悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

文字の大きさ
上 下
81 / 186

流行り病

しおりを挟む
「薬が効かないのか?」
「はい、呼吸困難になっている者や、意識がなくなっている者が増えております」

 国王であるオイスラッドは、頭を抱えていた。

「ハビット王国、カイニー王国、トリンス王国、アーキュ王国、ドリーツ王国、ヒューズリン王国、オルタナ王国でも同じような症状が出ているとのことです」

 オイスラッドはハビット王国にまさか?とは思ったが、王家には感染した者はおらず、一番関わった調査員たちの中にも感染者はいない。

 だが、貴族や平民に関わらず、徐々に広がっている。

 平民は家族内で感染が広がっていることから、貴族のように邸が広くないことが原因かと、感染者は病院や施設に移す手段も取ったが、大丈夫だからと行かない者もおり、重症化する者も増えていった。

「そうか…薬はどうなんだ?」
「はい、どうやら開発が進められているという話と、既に出来ているという話も出ていますが…どちらの国なのか分かっておりません」

 まだアジェル王国では混乱が始まったばかりで、情報が錯綜していた。

「うちはどうなんだ?」
「まだ全く進んでいません」
「輸入するしかないが、情報を集めてくれ」
「承知いたしました」

 これまでも新たな流行り病などは、他国では起こっていた。だが、アジェル王国では流行ることはなかった。

 ある意味、天候が変わって保養地とは呼べなくなったアジェル王国には、他国からやって来る者がほとんどいない影響もあった。

 だが、王子や王女たちが留学したように、他国に働きに行ったりする者が増えたことで、流行り病がアジェル王国にも広がり始めた。

 軽症者は薬は効かないものの、回復していたが、貧血の後遺症が出ていた。

 バトワスが留学している息子たちにも手紙を出すと、オークリーの留学先であるヒューズリン王国、パベルの留学先であるアーカス王国でも、流行っているという。

「薬はどうなっているのだ?」
「はい、完成しているという話ですが、他の国も欲していますから、まだどこの国が開発に成功したのかが分かっておりません」
「情報操作か」
「ええ、おそらくそうだと思います」

 外交担当が色んな国に問い合わせをしたが、あの国じゃないか、分からないと、この国だという確信は得られなかった。

 困っているのはお互い様の上に、アジェル王国は現在、軽んじられていることも分かっている。

「いや、それでも私からも他国に伺ってみよう。それしかない」
「よろしくお願いいたします」

 オイスラッドも、他国に薬のことを問い合わせることにしたが、まだ開発中であるという返事であった。

 だが、その情報は意外なところから、もたらされることになった。

 陛下宛てに手紙を書いて来たのは、パベル第三王子であった、薬の開発に成功しているのはカイニー王国とオルタナ王国で、どちらも効果があるとのことだった。

 すぐさま、どちらの国にも薬を譲って欲しいと手紙を送り、使者も送ったが、入国に時間が掛かるのは仕方なかったが、まだ開発中という返事であった。

 確かに焦って、パベルの話の裏取りはしていなかったが、パベルは内密に聞いたことであるから、間違いないと書いていた。

 使者もどこの国も困っている、成功すれば独り占めしたりしないと言われれば、国に戻るしかなかった。

「分かっているが、死者も出ているのだろう」
「はい…」

 重症化して、命を落とす者も増えていた。

「困っているのは他国も同じなのも分かっている、我が国だけがないがしろにされているわけではないんだな?」
「おそらくですが…」
「ああ…」
「強い商会でもあれば、また違ったのかもしれませんが」

 本来、薬は紹介から手に入れている。

 ゆえに商会から繋がりで、手に入れるという方法もあったが、アジェル王国に強い商会はなくなってしまったままである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どんなに私が愛しても

豆狸
恋愛
どんなに遠く離れていても、この想いがけして届かないとわかっていても、私はずっと殿下を愛しています。 これからもずっと貴方の幸せを祈り続けています。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

欲しがり病の妹を「わたくしが一度持った物じゃないと欲しくない“かわいそう”な妹」と言って憐れむ(おちょくる)姉の話 [完]

ラララキヲ
恋愛
 「お姉様、それ頂戴!!」が口癖で、姉の物を奪う妹とそれを止めない両親。  妹に自分の物を取られた姉は最初こそ悲しんだが……彼女はニッコリと微笑んだ。 「わたくしの物が欲しいのね」 「わたくしの“お古”じゃなきゃ嫌なのね」 「わたくしが一度持った物じゃなきゃ欲しくない“欲しがりマリリン”。貴女はなんて“可愛”そうなのかしら」  姉に憐れまれた妹は怒って姉から奪った物を捨てた。  でも懲りずに今度は姉の婚約者に近付こうとするが…………  色々あったが、それぞれ幸せになる姉妹の話。 ((妹の頭がおかしければ姉もそうだろ、みたいな話です)) ◇テンプレ屑妹モノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい。 ◇なろうにも上げる予定です。

妹から私の旦那様と結ばれたと手紙が来ましたが、人違いだったようです

今川幸乃
恋愛
ハワード公爵家の長女クララは半年ほど前にガイラー公爵家の長男アドルフと結婚した。 が、優しく穏やかな性格で領主としての才能もあるアドルフは女性から大人気でクララの妹レイチェルも彼と結ばれたクララをしきりにうらやんでいた。 アドルフが領地に次期当主としての勉強をしに帰ったとき、突然クララにレイチェルから「アドルフと結ばれた」と手紙が来る。 だが、レイチェルは知らなかった。 ガイラー公爵家には冷酷非道で女癖が悪く勘当された、アドルフと瓜二つの長男がいたことを。 ※短め。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

笑わない妻を娶りました

mios
恋愛
伯爵家嫡男であるスタン・タイロンは、伯爵家を継ぐ際に妻を娶ることにした。 同じ伯爵位で、友人であるオリバー・クレンズの従姉妹で笑わないことから氷の女神とも呼ばれているミスティア・ドゥーラ嬢。 彼女は美しく、スタンは一目惚れをし、トントン拍子に婚約・結婚することになったのだが。

婚約破棄した令嬢の帰還を望む

基本二度寝
恋愛
王太子が発案したとされる事業は、始まる前から暗礁に乗り上げている。 実際の発案者は、王太子の元婚約者。 見た目の美しい令嬢と婚約したいがために、婚約を破棄したが、彼女がいなくなり有能と言われた王太子は、無能に転落した。 彼女のサポートなしではなにもできない男だった。 どうにか彼女を再び取り戻すため、王太子は妙案を思いつく。

【完結】ずっとやっていれば良いわ。※暗い復讐、注意。

BBやっこ
恋愛
幼い頃は、誰かに守られたかった。 後妻の連れ子。家も食事も教育も与えられたけど。 新しい兄は最悪だった。 事あるごとにちょっかいをかけ、物を壊し嫌がらせ。 それくらい社交界でよくあるとは、家であって良い事なのか? 本当に嫌。だけどもう我慢しなくて良い

処理中です...