悪意か、善意か、破滅か

罰３

　問題を起こしたのはジェフとシャーリンであるが、加担したことは間違いない。バトワスが肩入れしたことは間違いないが、爵位の高い者に賛同した、協力したのならともかく、当時は伯爵令息と子爵令嬢であり、脅されて行っていたわけではない。

　友人たちも侯爵家、伯爵家の者たちであった。同級生に公爵令息もいたが、注意をすることはなかったが、加担しなかった。

　だが、既に借金を抱えるシャーリンだけは声を上げた。

「エルムさんに、謝罪では駄目なのでしょうか？」
「はあ…大公閣下夫人だ！」

　シャーリンは当時エルムと呼んでおり、さんを付けて満足しており、注意をされた意味も分かっておらず、首を傾けていた。

「子爵令嬢が大公閣下夫人の名前を呼べる立場にない！そもそも、伯爵令嬢だったのに、子爵令嬢がそんな風に呼んでいたのか？友人でもない者が？今の呼び名が何をしていたのか、物語っておるな！」

　皆がシャーリンを睨み付け、さすがにシャーリンも間違ったのかなとは思っていた。いつもならジェフがフォローしていたが、無視を決め込んでいる。

「大公閣下夫人は会う気はないし、そなたの謝罪に価値もない。そもそも罰を望まれたのは大公閣下夫人ではなく、レオラッド大公閣下だ」
「では、大公閣下に謝罪をします」
「お前などに大公閣下が会うわけがないだろう…」
「なぜですか…」
「もう！ちょっと、シャーリン、黙りなさい！」

　オリビアも事実を伝えようと必死になっていたが、恐れを知らないシャーリンの目に余る発言に叱りつけた。

「オリビア様…酷い！そんないい方しないでもいいじゃないですか」

　シャーリンは昔のように、か弱い素振りをしたが、既に当時より増えた体重に、妊娠によってまん丸になっていた。

　昔ならばジェフに隠れていたが、隠れるジェフは無視。物理的にもシャーリンはもうジェフに隠れられる体形ではない。

「もういい、ガルッツは発言を許可しない。謝罪も、ご本にもお金には困っていないから、別の罰をと言われたのだ」
「お金には困っていないのなら！」
「ガルッツ！発言を許可しないと言っただろう？何を言われても、罰は変わらない！いい加減にしろ！」

　オイスラッドはさすがに妊婦に声を荒げたくはなかったが、あまりに愚かな様子に怒鳴り付けた。

「そんな…」
「子どもを出産してからでいい、しっかり働き、払うべきだった物を払いなさい」
「でも、そんなすぐには」
「一生掛かっても払いなさい」
「そんな…ジェフ…」

　思わずジェフを呼んだが、ジェフは反応すらしなかった。当時のマクローズ伯爵家ならば、慰謝料を支払い、シャーリンの分も払うことになっただろう。

　だが、今は子どもたちは交流があるが、元夫婦は既に他人である。しかも、マクローズ伯爵家も当時とは財政状況も違う。

　いずれ請求されるならば、当時であった方が、どれだけ良かっただろうと思うことだろう。

「ねぇ、ジェフ」
「何でしょうか？」
「私、困っているの…」

　別の男の子どもを宿したシャーリンが、上目遣いで訴えたが、ジェフは表情も変えなかった。オリビアたちはその様子を怪訝な目で見つめた。

「私に言われても困ります」
「そんなこと言わないで…ジェフならどうにかしてくれるでしょう？」
「それはありません、別の相手を探してください」
「別の相手って…」

　これがまだ若い令嬢だったならば、お金を出してくれる相手に嫁ぐなり、やり方はあっただろう。だが、夫以外の子どもを孕んでいるシャーリンに、お金を出してくれる相手がいるのか。

「もし払わなかったら…」
「君のせいでガルッツ子爵家は、お取り潰しとなるのではないか」
「そんな！」

　ガルッツ子爵家には罪はなくとも、シャーリンがいるというだけで、除籍してもいたというだけで責任を取らされるだろう。

　ジェフは今更と思ってしまったが、全て間違っていたことを実感した。