由があるのではないか。

「ユーリは自分の娘でもないのに…」
「双子だから、特別に思っていたんじゃない?」
「だが、オーランドがキリアムの子どもために死ぬか?」
「あの二人は仲が良いから」
「本当にそうか?子どもの頃だけじゃないか?」
「でもユーリが休みだからって、会いに行ったりしていたわ」
「…もしかしたら、ユーリは過剰な責任を取ることで、国への被害を少なくしようとしたのか、もしれない…」

 王太子殿下の側近の妻である立場なら、そう考えてもおかしくない。だが、もうユーリに聞くことは出来ない。

「…そんな」
「夫人は他に何か言っていなかったか?」
「教会にユーリを移すから、忙しいとあまり話せなかったから」
「そうだな…」
「伯爵が昨日の内にすぐに説明してくれていたら…」
「あれは、小心者だから、大公家を恐れたんだろうな」

 家族には偉そうにしているが、小心者だからこそだ。理不尽な理由でユーリに謝罪に行かせたのが、あからさまに物語っている。

「謝罪の仕方を間違えれば、折角のお膳立てが台無しになる。キリアムとメルベールはいつ戻る?」
「予定では明後日ですが、早文が届けば、急いで戻るでしょう」
「一緒に行った方がいいが、先に行くべきか…いや、すぐに謝罪に行こう。後からまた一緒に行けばいい」
「そうね、まずはトスター侯爵家として一切謝罪をしていないもの」

 二人は王家にオーランドの妻が亡くなったこと、孫が大公家の孫に怪我をさせたことの責任を取って、毒を飲んだことを記し、先触れを出して、謝罪に向かった。とにかく、謝罪の気持ちを伝えなくてはならない。

「この度は申し訳ございませんでした。お孫様の具合はいかがでしょうか」
「遅かったですね、孫は様子を見ています」

 対応したのは大公だけであったが、夫妻は詳しい事情を知らない。

「申し訳ありません」
「まあ、事情は伺っていますが…何をしに来たのです?」
「謝罪に伺わせていただきました」
「すぐに知らされていれば、すぐに駆け付けておりました」
「…両親は?」
「領地まで距離がありまして、まだ連絡もなく、戻っておりませんので、一緒には来れませんでした」
「そうですか、今日のところはお帰りください。両親が戻ってから、話しましょう。明日は葬儀でしょう。丁重に弔ってあげなさい」
「…はい」「はい」

 夫妻は怒鳴りつけられ、どう責任を取るのかと詰められる覚悟だったため、拍子抜けし、とりあえずは謝ったからと安堵した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢の立場を捨てたお姫様

羽衣 狐火
恋愛
公爵令嬢は暇なんてないわ 舞踏会 お茶会 正妃になるための勉強 …何もかもうんざりですわ!もう公爵令嬢の立場なんか捨ててやる! 王子なんか知りませんわ! 田舎でのんびり暮らします!

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った

冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。 「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。 ※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

お姉様のお下がりはもう結構です。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。 慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。 「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」 ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。 幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。 「お姉様、これはあんまりです!」 「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」 ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。 しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。 「お前には従うが、心まで許すつもりはない」 しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。 だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……? 表紙:ノーコピーライトガール様より

あなたの子ではありません。

沙耶
恋愛
公爵令嬢アナスタシアは王太子セドリックと結婚したが、彼に愛人がいることを初夜に知ってしまう。 セドリックを愛していたアナスタシアは衝撃を受けるが、セドリックはアナスタシアにさらに追い打ちをかけた。 「子は要らない」 そう話したセドリックは避妊薬を飲みアナスタシアとの初夜を終えた。 それ以降、彼は愛人と過ごしておりアナスタシアのところには一切来ない。 そのまま二年の時が過ぎ、セドリックと愛人の間に子供が出来たと伝えられたアナスタシアは、子も産めない私はいつまで王太子妃としているのだろうと考え始めた。 離縁を決意したアナスタシアはセドリックに伝えるが、何故か怒ったセドリックにアナスタシアは無理矢理抱かれてしまう。 しかし翌日、離縁は成立された。 アナスタシアは離縁後母方の領地で静かに過ごしていたが、しばらくして妊娠が発覚する。 セドリックと過ごした、あの夜の子だった。

殿下の御心のままに。

cyaru
恋愛
王太子アルフレッドは呟くようにアンカソン公爵家の令嬢ツェツィーリアに告げた。 アルフレッドの側近カレドウス(宰相子息)が婚姻の礼を目前に令嬢側から婚約破棄されてしまった。 「運命の出会い」をしたという平民女性に傾倒した挙句、子を成したという。 激怒した宰相はカレドウスを廃嫡。だがカレドウスは「幸せだ」と言った。 身分を棄てることも厭わないと思えるほどの激情はアルフレッドは経験した事がなかった。 その日からアルフレッドは思う事があったのだと告げた。 「恋をしてみたい。運命の出会いと言うのは生涯に一度あるかないかと聞く。だから――」 ツェツィーリアは一瞬、貴族の仮面が取れた。しかし直ぐに微笑んだ。 ※後半は騎士がデレますがイラっとする展開もあります。 ※シリアスな話っぽいですが気のせいです。 ※エグくてゲロいざまぁはないと思いますが作者判断ですのでご留意ください  (基本血は出ないと思いますが鼻血は出るかも知れません) ※作者の勝手な設定の為こうではないか、あぁではないかと言う一般的な物とは似て非なると考えて下さい ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※作者都合のご都合主義、創作の話です。至って真面目に書いています。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...