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決められた新婚生活
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ユーリはクレナ伯爵邸に住まいを移し、医院に薬師として働きに出るようになり、最初は憶えることで精一杯であったが、かけがえのない居場所となっていった。
医院には医師と薬師がおり、医師が患者を診て治療し、薬師が医師の補助や調剤や調合を行う。
貴族夫人でも下位貴族は特に働きに出る者は多く、伯爵家以上でも王宮に出仕したり、家庭教師や自身で事業を行ったりと、貧しい貧しくないに関わらず、珍しい存在ではない。ユーリが働く医院にも貴族夫人や令嬢もおり、平民もいる。
だが、面白くない人もいれば、結婚相手が見付かるまでという若い女性もいる。
「わざわざ新婚の伯爵夫人が働きに出なくても」
「相手にされていなくて寂しいんじゃない」
「私だったら絶対働かないわ、邸で優雅に過ごせるのに嫌味なのかしら」
「だから相手にされていないんだって。働いているから、仕方ないんですよっていう理由付けよ。双子同士で面白いからって、結婚させたって噂だもの」
「ええ!そんなことで?でも片方は元々恋人同士だったんでしょう?おこぼれ貰ったにしては、いい相手よね。片方に感謝しなきゃよね」
名前を言えば、結婚相手が分かるため、陰口に言われていることもあったが、メルベールからオーランドに代わっただけで、陰口には慣れていたので、いつものこと。気付かないようにすればいい。
任された邸のことも、執事が取り仕切っており、妻など必要ないのではないかと思うほどであった。新婚でもオーランドは忙しく、長い期間帰って来ないこともあり、ゆっくり邸にいることはなかった。
「仕事はどうだ?」
「はい、随分慣れてきました」
「そうか、無理はするなと言いたいが、大事な仕事だものな」
「はい、そうですね。慣れ切ってしまわぬ方がいいと指導されました」
「緊張感がある方がいい職場かもしれないな」
たまに一緒に食事をして、話をして、閨を行う、そんな関係であった。
メルベールとキリアムとは違って、こちらは政略結婚と言ってもいい。父の様に当たって来る人もいなければ、使用人も弁えた人たちばかりで、穏やかな日々を過ごすことが出来ていた。
ただ一点、メルベールは休みの日に必ずと言っていいほどやって来る。
「オーランド様はあまり帰って来ないの?」
「お忙しいみたいよ」
「そうなのね、ユーリは寂しくない?大丈夫?」
「ええ、良くして貰っているから心配しないで」
「良かった、やっぱりオーランド様と結婚して正解だったでしょう?こんな邸になかなか住めないわよ」
クレナ伯爵邸のなった邸は大豪邸とまではいかないが、ある高位貴族が住む人がいないからと手放した別邸で、比較的新しく、外装はそのままだが、内装は新しくなっており、実家やトスター侯爵家よりも美しい邸である。
「そうね、いい邸だと思うわ」
「家族もいないから寂しいのではないかと思ったけど、あれこれ言う人がいない方がユーリにはいい環境かもしれないわね。私なんて怒られてばっかりなんだから」
「不満があるの?」
「そうじゃないわ、いずれ侯爵夫人になるんだからって、教えて貰っているだけよ」
「そう…」
メルベールが不満を漏らすことは降りかかってくる恐れがある。いくら別の家とは言っても、元は同じ家、義両親には定期的に顔を出すようにはしているが、実家には結婚してから行ったことはない。
「本当にオーランド様に娶って貰って良かった、あの男だったら、こんな暮らしは出来なかったのよ」
ミランス様のことは考えないようにしていたが、似たような背格好の騎士服を見ると、どうしても目で追ってしまっていた。
他の誰かにあの温かい笑顔を向け、大切な家族が出来る姿を想像するだけで、胸が焼けるほど苦しかった。
私にはそんな資格はもうない、でも愚かな私は考えてしまうのだ。
医院には医師と薬師がおり、医師が患者を診て治療し、薬師が医師の補助や調剤や調合を行う。
貴族夫人でも下位貴族は特に働きに出る者は多く、伯爵家以上でも王宮に出仕したり、家庭教師や自身で事業を行ったりと、貧しい貧しくないに関わらず、珍しい存在ではない。ユーリが働く医院にも貴族夫人や令嬢もおり、平民もいる。
だが、面白くない人もいれば、結婚相手が見付かるまでという若い女性もいる。
「わざわざ新婚の伯爵夫人が働きに出なくても」
「相手にされていなくて寂しいんじゃない」
「私だったら絶対働かないわ、邸で優雅に過ごせるのに嫌味なのかしら」
「だから相手にされていないんだって。働いているから、仕方ないんですよっていう理由付けよ。双子同士で面白いからって、結婚させたって噂だもの」
「ええ!そんなことで?でも片方は元々恋人同士だったんでしょう?おこぼれ貰ったにしては、いい相手よね。片方に感謝しなきゃよね」
名前を言えば、結婚相手が分かるため、陰口に言われていることもあったが、メルベールからオーランドに代わっただけで、陰口には慣れていたので、いつものこと。気付かないようにすればいい。
任された邸のことも、執事が取り仕切っており、妻など必要ないのではないかと思うほどであった。新婚でもオーランドは忙しく、長い期間帰って来ないこともあり、ゆっくり邸にいることはなかった。
「仕事はどうだ?」
「はい、随分慣れてきました」
「そうか、無理はするなと言いたいが、大事な仕事だものな」
「はい、そうですね。慣れ切ってしまわぬ方がいいと指導されました」
「緊張感がある方がいい職場かもしれないな」
たまに一緒に食事をして、話をして、閨を行う、そんな関係であった。
メルベールとキリアムとは違って、こちらは政略結婚と言ってもいい。父の様に当たって来る人もいなければ、使用人も弁えた人たちばかりで、穏やかな日々を過ごすことが出来ていた。
ただ一点、メルベールは休みの日に必ずと言っていいほどやって来る。
「オーランド様はあまり帰って来ないの?」
「お忙しいみたいよ」
「そうなのね、ユーリは寂しくない?大丈夫?」
「ええ、良くして貰っているから心配しないで」
「良かった、やっぱりオーランド様と結婚して正解だったでしょう?こんな邸になかなか住めないわよ」
クレナ伯爵邸のなった邸は大豪邸とまではいかないが、ある高位貴族が住む人がいないからと手放した別邸で、比較的新しく、外装はそのままだが、内装は新しくなっており、実家やトスター侯爵家よりも美しい邸である。
「そうね、いい邸だと思うわ」
「家族もいないから寂しいのではないかと思ったけど、あれこれ言う人がいない方がユーリにはいい環境かもしれないわね。私なんて怒られてばっかりなんだから」
「不満があるの?」
「そうじゃないわ、いずれ侯爵夫人になるんだからって、教えて貰っているだけよ」
「そう…」
メルベールが不満を漏らすことは降りかかってくる恐れがある。いくら別の家とは言っても、元は同じ家、義両親には定期的に顔を出すようにはしているが、実家には結婚してから行ったことはない。
「本当にオーランド様に娶って貰って良かった、あの男だったら、こんな暮らしは出来なかったのよ」
ミランス様のことは考えないようにしていたが、似たような背格好の騎士服を見ると、どうしても目で追ってしまっていた。
他の誰かにあの温かい笑顔を向け、大切な家族が出来る姿を想像するだけで、胸が焼けるほど苦しかった。
私にはそんな資格はもうない、でも愚かな私は考えてしまうのだ。
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