悪意か、善意か、破滅か

過去の過ち２

「そのつもりだったのかもしれないが、生きているじゃないか。しかも、結局、離縁した。私は正直、二人を恨んでいる」
「それは結果論で…」
「自分本位の考えで、一家を追い出し、不貞行為で離縁をか？ふざけるな！」
「ジェフも追い出すつもりなど…」
「あのまま、エルム・フォンターナが伯爵令嬢として生きても、国に居場所はなかっただろう。お前たちのせいでな！」
「それは…」

　確かに私たちは厳しく言い過ぎたが、令嬢の方から婚約を解消してくれていれば良かったと思っていた。だが、私たちに嫌われた令嬢となれば…避けられることになったかもしれない。

「ですが、一家で出て行かなくても良かったのではありませんか」
「ひとりの令嬢の人生を潰して置いてか？」
「っあ…でも、ジェフは仲のいい家族ではなかったと」
「だから何だ？だから、出て行くはずなどないと思っていたのか？お前にオズワルドの考えが分かるのか？」
「可愛がられていないようだったと」

　愛されていない子どもだから、婚約解消も仕方ないと思ってくれるのではないかと考えていた。

　マクローズ伯爵夫妻の方は、アニバーサリーによって、裕福なフォンターナ家と縁付きたいという思いであることは分かっていたので、令嬢が言い出すように誘導したのである。

　それでもなかなか婚約解消とは言い出さず、いよいよあの夜会で、破棄とすると言うことになったのである。

「だから何だ？オズワルドから聞いたのか？」
「ち、違います…」

　父親のオズワルドのことは知っているが、騎士団長という立場を担っていることくらいしか知らない。勝手に家庭よりも職務だろうと考えていた。

　母親もアニバーサリーがあることから、まさか閉じてまで出て行くとは考えられなかった。

「いつもひとりで…家族も周りにはいませんでした」
「それはオズワルドも、夫人も、ジェラルドも忙しかっただけだろう？」

　正確にはエルムは一人ではなく、きちんとビアターナ男爵家、ソターナ男爵家の人間が側に付いていた。だが、王太子たちは認識していなかったのである。

「勝手に鵜呑みにしただけだろう！」
「…前伯爵も同意したのですか？」
「ああ、全員の総意であった。ジェラルド・フォンターナも、すぐさま辞めたさ」
「っ」

　ジェフが愛されていないと思っていただけで、とても愛されていたのだろう。そんな令嬢を私たちは、追い込んでしまったのか。

「出て行くべきだったのは、二人の方じゃないか？そうなっていれば、薬もすぐに義母上にも提供が出来たかもしれないな」
「っっっ」

　バトワスもオイスラッドが冗談で言っているのではないことは、分かった。

　ジェラルド・フォンターナのことはかもしれないだが、確かにアニバーサリーがあれば、薬は手に入ったのではないかと感じていた。

「不誠実だったとは思っています」
「傷付けたのはマクローズ伯爵と、ガルッツ子爵家の令嬢だが、お前もオリビアも、お前の側近も一緒になって、糾弾したのだろう？」
「それは…」

　オリビアは率先して、糾弾していた。私も側近も、何の力もない伯爵令嬢を追い詰めたのか。

「年下の令嬢を、王太子が一緒になって糾弾するなど、恥ずかしいと思わないのか？」
「…はい、彼女は何も悪くないです」
「お前が関わったことで、フォンターナ家から見限られたと私は思っている」
「…」

　王太子という立場を利用していながらも、自分が関わったせいだとは思っていなかったバトワスは言葉を失った。

「義母上に万が一のことがあったら、己を恨むんだな」
「…はい、申し訳ありませんでした」
「もう遅い！」
「…はい」

　バトワスは自分の過去の過ちを今一度、思い返すことになった。そのせいで祖母を助けることが出来ないかもしれない、いくら王族でも命は助けられない。