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何も知らなかった義父
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「あなた、大変なことになったわ」
レイア夫人は戻って、手の空いている者はグラーフ伯爵家に行くようにい、クレナ伯爵家にも知らせるように告げた。マトム・トスター侯爵にサイラからの話を伝えると、何だと、ふざけるなと怒りながらも、絶望するしかなかった。
「どうして、ユーリが…アベリーも、オーランドも何をやっているんだ!」
「オーランドに頼んで、口添えして貰うしかないと思ったのだけど」
「王家には知らせる。愛人がいようが、妻が亡くなったんだ」
オーランドが学生時代に、来るもの拒まずで、情報のためでもあったと言いながら、多数の女性と関係を持っていたのは知っている。だが、結婚してからも、ましてや妊娠させていたなどとは思わなかった。
妊娠していると言ったことから、おそらくユーリに会ったのだろう。探して、妊娠が本当なら、確かめなくてはならない。
「そ、そうね」
「大公家のお孫さんと言えば、アンジュリー様だろう。男の子ばかりで、国王陛下も大層可愛がってらっしゃると聞く。万が一、酷い後遺症となれば…」
いくら子どものやったことでも、侯爵家で責任を取れるものではない。ユーリはメルベールより賢く、本音は隠しているはずだ。だが、命をこんなにも簡単に投げ出すとは、何か理由があるのではないか。
「ユーリは自分の娘でもないのに…」
「双子だから、特別に思っていたんじゃない?」
「だが、オーランドがキリアムの子どもために死ぬか?」
「あの二人は仲が良いから」
「本当にそうか?子どもの頃だけじゃないか?」
「でもユーリが休みだからって、会いに行ったりしていたわ」
「…もしかしたら、ユーリは過剰な責任を取ることで、国への被害を少なくしようとしたのか、もしれない…」
王太子殿下の側近の妻である立場なら、そう考えてもおかしくない。だが、もうユーリに聞くことは出来ない。
「…そんな」
「夫人は他に何か言っていなかったか?」
「教会にユーリを移すから、忙しいとあまり話せなかったから」
「そうだな…」
「伯爵が昨日の内にすぐに説明してくれていたら…」
「あれは、小心者だから、大公家を恐れたんだろうな」
家族には偉そうにしているが、小心者だからこそだ。理不尽な理由でユーリに謝罪に行かせたのが、あからさまに物語っている。
「謝罪の仕方を間違えれば、折角のお膳立てが台無しになる。キリアムとメルベールはいつ戻る?」
「予定では明後日ですが、早文が届けば、急いで戻るでしょう」
「一緒に行った方がいいが、先に行くべきか…いや、すぐに謝罪に行こう。後からまた一緒に行けばいい」
「そうね、まずはトスター侯爵家として一切謝罪をしていないもの」
二人は王家にオーランドの妻が亡くなったこと、孫が大公家の孫に怪我をさせたことの責任を取って、毒を飲んだことを記し、先触れを出して、謝罪に向かった。とにかく、謝罪の気持ちを伝えなくてはならない。
「この度は申し訳ございませんでした。お孫様の具合はいかがでしょうか」
「遅かったですね、孫は様子を見ています」
対応したのは大公だけであったが、夫妻は詳しい事情を知らない。
「申し訳ありません」
「まあ、事情は伺っていますが…何をしに来たのです?」
「謝罪に伺わせていただきました」
「すぐに知らされていれば、すぐに駆け付けておりました」
「…両親は?」
「領地まで距離がありまして、まだ連絡もなく、戻っておりませんので、一緒には来れませんでした」
「そうですか、今日のところはお帰りください。両親が戻ってから、話しましょう。明日は葬儀でしょう。丁重に弔ってあげなさい」
「…はい」「はい」
