上 下
16 / 51

面通し1

しおりを挟む
 ニュートラ王国からルビー・プロプランの婚約者、ジョセラ・シーバ公爵令息一行がプロプラン侯爵家にやって来た。

 プロプラン侯爵夫妻が頭を下げ、リッツソード侯爵、そしてカナンとレモ、父の従者も時間差で頭を下げた。騎士の中にパドラも混ざっている。

 当人のルビーは話し合いに混乱を招くだけだと、欠席となっている。

「この度は誠に申し訳ありませんでした」
「宰相まで来ていただけるとは、誠意と受け取りましょう」
「ありがとうございます」

 一行の中に昨日の女性はいた、別人の可能性もあったが本人だったようだ。カナンの強運なのか、相手が運が悪すぎるのか。

「可でございます」「隣に同じです」

 パドラも騎士の中でこくこくと頷いている。目立っているので、レモが眉間に皺を寄せたが、パドラはそんな顔も喜んでいる。

「どうにもならなければ、私にお任せください」
「任せたくはない」

 カナンの申し出にリッツソード侯爵は渋い顔をするも、表情を作り直した。

「それで結論は出ましたか」
「その前に、ハニートラップの件をご説明いただけますか」
「は?どういう意味です?」
「失礼、色仕掛けで対象を落とすことです。今回の場合は男性が女性をです」
「ルビー嬢へ行ったと言うのですか?」
「はい」
「そのような事実はありません」
「あなたではないと?」
「そのようなことをして、まさか慰謝料のためだとでも言うのですか」
「では、別の誰かということでしょうね。利がある誰か、心当たりはありませんか」
「ありません」

 リッツソード侯爵は騎士に振り返ると、何かを確認した。

「昨日、ルビー嬢と関係を持っていた護衛騎士と、そちらの秘書であるメディエド・バンス様が一緒にいるのを見た者がおります」
「メディエドと?」
「知りません、人違いです」
「ですが、お金も受け取っております。彼は妹の原因不明の嘔吐症の治療費のために、メディエド・バンス様に頼まれて、ハニートラップを行ったようです。彼はルビー嬢の想い人に似ていたそうですから」

 護衛騎士トース・ビプロは、父を亡くし、最近母も亡くし、妹イリーと2人家族だった。妹はまだ10歳で、精神的なものなのか、環境の変化のせいなのか、嘔吐するようになり、ときには血を吐くこともあった。病院に行くも原因不明とされ、様々な薬を出して貰ったが、一時的に治まることはあっても、また嘔吐を繰り返し、下っ端の騎士の給料では薬代で生活に困るようになった。

 入院を勧められたが、お金が足りない。その間にも嘔吐が起こり、どうすればいいのだと思っているところに、メディエドにスカウトされた。確かにプレイボーイであるラベック・プレモに似ていると何度か言われたことはあった。

 任務の最中は、妹は入院させるからと言われ、妹のためにもこれ以外に方法はないと頷いてしまっていた。

 プロプラン侯爵家には元々護衛をしていたこともあり、無事に採用され、ルビーお嬢様とも話すことも多かった。想い人のことも聞くこともあった。そして、想い人に無碍に扱われて、泣きついて来た際にルビーお嬢様の方から抱いて欲しいと言い出し、不貞を犯した。それからは慰めのように何度か不貞を犯した。

 そして、あのサマーパーティーの翌日、朝帰りしたルビーお嬢様はラベック・プレモと一夜を共にしたと言い、邸が混乱している内に逃げ出した。

 依頼主からも文が届き、お金をを受け取って、安堵しているところを何者かに拘束された。依頼主に消されるのかと思ったが、現れたのは可憐ではあるが、目の笑っていない宰相の娘だった。

「本当なのか、メディエド!」
「違います!ジョセラ様、誤解です」

 リッツソード侯爵はまた騎士に振り返ると、何かを確認した。騎士の中に嘘が見抜ける異能を持つ者を紛れ込ませている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

処理中です...