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決められた白紙
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向こうから断られるしか、覆らないだろう縁談であることは分かる…そう思いながら、父の執務室を出て歩いていると、ユーリと声を掛けたのはメルベールだった。
「メルベール…婚約おめでとう」
「ユーリ、ありがとう。驚いたでしょう?話そうと思っていたんだけど、ちゃんとしてからの方がいいと思って」
「良かったわね」
「でもユーリと一緒に結婚できるなんてこんなに嬉しいことはないわ」
「そのことだけど、私はオーリー様と」
「男爵家なんて駄目よ、ユーリは分からないかもしれないけど、始めから苦労するようなものなのよ。そんなの駄目なの」
「騎士として頑張ってらっしゃるわ」
「私はユーリが不幸になるのを見たくないの」
メルベールはどうか分かってと、私の手を力強く握っていたが、私は何も答えられなかった。そして、ミランス・オーリーからも、恐れていたことが起きた。
「ユーリ、婚約はなかったことにして欲しい」
「どうして、何か言われたの?」
「いや…でも侯爵家の縁談なんていい話じゃないか、幼なじみなんだろう。これからどうなるか分からない男爵家よりも確実な相手を選ぶべきだよ」
いつもの笑顔だったが、今日はいつものように温かい気持ちにはなれなかった。
「そんな、私はミランス様と一緒ならどこでも付いて行きます」
「ユーリには幸せになって欲しいんだ」
「もしかして、脅されたの?」
「……男爵家だからね、逆らうこと出来ない」
トスター侯爵家か、グラーフ伯爵家が圧力を掛けたのだろう。家のことを考えれば、彼の選択は正しい。責めることは出来ない。
「ミランス様は幸せになれるの?」
「幸せかはまだ分からないけど、騎士の夢を叶え続けるよ。君も頑張って薬師になって欲しい」
「分かりました、今までありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとう」
彼が私にそこまでの情があるとは思えないが、追いかけて、一緒に逃げてしまいたかった。でもそんなことをすれば、彼に、彼の家族に迷惑が掛かる。
私に出来ることは黙って去ることなのだろう。でも彼も同じだったらいい、そう思うことくらい許して欲しい。
ミランス様はお忙しくあまり会えなかったが、一緒に行った公園、一緒に座ったベンチ、一緒に食べたクレープ、今でも鮮明に思い出せる。
悲劇のヒロインなんて私には似合わないことはよく分かっている、でも今日だけはと、ただただ思い出の公園に行って、涙を流した。
婚約はユーリが了承しなくとも、勝手に決まっていた。ミランス様との婚約は最初からなかったかのように、彼に何を告げられていようがいまいが、関係ないのだ。
「ユーリ」
「…オーランド様。この度はおめでとうございます」
会えば挨拶くらいはするが、向き合って話すのはいつ以来だろうか、もう思い出せないほどである。正直、何と呼んでいいか一瞬迷ったほどだった。
「ああ、そちらも」
「ありがとうございます。メルベールをよろしくお願いします」
「ああ、それで私との婚約のことは聞いたか?」
「…はい、ですが」
「側近となれば、結婚は必要なのだ。気心の知れている方が都合がいい」
「そうですか…」
「ああ、私は立場上、留守にすることが多い。家を守って、務めてくれればそれでいい。難しいことではないだろう?」
訊ねたことはないが、オーランドが幼い頃にメルローズを見ていることが多く、好いているのではないかと思っていた。それでもオーランドが私でもいいと思い、ミランス様とも結ばれないことは分かっているが、私である必要もない、そう思えてならなかった。
「私は薬師になりたくて、勉強をして参りました」
「ああ、なればいいさ。領地もないから経営することはないし、社交もそこまで必要ないだろう」
本来なら良い条件と言えるのだろう、でも愚かな私はそうは思えなかった。
「メルベール…婚約おめでとう」
「ユーリ、ありがとう。驚いたでしょう?話そうと思っていたんだけど、ちゃんとしてからの方がいいと思って」
「良かったわね」
「でもユーリと一緒に結婚できるなんてこんなに嬉しいことはないわ」
「そのことだけど、私はオーリー様と」
「男爵家なんて駄目よ、ユーリは分からないかもしれないけど、始めから苦労するようなものなのよ。そんなの駄目なの」
「騎士として頑張ってらっしゃるわ」
「私はユーリが不幸になるのを見たくないの」
メルベールはどうか分かってと、私の手を力強く握っていたが、私は何も答えられなかった。そして、ミランス・オーリーからも、恐れていたことが起きた。
「ユーリ、婚約はなかったことにして欲しい」
「どうして、何か言われたの?」
「いや…でも侯爵家の縁談なんていい話じゃないか、幼なじみなんだろう。これからどうなるか分からない男爵家よりも確実な相手を選ぶべきだよ」
いつもの笑顔だったが、今日はいつものように温かい気持ちにはなれなかった。
「そんな、私はミランス様と一緒ならどこでも付いて行きます」
「ユーリには幸せになって欲しいんだ」
「もしかして、脅されたの?」
「……男爵家だからね、逆らうこと出来ない」
トスター侯爵家か、グラーフ伯爵家が圧力を掛けたのだろう。家のことを考えれば、彼の選択は正しい。責めることは出来ない。
「ミランス様は幸せになれるの?」
「幸せかはまだ分からないけど、騎士の夢を叶え続けるよ。君も頑張って薬師になって欲しい」
「分かりました、今までありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとう」
彼が私にそこまでの情があるとは思えないが、追いかけて、一緒に逃げてしまいたかった。でもそんなことをすれば、彼に、彼の家族に迷惑が掛かる。
私に出来ることは黙って去ることなのだろう。でも彼も同じだったらいい、そう思うことくらい許して欲しい。
ミランス様はお忙しくあまり会えなかったが、一緒に行った公園、一緒に座ったベンチ、一緒に食べたクレープ、今でも鮮明に思い出せる。
悲劇のヒロインなんて私には似合わないことはよく分かっている、でも今日だけはと、ただただ思い出の公園に行って、涙を流した。
婚約はユーリが了承しなくとも、勝手に決まっていた。ミランス様との婚約は最初からなかったかのように、彼に何を告げられていようがいまいが、関係ないのだ。
「ユーリ」
「…オーランド様。この度はおめでとうございます」
会えば挨拶くらいはするが、向き合って話すのはいつ以来だろうか、もう思い出せないほどである。正直、何と呼んでいいか一瞬迷ったほどだった。
「ああ、そちらも」
「ありがとうございます。メルベールをよろしくお願いします」
「ああ、それで私との婚約のことは聞いたか?」
「…はい、ですが」
「側近となれば、結婚は必要なのだ。気心の知れている方が都合がいい」
「そうですか…」
「ああ、私は立場上、留守にすることが多い。家を守って、務めてくれればそれでいい。難しいことではないだろう?」
訊ねたことはないが、オーランドが幼い頃にメルローズを見ていることが多く、好いているのではないかと思っていた。それでもオーランドが私でもいいと思い、ミランス様とも結ばれないことは分かっているが、私である必要もない、そう思えてならなかった。
「私は薬師になりたくて、勉強をして参りました」
「ああ、なればいいさ。領地もないから経営することはないし、社交もそこまで必要ないだろう」
本来なら良い条件と言えるのだろう、でも愚かな私はそうは思えなかった。
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