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夜会2

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「出来ました」

 王宮の侍女は優秀だ、何をさせられているのだと思いながらも、しっかりこなす。

「ありがとうございます」
「じゃあ、女の子ですからね、親指から行きましょう。痛いですけど、怖くはないですよ、一瞬ですからね」
「何、す」

 バッキッ

 身体強化をして、親指と人差し指だけで足の親指をいとも簡単に折った。

「ギャ、痛い、痛い、痛い!何するのよ」
「話したくなるためのお手伝いですよ。話しますか?続けますか?」
「だから、知らな」

 バッキッ

 食い気味に、もう片方の親指を折っている。

「痛い、痛い、痛い、何なのよ」
「どうですか?話したくなりましたか?」
「だから、知らないって言ってるでしょう」

 アレヴァーは何ともないような顔をしているが、内心はこの淡々とした様子に恐ろしさを再び感じている。アランズ公爵とルーフラン親子は目を見開いて、素晴らしいものを見ているかのような顔をしている。

 カナンはラシーネに目を細めて微笑むと、今度は足首に手を掛けた。

「あ、足首を折る気?」
「はい、女の子は我慢強いですから、どんどん強くなっていきますよ?手の指は拳ごと折ります」

 カナンは両手で握って捻じる動きをしており、そして男性よりも容赦がなかったのは、女性の方が我慢強いからだったとはと周りは思っていた。

「ままま、待って、話すわ…話すからやめて。姉に、貰ったの。これを飲ませればイチコロだと言われて」
「既に家族は拘束している」
「姉は家を出ています」
「どこにいる?」
「シーデ伯爵家です」
「すぐ拘束に向かわせろ」

 騎士団員たちが走り去って行き、再びアレヴァーとルーフランが問いかけた。

「動機は何だ?アランズ公爵令息と関係を持ちたかったのか?」
「そうよ!関係を持って、子どもが出来たと言えば、姉はそうやって取り入ったって言うから。だって、叔父に出て行くように言われていて…平民になったら貴族と結婚出来ないじゃない」
「姉も調べる必要があるな」
「結婚が延期になっているのなら、私ならすぐ結婚出来るのにと思ったの!」

 アレヴァーとルーフランの視線に、さすがに気まずいカナンは皆から目を逸らした。すると黙って見ていたアランズ公爵がラシーネに問いかけた。

「令嬢、君は先程、彼女の行ったことが出来るかい?」
「出来るわけじゃない!あんな酷いこと!痛いのよ、どうにかして!」
「ではアランズ公爵家には相応しくない。愛人でも要らない…君は魔獣に襲われて死ぬだけだ」
「ルーフラン様が守ってくれればいいじゃない」
「名を呼ばないでくれ、気持ち悪い」

 ラシーネはルーフランに一方的に話したことはあるが、ほぼ会話もしたこともないのに、声も出ないほど、ショックな顔をしていた。

「ルーフランが守るのは領民だ、自分の身くらい自分で守らなくてはならない」
「そんな…」
「それとも自殺願望があるのかな?カナンちゃん、最後は首だったかな?」
「ええ、死ぬかもしれませんし、後遺症が残る可能性が高いので、最後の首です。折ると結構いい音がしますよ」
「ひいいぃ、化け物」
「お褒めいただき、ありがとう」

 カナンは化け物だと言われ慣れている。母にも祖父母にも言われたくらいだ。

 ラシーネの姉・ホリアは伯爵家におり、嫡男に聞き取りを行うとラシーネが言ったように酩酊状態で、ホリアと関係を持ったようで、子どもが出来たと押し掛けて来て、責任を取るように迫られた。妊婦を放り出すわけにもいかず、だがしばらくすると子どもは流産したと言い、本当かどうか分からないが、愛人だと言って伯爵家に居座っていたが、追い出そうとされているところだった。

 拘束されて、姉妹は母親によって奉仕活動ではなく、ヤム王国で娘たちのために、辛い立場でも耐えて来たはずが、まさか憎むべき存在になっていたことにショックを受け、規律の厳しい修道院に入れられることになった。

 令息ではなく令嬢の方が盛るというのが、この国の恐ろしさである。


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お読みいただきありがとうございます。

ついに明日、最終話です。
ここまでお読みいただきありがとうございました。

よろしくお願いいたします。
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