悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

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再調査6

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「良いお考えだと思います」

 国には人がいないと始まらない、この先も大変なことはあるかもしれないが、支え合って行けたらいいとメーリンも思っている。

「ありがとうございます。ただですね、そうだと仮定しても、上手く行っているとは思えないのが現状です。すみません、情けないことを申しまして」
「いえ、私共も何か役に立てればと思っております」
「よろしくお願いいたします」

 メーリンはルイズもきっと、自分たちと同じように調査をしては何も得られずということを繰り返し、それでも止めることは出来ないと思っているのではないかと、今まで以上に共感した。

 そして、自国のためにも、アジェル王国のためにも、何か手応えを感じたいと、さらに気持ちを引き締めた。

 続いて、次は農作物、病気、食事、流行った物にも目を通した。

「農作物はやはり、天候の影響ですね」
「はい、雨が減りはしましたが、集中的に降ることもありましたので、収穫が出来なかったり、実らなかったりと…対策をしておりませんでしたので」

 まさかここまで天候が変わるとは思わず、元に戻るだろうと考えていた者もいる。対策をしていた者ですら、対応が出来ず、この年の収穫量は最低であった。

「病気も気になるようなものはありませんね」
「はい、季節の病はありますが、特に新しい病などは起こっておりません」

 アジェル王国も例年通りの病は起こりはしているが、流行り病は起こっていない。

「我が国も、記録を読む限りではありますが、同じような状況です。天候が変わって、爆発的に死者が増えたようなことはありませんでした」
「そうですか」

 体が慣れずに、受け入れられずに、体調を崩した者は一定数いたが、死者が増えたわけではない。ある意味、両国ともに、良かったというべきところである。

「食事は変わったのですね」

 何々が食べられなくなった、生で食べられなくなった、スパイスがなくなって味付けを変えたなどの記載がある。

 メーリンも、ハビット王国でも過去の文献に、育てられなくなって、食べられなくなったということが文献に書いてあったことを思い出していた。

「それは、ほとんどがアニバーサリーが閉店したからです」
「ああ、そういうことでしたか。物理的に手に入れられなくなったのですね」

 今の時代なら商会に頼めばいい、他国で食べればいい、購入すればいいのではないかと思ったが、商会がなくなって、購入が出来なくなれば、変えざる得ないだろう。アニバーサリーが、生活に密着していた商会だったことがよく分かる。

「その通りです」
「流行ったドレス、宝飾品などもそうでしょうか?」
「はい、概ねそうです。簡単には手に入らなくなりましたので」

 アニバーサリーが抱えていたデザイナーがいなくなり、注文も出来なくなった。

「輸入はしていないのですか?」

 ハビット王国も、輸入に頼っている部分は多い。

「した物もありますが、最低限となっています」

 フォンターナ家のこと、アニバーサリーが撤退したことを知られていたために、良い返事は貰えない、吹っ掛けられるということも起きたが、何とかいくつかの生活必需品はどうにか輸入することが出来ている。

 個人で輸入するほどの財力はあった貴族もいたが、輸入の伝手がなく、お金に物を言わせて、輸入しようとしたが、船までは持っておらず、断られている。

 このことが原因で、他の貴族も個人的に輸入を試みたが、同様に断られている。

 それでも、知り合いに頼んでこっそり送って貰ったりしている者は、少なからずいる。だが、公にしないのはあげたり、売ったりするほどはないということである。

 そして、流行った物という曖昧な項目に目を通すことにした。

 わざわざ書いてはいないが、婚約の解消と、恋愛結婚と書かれるべきだろうと調査員たちは密かに思っていた。
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