悪意か、善意か、破滅か

優先

　シンバリアは連絡があってから、何が何でも母・リアットを優先的にと考えており、オイスラッドは従うことが約束だと、王妃ならば民のことを考え、おかしな真似をするなと伝えていた。

「あなた！」

　母のことで頭がいっぱいのシンバリアは、金切り声を上げた。

「何かありますか？」
「いいえ」

　オイスラッドはリアットを優先することは出来ないと判断していた。もし、王族であれば大義名分があったが、リアットは前侯爵夫人である。

　貴族は他にも重症の者もいる、優先は出来ない。

　シンバリアにも説明をしていたが、聞く耳を持たず、あなたの実母ではないから、そんなことが言えるのだと言われれば、黙るしかなかった。

「重症者で、優先して欲しい者がおります」
「王妃っ！」
「医師をボアラー侯爵邸に派遣してください！駄目なら薬を先に渡してください。私が飲ませます」

　シンバリアはオイスラッドを背にして身を乗り出し、医師に訴えた。

「動ける方は病院に集まって貰い、医師が優先度を判断し、順番に行います。万が一のことがあっても、重症者が優先です」
「医師はいいですから、私が飲ませます」
「いい加減にしなさい」
「薬の使い方をご存知なのですか？」
「それは教えてくれれば大丈夫です」

　王妃のあまりの必死さに医師も、危機的な状況なのではないかと考えた。

「危険な状態ということですか？」
「そうです！」
「分かりました、でしたら医師を派遣しましょう」
「はい、お願いします」
「いえ、そのようなことは」
「あなた、行ってくれると言っているのだから」

　シンバリアは邪魔しないでと言わんばかりに、オイスラッドを睨み付けた。

　そして、ボアラー侯爵邸に医師が派遣され、リアットを診察し、薬を服用させるも、眉間に皺を寄せることになった。王妃陛下ともあろう者が、条件を守れないと判断した瞬間だった。

　リアットは年齢的なこともあって、弱ってはいたが、最上級の看護をされており、危険な状況ということは全くなかった。

　重症者は意識のない者もいるために、まず注射で投与、その後に薬を服用させることになっていた。

　リアットが薬を服用だけで済んでいる時点で、優先度は低かった。わざわざ赴いたので、服用はさせたが、王妃の母親だと分かって、酷く落胆した。

　その後は王都は勿論、各領地も回って、本物の重症者を先に投与し、薬も服用させていった。

　そして翌日、副作用などがある場合は申し出る様に言い、副作用のある者もいたが、そちらの対応も行った。

「こちらが１００人分の内服薬です。それ以降も御望みであれば、カイニー王国と話をしてください」
「これからは輸入が出来るのではないのですか？」
「それは私が答えることは出来ません」

　そう伝えて、医師たちはアジェル王国を去った。

　オイスラッドは、その言葉に酷く嫌な予感がした。シンバリアも、バトワスも、リアットが薬を服用したことで、良かったと今のことしか考えていなかった。

　医師たちはアジェル王国の王妃は民よりも、高齢ではあったが、重症者ではない自身の母親を優先するような方であると国王に報告を上げた。

　カイニー王国は王族ともあろう者が約束を反故にした、我が国は以降の取引は遠慮すると判断し、返事があった。元々、カイニー王国とはペーリー・オドライズ侯爵令嬢の留学の一件で、良く思われていない状況であった。

「何てことだ…」

　嫌な予感が的中した瞬間であった。

「シンバリア！君のせいでカイニー王国から輸入は出来なくなった」
「どうして私のせいになるのよ」
「君は義母上を優先したからだろう」
「だって、そんなの当たり前じゃない！」

　気持ちは分かるが、医師も助けないと言っているわけではなかった。にもかかわらず、シンバリアはリネットを優先して欲しいと発言したことになる。