悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

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罰2

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「戻って来るはずなどないだろう」
「ですが…あちらも商売ではありませんか…アニバーサリーだけでも残せば良かったのです」

 オリビアは自分の欲のためであったが、オイスラッドはアニバーサリーだけが残っていたとしても、今回の薬の輸入に協力したとは限らない。

「娘を冷遇するような国に、どうして残さなくてはならない?」
「それは…でも、マクローズ伯爵、ご家族の仲が悪かったのでしょう?」

 急に話を振られたジェフは、驚いたが、『エルムはフォンターナ家で、大事にされていない』と言ったのは自分であることは間違いなかった。

「当時はそう思っておりましたが、出て行ったということは、そうではなかったのでしょう」
「っな!私はあなたがそう言ったから」

 オリビアはジェフがエルムは家族に愛されていないと言っていたから、何をしてもいいと思っていた。

「オリビア嬢、冷遇されている娘だからいいと思っていたのか?」
「…っ」
「図星か、最低だな」

 オリビアは結局、離縁の際も義両親に事実と言われただけで、強く責めらるようなことはなかった。ゆえに元義父に、冷たい声で言われ、胸が苦しくなった。

「冷遇されているから、何をしてもいいなどと考えたことで、このような横暴な真似が出来たのだな。それなのに、フォンターナ家に出て行って欲しいなどとは言っていない?アニバーサリーを残せ?お前が親ならそうするか?」
「…あの、それは」

 離れ離れにはなったが、母親である。離縁されたことで、冷静になったオリビアは言葉に詰まった。

 ズニーライ侯爵家なら、国を出て行くまではしないかもしれないが、黙って受け入れるというのは難しいかもしれない。

「でも、貴族なら」
「愛する娘を理不尽な理由で王太子に目を付けられ、年上の令嬢や令息に非難され、残る理由がなかったんじゃないか?」
「でも、出て行くことは…伯爵家ですよ?」

 男爵家などなら、まだ分かるが、伯爵家ともあろう者、しかも父親は騎士団長で、当時は知らなかったが、アニバーサリーという大きな商会があるのに、わざわざ出て行くなどと考えることもなかった。

「だが、皆でエルム・フォンターナを社交界に居場所をなくさせただろう?」
「そんなことはありません。何度も言いますが、私たちは別に令嬢も、フォンターナ家も、追い出したかったわけではありません」

 バトワスは同席しているが、今日は余程のことがない限りは、口を開くつもりはなかった。黙ってオリビアの話を聞いていたが、その話はまるで陛下に言った自分と同じであり、愚かな夫婦だったのだと実感し、改めて反省をした。

「だが、結果的にはそうなったのだ。この国で彼女は生きて行けたか?」
「行けたと思います」

 オリビアはあまり目を引く令嬢ではないが、婚約が破棄になったからと言って、別の相手と結婚すればいいのだから、何の問題があるのかと思った。

「お前たちに嫌がらせを受けて、今は違うが、王太子夫妻となってか?」
「あ…」

 いなくなっていたので、気にしていなかったが、王太子夫妻に嫌われているということになる。それは、令嬢として、価値が下がる…価値がないと言っていい。

 お金はあっただろうから、結婚相手はその手のお金目当てになっただろう。

「エルム・フォンターナがいたとして、お前たちは冷遇しただろう?違うか?」
「それは…」

 あれからも冷遇したかは分からないが、好意的に接することはなかっただろうと、オリビアも自覚があった。

「我々も責任がある、ゆえに私、王妃、王太子の予算の半分を支援金に充てる」
「っな…」

 そう言われてしまえば、皆も払うしかない。

「承知しました」

 ジェフは頭を下げて、受け入れた。そもそも、払うべきものすら、払っていなかったのはマクローズ伯爵家の方であることを理解していた。

 そして、オリビアも他の友人たちも同じように頭を下げた。
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