上 下
28 / 51

建国祭3

しおりを挟む
 ようやく医者が到着し、消毒して、縫い、包帯を巻き、痛み止めを服用した。父だけはこちらを見ないようにしながら心配している。強運のおかげか、ドレスが赤いため、血の跡は目立たない。

「お嬢様!」「お嬢!」「カナン!」
「レモ、ありがとう。パドラも兄様も」

 ようやくレモとパドラが到着し、なぜかリガロまでいる。どこに行けばいいか分からない2人をリガロが案内したらしい。

「御無事ですか」
「今、縫ってもらったところよ」
「何があったんです?」

 事情を説明し、殿下が私に何かあったとは悟らせずに、包囲網を張り、使用人で先に帰った者は早番の者だけで、パドラに認識阻害をして貰いながら、給仕を探すことにした。他の皆はメイドを探している。

「いた、あの奥の眼鏡の女の子。さっきは眼鏡掛けていなかったわ」
「あれは、女性ですか、男性ですか」
「えっ?」
「バーストン姉弟のどちらかではないでしょうか。あの2人は近くに行かないと、どちらか分かりません」
「パドラ、捕まえて来てくれる?」
「承知!」

 パドラは標的の給仕に向かってどんどん迫って行って行き、子どもを担ぐように笑顔で連れ去っていった。

「あれ、認識阻害がないと、絶対逃げられるわよね」
「はい…」

 先程の客室に戻ると、アレヴァー殿下と父とルーフラン、そして嘘を見抜く異能がまた騎士の中にいる。メイドは見付からなかったらしい。リガロは母を連れて先に帰ったそうだ。

 給仕は重たい椅子に縛り付けられている。

「お嬢、男の子です」
「あら、時間が掛からないそうでいいわね」
「はい」
「父様、やっていいですか」

 カナンはいいよねと言わんばかりの穏やかな笑顔で、父親を見ている。

「片手でいけるのか?今日は殿下の許可がいるぞ」
「何をする気だ?」
「所謂、拷問ですね…」
「えっ?」
「領地にいるんですよ、拷問部だった者が…その者がカナンに教えたようでして、簡単な方法だけですよ。吐かせるためにですね、骨をですね」
「父様、拷問ではなく、お手伝いと言ったではありませんか!」

 話したくなるようにお手伝いという意味のお手伝いである。

「殿下、ハッキリ申し上げます!喋らなければ、娘が骨を折っていきます」
「それは…」
「今回、私が被害者ですよ?お手伝いですよ?」
「今回は許可していただけませんか」
「そうだな、被害者は君だからな」
「あっ、見ますか?外で待っていてもらっても構いません」
「見届けよう」「私も見届けます」

 給仕は既におぞましいやり取りが聞こえているために、脂汗が止まらない。

「誰に頼まれましたか」

 レモがテキパキと靴、靴下を脱がせており、横でパドラが僕がやるよと、小競り合いをしている。

「何も知りません」
「私にシャンパンを渡しましたね?」
「それは、はい」
「あの時、トレイの上にシャンパンは1つでした。私が狙いとしか思えない」
「偶然です」
「さっきは眼鏡を掛けていなかったのに、今は掛けている。どうして?目が悪いなら、たまたまってことはないでしょう?」
「疲れて来て、見えにくくなったので掛けただけです」
「じゃあ、お胸は?さっきはあったわ、膨らみが。おそらく、姉の方は今日、別ところにいるのね。私にシャンパンを渡す時だけ姉の振りをしたの?」
「違います」

 父は異能を確認して、一つ頷き、カナンはにっこりと笑った。

「お話したくなるようにしていきますね、痛いですけど、怖くはないですよ、一瞬ですからね」
「お嬢様、両足、消毒済みです。御無理はなさらないように」
「ありがとう」

 バキッ

「ギャッ」

 全く躊躇なく身体強化をして、親指と人差し指だけで足の小指を折り、血は出ないので、父も平気で見ている。

「小指から段階を上げていきますね、大丈夫、大丈夫。指というのは20本もありますからね。あとは首も3つありますから、話したくなったら手を上げてくださいね」

 バキッ

「ガ、ギャッ」

 アレヴァーは呆気に取られており、侯爵家では行われていたのかと思うと怖いが、おそらく賊などに行っていたのだろう。アレヴァーはルーフランはどう感じてているのだろうかと思って顔を見たが、カナンに釘付けになっている。どういう心境なのだろうか。

「はっ、話します」
「はい、ではどうぞ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。

ふまさ
恋愛
 伯爵令息のパットは、婚約者であるオーレリアからの突然の別れ話に、困惑していた。 「確かにぼくには、きみの他に愛する人がいる。でもその人は平民で、ぼくはその人と結婚はできない。だから、きみと──こんな言い方は卑怯かもしれないが、きみの家にお金を援助することと引き換えに、きみはそれを受け入れたうえで、ぼくと婚約してくれたんじゃなかったのか?!」  正面に座るオーレリアは、膝のうえに置いたこぶしを強く握った。 「……あなたの言う通りです。元より貴族の結婚など、政略的なものの方が多い。そんな中、没落寸前の我がヴェッター伯爵家に援助してくれたうえ、あなたのような優しいお方が我が家に婿養子としてきてくれるなど、まるで夢のようなお話でした」 「──なら、どうして? ぼくがきみを一番に愛せないから? けれどきみは、それでもいいと言ってくれたよね?」  オーレリアは答えないどころか、顔すらあげてくれない。  けれどその場にいる、両家の親たちは、その理由を理解していた。  ──そう。  何もわかっていないのは、パットだけだった。

処理中です...