上 下
13 / 118

守ると決めた母

しおりを挟む
「ふっ、ふざけるな!なぜ私がユーリの責任などを取らぬとならない」
「どちらがふざけているのですか!あなたはユーリに責任を押し付けたのです!責任は取って貰いますからね!」
「ふん、私に責任などない」
「どちらにせよ、あなたの可愛いアベリーとメルベールがは、間違いなく責任を取ることになるでしょうね」

 夫・アレクスが可愛がっていたアベリーとメルベールはこれからこの件で、どのような形になるかは分からないが、責任からは逃れることは出来ない。

「っな、もうユーリが取ったではないか」
「それだけで足りるならばいいですね?それで、侯爵家はどうおっしゃっていましたか?邸で相談でもされているのかしら」
「…まだ言っていない」
「はあ?言ったではありませんか、あなたはアベリーを連れて、侯爵家に説明に行くようにと。何をしていたのですか!大公様が来られたらどうするのですか!」

 戻ったユーリの事情を聞き、部屋に駆け付ける前に、トスター侯爵家にはきちんと説明に行くように伝えてあったはずだ。部屋にアベリーがやって来たが、まだ準備しているだけかと思っていたのに、言っていなかったなんて。

「私はお迎えするために部屋を片付けますから、あなたは早く説明に行ってください。引き延ばせば延ばすほど、立場が悪くなるだけですよ!さあ!」
「…だが、何と言えば」
「事実を伝えればいいのです。大公様もご存知なのですから」

 嘘を付いても、大公様があの場にいた者に確認を取っていないはずがない。事実を伝えればいいだけだが、その事実が自身のせいにされるのが嫌で、話に行きたくないのだ。どうにか逃げられないかばかり考えていたのだろう、本当に情けない人だ。

「だが、大公様が許すと言ってくだされば、知らせなくてもいいのではないか?アベリーも反省しているんだ」
「私に言われても困ります!決めるのは侯爵家と、大公様です。私は片付けますから、早く侯爵家に行ってください」

 行きたくないのならいい、もう放って置こう。どうせ後から何倍にもなって責められてしまえばいい。

 サイラは夫を無視し、物置と化していたユーリの部屋を窓を開け、部屋に置いてあった物を物置に移した。何かが起きていると感じていた使用人が手伝うと言ったが、サイラはひとりでやりますからと、拒否した。

 亡くなっているとしても、絶対にユーリを何者からも守ると決めたのだ。

 そして、邸の前に馬車が止まり、お付きの人が開けて、降りて来たのは大公本人であった。グラーフ伯爵は慌てて、駆け寄った。

「大公様っ!この度は、」
「結構。使いではなく、私がこの目で確かめに来た。いいな?後ろのは専属医だ」
「は、い」

 サイラは、母のサイラと申します、ご案内しますとユーリの部屋に連れて行った。ベットに寝かされているユーリは、既に青白く、毒の影響か、黒い斑模様が顔に出ており、おそらく身体にも出ていると思われる。

 侍医は、腕と首の脈を確認し、最後に瞳孔を確認した。

「どうだ?」
「間違いなく、亡くなっておられます」
「…そうか」
「お孫様の様子はいかがでしょうか」
「ああ、再び目を覚まして、今は様子を見ている」
「さようでございますか、大変申し訳ございませんでした」

 良かったなどと口には出来ない、後は夫と侯爵家に任せるしかない。だってもうユーリは亡くなってしまったのだから。

「孫・アベリーの両親は戻り次第、すぐに先触れを出させていただきます」
「ああ、分かった」
「っな、お前に勝手に」
「何だ?」
「いっ、いえ」

 大公に睨まれたアレクスは、身体を強張らせて黙った。侯爵家の人が来てもいないということは、まだ知らせていないのだろう。愚か過ぎて吐き気がする。

「娘は肝の据わった者だったのに、父親と孫はクソだな。私の使用人を置いていく。きちんと葬儀をしてやれ」
「はい…ありがとうございます」

 サイラは大公に向かって、深く頭を下げて、涙を流した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

ゼラニウムの花束をあなたに

ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

無価値な私はいらないでしょう?

火野村志紀
恋愛
いっそのこと、手放してくださった方が楽でした。 だから、私から離れようと思うのです。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

処理中です...