夫妻は怒鳴りつけられ、どう責任を取るのかと詰められる覚悟だったため、拍子抜けし、とりあえずは謝ったからと安堵した。
レイア夫人は戻って、手の空いている者はグラーフ伯爵家に行くようにい、クレナ伯爵家にも知らせるように告げた。マトム・トスター侯爵にサイラからの話を伝えると、何だと、ふざけるなと怒りながらも、絶望するしかなかった。
「どうして、ユーリが…アベリーも、オーランドも何をやっているんだ!」
「オーランドに頼んで、口添えして貰うしかないと思ったのだけど」
「王家には知らせる。愛人がいようが、妻が亡くなったんだ」
オーランドが学生時代に、来るもの拒まずで、情報のためでもあったと言いながら、多数の女性と関係を持っていたのは知っている。だが、結婚してからも、ましてや妊娠させていたなどとは思わなかった。
妊娠していると言ったことから、おそらくユーリに会ったのだろう。探して、妊娠が本当なら、確かめなくてはならない。
「そ、そうね」
「大公家のお孫さんと言えば、アンジュリー様だろう。男の子ばかりで、国王陛下も大層可愛がってらっしゃると聞く。万が一、酷い後遺症となれば…」
いくら子どものやったことでも、侯爵家で責任を取れるものではない。ユーリはメルベールより賢く、本音は隠しているはずだ。だが、命をこんなにも簡単に投げ出すとは、何か理由があるのではないか。
「ユーリは自分の娘でもないのに…」
「双子だから、特別に思っていたんじゃない?」
「だが、オーランドがキリアムの子どもために死ぬか?」
「あの二人は仲が良いから」
「本当にそうか?子どもの頃だけじゃないか?」
「でもユーリが休みだからって、会いに行ったりしていたわ」
「…もしかしたら、ユーリは過剰な責任を取ることで、国への被害を少なくしようとしたのか、もしれない…」
王太子殿下の側近の妻である立場なら、そう考えてもおかしくない。だが、もうユーリに聞くことは出来ない。
「…そんな」
「夫人は他に何か言っていなかったか?」
「教会にユーリを移すから、忙しいとあまり話せなかったから」
「そうだな…」
「伯爵が昨日の内にすぐに説明してくれていたら…」
「あれは、小心者だから、大公家を恐れたんだろうな」
家族には偉そうにしているが、小心者だからこそだ。理不尽な理由でユーリに謝罪に行かせたのが、あからさまに物語っている。
「謝罪の仕方を間違えれば、折角のお膳立てが台無しになる。キリアムとメルベールはいつ戻る?」
「予定では明後日ですが、早文が届けば、急いで戻るでしょう」
「一緒に行った方がいいが、先に行くべきか…いや、すぐに謝罪に行こう。後からまた一緒に行けばいい」
「そうね、まずはトスター侯爵家として一切謝罪をしていないもの」
二人は王家にオーランドの妻が亡くなったこと、孫が大公家の孫に怪我をさせたことの責任を取って、毒を飲んだことを記し、先触れを出して、謝罪に向かった。とにかく、謝罪の気持ちを伝えなくてはならない。
「この度は申し訳ございませんでした。お孫様の具合はいかがでしょうか」
「遅かったですね、孫は様子を見ています」
対応したのは大公だけであったが、夫妻は詳しい事情を知らない。
「申し訳ありません」
「まあ、事情は伺っていますが…何をしに来たのです?」
「謝罪に伺わせていただきました」
「すぐに知らされていれば、すぐに駆け付けておりました」
「…両親は?」
「領地まで距離がありまして、まだ連絡もなく、戻っておりませんので、一緒には来れませんでした」
「そうですか、今日のところはお帰りください。両親が戻ってから、話しましょう。明日は葬儀でしょう。丁重に弔ってあげなさい」
「…はい」「はい」
夫妻は怒鳴りつけられ、どう責任を取るのかと詰められる覚悟だったため、拍子抜けし、とりあえずは謝ったからと安堵した。
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