悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

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再調査8

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 その後は何かあれば、質問などを受けながらという形になり、トーマス研究者はバトワスも伝えた天候が変わった前年は急に強い雨、嵐のようなことが他の年より多かったという点が前兆だったのではないかと、考えていた。

 だが、ハビット王国の今ある資料では同じとは言えない。

 その際の状況を詳しく知りたいということから、当時の天候などの資料の写しを預かり、自国で調べることになった。

 トーマスは前兆と同時に、警告のようなもの、天候が変わるきっかけだったのではないかとも考えていた。

「トーマスはやはりそこが気になるのね」
「ええ、強い雨や嵐もですが、気温も下がっているのです」
「雨のせいではないの?」
「そうとも言えますが、必ず気温が五度以上下がっているのです。十度下がっている日もあります」

 当時のアジェル王国でも、雨のせいだと思っていたのではないかと、トーマスも考えていた。

「寒い季節ではなかったのよね?」
「はい、温かい季節だったはずです。異常気象と言っていいと思います。体調を崩した方もいたようですが、気温差で無理もないことだったでしょう」
「そうね」

 温かい季節であったなら、薄着だった可能性も高い。バトワスも夜会の際にと話していたことから、令嬢たちはドレスだったのなら、冷える装いである。

「もしかしたら、我が国でもあったかもしれない」
「でも、調べようがないのでしょう…?」

 そんなことがあれば、既に聞いていたはずである。

「はい、でもこちらであったことは他に何があったかも分かりますから、天候ではない部分で何か一致するようなことがあるかもしれません。例えば、風邪をひくようなものが多かったとか」

 トーマスは天候については調べ尽くしており、頭に入っている。

 だが、天候以外のことはあまり覚えていない、ゆえにもしかしたら、一致するようなことがあるのではないかと考えていた。

「そういうことね」
「ええ、病気にも一通り調べたはずですが、原因までは覚えておりませんで、そこに冷えや雨などが原因とするならば、ハビット王国でもあったかもしれないと思いました」
「そうね、私も覚えていないわ」

 メーリンも再度、過去の前後の年を調べたが、病気については医師が記録を多く残しており、あったかもしれないとしか覚えておらず、資料も持って来ていない。

「メーリン殿下はいかがですか?」
「私は出生率のことが気になっておりましたが、我が国とは決定的に違うことが分かったので、参考にするというのは難しいかと思っていたところです」

 恋愛結婚はまだしも、女性の性への積極性、男性は精力剤を服用していることは報告するが、参考に出来るような結果だと思っていた。

 淑女であれと教えられた令嬢に、今後は必要な事なのかもしれないが、積極的になるように言うことはなかなか難しいのではないかとも思っていた。

「そうですか…出生率の問題も深刻ですからね」
「ええ」
「それでも、わが国だけでは何も変わらなかったことが、変わるかもしれません」
「ええ、そうですわよね。頑張りましょう」

 メーリン王女殿下たちは、何か分かったことがあれば、すぐに報告をしますとバトワスたちに挨拶をして、ハビット王国へ帰って行った。

 今回は、バトワスは何度か必要なことはないかと訪ねて、話をしていたが、王子や王女とも、特に関わることもせずに、無事に帰国することが出来た。

 アッシュはオークリーと同じように、どこかでメーリンと話せるのではないかと思っていたが、食事はおろか、会う機会もないまま、メーリンは帰って行ってしまい、密かに落ち込んでいた。

 帰ってしまってから、アッシュはバトワスに問い掛けた。

「どうして、関わりがなかったのですか?」
「調査に来られていると、話していただろう?」
「食事くらいしても良かったのではありませんか」
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