悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

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子爵の妹3

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「そうでしたか…私も正直、これが当時であれば、フォンターナ家に慰謝料を払い、足りない分はシャーリンが仕出かしたことですから、お金になる相手に嫁がせるか、身売りさせていたと思います」
「そうか…」

 だが、もう若くもなく、不貞を犯すようなシャーリンは価値はないが、当時であればまだ何とかなかったかもしれないとベリックも考えていた。

 バトワスも自分がまともだったら、当時、そうなるべきだったと思った。

「慰謝料として、大公閣下夫人にということになるのでしょうか?」
「いや、大公閣下夫人は罰を求めていない」
「そうなのですか?」
「ああ、だが、大公閣下は違う。ずっと、酷く怒ってらっしゃった。そして、お金以外でという条件だったのだ」

 ベリックはそれならば、シャーリンを強制労働にでもして欲しかったと思った。

「だが、罰となれば、お金が一番分かり易い。労働としても、見えるわけではない。払えなければ労働とすればいいというのが、父上の判断だ。慰謝料分はあちらに渡すという可能性もなくはないが、お金には困ってらっしゃらない」

 羨ましい話ではあるが、そもそもフォンターナ家はそうであった。ベリックは当時、シャーリンがジェフ様と恋仲になっていたことは、何も知らなかったのである。

 大丈夫なのかと言おうとした時には、事は起こった後であった。

 フォンターナ家だけでもお金持ちの上に、どれくらいの資産があるのか分からないが、レオラッド大公家がお金に困っているとは思えない。

「来るべく日が来たということだろう…本来、あのままフォンターナ家が出て行かなければ、陛下が私も含め、罰を与えていたはずだ」

 シャーリンはジェフ様と結婚し、何の罰もなくて良かったと思っていたが、あのままフォンターナ家があったなら、フォンターナ家の手前、罰されていただろう。

「大公閣下は容赦のない方だそうだ。しかも、愛妻家。その妻が酷い目に遭い、その国に薬を輸入してくださっただけでも、感謝しなければならない」
「はい…」

 私情を挟むなとは言えない話である、しかもシンバリア王妃陛下のやらかしもあり、断られても仕方がなかっただろう。

「慰謝料分は、当時であればご両親が支払ったことだろう。分割も半分はご両親も含めてもいい」
「両親と相談してもよろしいでしょうか?」

 今ではシャーリンを怒っているが、当時はジェフとシャーリンを認めており、慰謝料から逃げたのは両親である。

「ああ、明日また来てくれるか?大公閣下に報告をしなければならないから、早い方がいい」

 オイスラッドは自分たちのことはすぐにレオラッド大公閣下に報告した、そしてすぐに大公閣下夫人へのことを報告するとしていた。

「承知いたしました」
「あと、妹君にということであれば、こちらで給金の高い仕事を聞いてみることも出来る。甘い仕事ではないだろうがな」
「是非、お願いします。あの子はきっと逃げ出します。逃げられないような仕事をご紹介いただけると有難いです」
「分かった」

 バトワスは兄というだけで、ベリックも苦労をしているのだろうと強く感じた。

 ベリックは邸に帰って、すぐに両親である父・カッシャー、母・マレーラに話をすることにした。

「何の話だったんだ?」
「シャーリンに聞いていないのですか?」

 せめて王宮に行っている間に、自分で説明くらいしているかと思っていた。

「聞いたのだけど、ベリックに話したって寝てしまって…妊婦だから眠いそうなの」
「フォンターナ家のことで、慰謝料を請求されたんですよ。明日までにバトワス王太子殿下に、どうするか話をしに行かなくてはなりません」
「は?」
「え?」

 マレーラはそのまま言葉を失ったが、カッシャーはまた大きな目を、零れ落ちそうなほど見開いていた。
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